1章10話 晴天の霹靂
ジュナに学校へ送ってもらい身代わりとすり替えてもらうと、丁度チャイムが鳴り、一限目の授業が終わりを迎えた。
休み時間が始まってすぐ、思っていた通り咲人が俺の席のところに来たが、今日は咲人だけでなく普段俺とあまり話さないクラス一軍の男子たちまで集まっていた。
「急にどうしたんだよ。前みたくいたずらに付き合ったりはしないぞ」
「まぁまぁ、そんなに警戒するなよ西島。お前が昨日から忙しいことくらい分かってるつもりだし、お前たちを邪魔するワケにはいかない。これからは学年中で一大コンテンツになるぞ」
「え?な、何が?」
もしかすると、俺たちの乗っていた電車に乗り合わせた他の遅刻した誰かがルナが魔法を使えることや、俺がそれに関係していることをSNSで拡散したのかもしれない。犯罪者のレッテルを張られては、学校を退学になるのも逃れられない。
「何がって、とぼけるなよ。学年中で噂になってるんだよ。全く知らない同学年のカワイイ女子が、お前の手を引っ張って走ってるのを見たってな。あと、ある奴の情報によるとお前は昨日、誰か女子と一緒に高層マンションに入っていったらしいが、これらは全て真実だよな?俺も昨日見たぞ、お前が長谷川さんに腕を引っ張られているところを!」
確か、コイツの名前は園田淳。学年でもトップクラスの知名度を誇るムードメーカーにしてスポーツマン。サッカー部では一年生で大会のレギュラーになったらしい。
そんな彼と俺が授業中の交流以外で話すのは初めてのことだったが、彼が恋バナ好きだというのは噂にも聞いていなかったのでとても以外である。
「なあ、全部真実なんだよな?お前は長谷川さんに拉致される形で長谷川さんの家があるマンションに連れていかれたってのは?俺、他のクラスのヤツに情報収集頼まれちゃってさ、俺自身も興味あるからできれば知りたいんだけど…。あ、嫌だったら無理に答えろとは言わないし、答えられる範囲でいいから、何があったか教えてくれないか?」
俺は正直に全て話してしまうのが正解なのか、全てを語らずに済ませるのが正解なのか分からず、思わずルナの方を見た。
その顔には笑顔が湛えられていて可愛らしかったが、その笑みは、間違いなく“洗いざらい全て吐きなさい”という威圧が嫌というほど込められていた。俺にはあったことをありのまま話すしか選択肢が残されていないのだ。
「ああ、昨日、俺はルナに家に連れていかれたよ」
「それでどうしたんだ?脱ぎだしたのか?」
「大声でそういうこと言うなよ。ルナはそういうこと言うと怒るんだぞ」
「流石は昨日だけに留まらず今朝もべったりしていただけあって分かってるね~」
「茶化さないでくれ、話しづらくなる」
「俺が悪かったから、続けてくれ」
そこまで俺とルナのことが気になるのか?もしかすると、園田も一部の男子や俺同様、ルナに一目惚れしていたのかもしれない。…いや、エフェクトの幻覚が見えそうなほど目を輝かせている辺り、純粋に気になるだけなのかもしれない。
「まず、料理作ってもらって、個々に風呂入って、宿題の分かんないところ教えて、映画鑑賞して、抱き枕にされて、で厄災召喚して深夜一時過ぎに帰った」
「へぇ。色々と羨ましいな。根掘り葉掘りさせていただこうじゃないですか。手料理はどうだった?」
「鶏肉のソテーと付け合わせのポテトサラダだけど、冗談抜きでうちの母さんよりも旨かった」
「へぇ、俺たちも食べてみたいもんだ」
園田に合わせて、取り巻きの連中や咲人も一緒に頷く。やっぱりこれはラブコメで、現代ファンタジーなんかカテゴリエラーだ。
「映画鑑賞は何を見たんだ?」
「ルナの父さんはハリウッド映画のブルーレイをコレクションするのが趣味らしくて、日本語が多様してあるのを見たよ。俺は一切居眠りせずに見たけど、ルナは途中で寝てた」
「寄りかかられたなんて、そんなことはあったりしないか?」
「いや、寄りかかられた。安心しきってたみたいで爆睡だったぞ」
「羨ましいッ!!一体、西島だけが神に祝福される理由とは…!?」
「そんなこと言って、園田だってモテてんじゃん。そうやって俺を羨ましがってるとルナのことが好きだと勘違いされてこの先色々と面倒なことになるぞ」
「勘違いねー。俺から言わせると長谷川さんはこの学年でトップクラスに可愛いと思うんだよ。だからちょっと西島が羨ましくなっただけだ。学年一位最強の城ケ崎さんは誰が好きだとか噂のうの字もないし」
きっと園田は女性の扱いに慣れていて、どれだけ女子と面倒なことになっても平気なのだろうが…。
「…で、抱き枕にされたってのはどういう意味だ?今まで色んなおにゃのことお家デートしてきた俺でもそんなことはなかったんだが?具体的な説明を求めたい」
「えっと…、俺が昼間に可愛いだの何だの褒めたことに対する仕返し?らしくて…。まあ、照れ隠しなんだろうけど。俺の胸に顔を埋めて、涎を垂らしながら三十分くらい気持ちよさげに寝てたよ」
「写真は撮ったのか?」
「あ…。すっかり忘れてた。見惚れてた所為でそんなこと考える余裕もなかったな。しくじった…」
「また同じような機械があれば忘れないようにして、撮れた暁には俺に送ってくれ。俺から他の奴に送るから。てことで、メアド交換しようか」
「わかった」
俺は昨日が初めてのお家デート、いや、人生初のデートだったことで写真を撮るなんてことは思いつけなかった。小学六年生の時にできていた彼女は彼女と呼んでいいか微妙で、ただ想いを伝えられてそれを受け入れただけでデートの一つもしたことがなかった。そのまま卒業の前に転校した上、急に連絡が取れなくなった所為でお互いの中学すら把握していない。
「今の話を聞いて、私と智溜さんがどれだけラブラブが理解できましたか?」
「え?もしかして長谷川さんに今まで全部聞かれてた?」
「私が可愛いと言われてデレるのは智溜さんだけです。あなたたちに言われたって嬉しくもありません」
「だってよ、西島。よかったな」
「お、おう」
もしかすると、俺の前で勘違いさせるような行動を取るのは、俺がこうやって他の男子に話すことで恋人同士だという噂に確固たる証拠をつける為なのだろうか。
ただ、やっぱり利用したいだけの相手を抱き枕にするような性格だとは非常に考えられない。やっぱり、期待してもいいのだろうか。
「てか、率直にルナが俺のことをどう思ってるのか聞いてないんだけど。実際のところどうなんだよ。俺の独り相撲は嫌なんだけど」
「もちろん、その…、大好…」
「ちょっと待ったー!!」
今、絶対いいところだったよな?こういうところで邪魔が入るのはお約束中のお約束。だとしたら、やっぱりジャンルはラブコメなのだろう。
「智溜君!久しぶり!」
「え?えっと…、どちら様ですか?」
「そんなに変わったかな…?」
ルナに負けず劣らずの可愛らしい小顔の娘。身長はジュナと同じくらいの低さでコーヒークリームのような色のフワッとした髪に、淡い若草色のリボンのカチューシャをして、瞳はオパールそのもののようだ。クラス中が釘付けになるその少女に、僕は五年近く前の記憶が蘇った。
「き、君って、まさか宮坂奈々ちゃん?!」
「そうだよ!君の元カノ、ナナちゃんが王子様を迎えに来たよ!」
まさに晴天の霹靂、最っ悪のタイミングでの再会だ…!!今からルナの想いが打ち明けられようとしていたというのに…!!ただ、俺は決して奈々ちゃんとの再会が嫌だったんじゃない。
選べないだろ…!!これじゃラブコメ確定だ…。