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ええ!?孤島で殺人事件ですって!?

「はい、こちら江戸田一探偵事務所……ええ!孤島の皆殺死島(みなごろしじま)で殺人事件!?嵐で脱出が不可能!?わかりましたすぐ行きます!」


 事件から帰ってきた江戸田一・シャーグレ・ポアープル彦五郎は電話を取るなり事件の連絡を受け飛び出した。


「先生?嵐で脱出できない島にどうやって行くんですか……?」


 特別手当で100万を貰ったばかりの毛利ワトも流石に不満げに尋ねた。


「問題ない、警部のツテでそこまで船を出してくれるらしい」

「じゃあなんでそれで脱出しないんですか?」

「領海のギリギリで裏取引をするからついでに乗せてくれるらしい、取引が先だから脱出は後回しだそうだ」

「命がかかってるのにですか……?」

「でもこの取引は300億が動くって警部が言ってたし……今回は解決できたら警部の取り分わけてくれるから我々で100億だな!」


 杉津川コロン三郎警部は捜査で押収した違法薬物を横流ししてひと稼ぎしているのだった。税関職員に賄賂を渡して密輸もやっているらしくウハウハである。他人の命より自分の利益、しかし殺人事件を解決したい想いはある、眼の前の犯罪に心を痛める清く正しい警察官である。


「100億?そこまでいただけますかね?」

「売ると10倍になるらしい、だから三分の一をくれるそうだ、妥当だな」

「なんでそんなことを」

「ギリギリ国内法で裁かれない場所を聞かれたから答えたんだが……」

「絶対犯罪じゃないですか!」

「おいおい毛利くん!杉津川警部は警察だよ、そんな事するわけないじゃないか。ハハハハハ!300億くらい小説でもよく動く金額だし大したことはないさ」


 でもそいつ感づかれて人殺してますよと言おうとしたワトだったが、別人が逮捕されていたため反論することを辞めた。現実を小説と一緒にしてるのかと驚いたものの、そういえば最初の事件でもそんな対応してたなと思うのだった。



「ココ、タンテーサン!ノルハヤ!シマ!イクイク!」


 明らかにおかしな南アメリカ系外人が手招きをする船に乗り島に上陸した探偵一行。迎えた警部は外人と何かを話して手渡している。


「おお、江戸田一くん!毛利くん!よく来てくれた!頼んだマフィアの下っ端が何人かここに来る前に転覆して死に追おってな!後、屋敷に違法な薬物が合ったし警察は私だけだから一緒に売ることにしたよ!懐が潤った、君たちも報酬は期待してくれたまえ!」

「ほう、100億くらいですかね」

「まさか!500億だよ、一人づつね。この島はいろんな薬物を栽培していたようでな、コカイン、アヘン、大麻、覚醒剤の精製製造工場もあったからな!荒稼ぎだぞ!今、大きな船を輸送用で呼んだところだ」

「ほう、豪勢ですね」


 他に突っ込むところは色々あれど500億に目がくらんだワトは目をつぶることにした。まともな人間は誰もいない。


「早速容疑者を」

「ぎゃぁ!助けて!」

「まずあそこで刺されてるのが田中利通(たなかとしみち)さん、小柄で刺しているのが大麻駄目造(たいまだめぞう)さん」

「こんにちわ、大麻駄目造です。愛する人が誘拐され薬物を打たれ廃人化してからは薬物中毒者を殺すことを生業として製造工場を潰すために来ました。よろしくお願いします」


 爽やかな笑顔で血まみれの手で握手を求めてくる大麻さん、もう片方の腕で刺し続けることは辞めない。


「こんにちは、探偵の江戸田一・シャーグレ・ポアープル彦五郎です、こちらは相方の」

「毛利ワトです、早速ですが……何を?」

「ああ、失礼。表の仕事は美術鑑定家です」


 そうじゃないだろと思ったものの、金がかかってるとはいえ自分の命までは賭けたくないワトはいつも通り見て見ぬふりをした。


「亡くなったのは5人ですか……全員滅多刺しですね」

「刃物ですね……ちょうど大麻さんが持ってるのと同じくらいの、他の容疑者は」

「キャーやめて!いや!いやぁ!」

飯田歳美(いいだとしみ)さん、いまちょっと腹部刺されてますね。飛ばして夫の飯田忠勝(いいだただかつ)さん」

「……」

「あれ?亡くなってますね?」

「おかしいな?迎えに行った時は生きてたんですが……」

「何やってんだよあんた達!今女性が襲われてるぞ!」

「自己紹介が先でしょうが!社会のルールもわからないんですかあなたは!」


 警部の一喝が薬物売太郎(やくぶつうりたろう)に向く。おそらく一番マトモな反応をしてるが異方向に手を染めているのでやはりまともではない。


「それどころじゃないだろ!明らかに襲われてるぞ!」

「ぐふ……うっ……ムー!」

「まぁまぁ警部、殺人事件が起きたのですから冷静ではいられませんよ、慣れてる我々が落ち着かせましょう。安心させるのも警察の仕事ですよ」

「まぁ、たしかにそうだな……薬物さん、申し訳ない」

「申し訳ないならこいつを止めてくれ!」

「まず自己紹介を」

「薬物売太郎です……」


 薬物工場を経営してる割に倫理観はそこまで悪くはない薬物はあっさり折れてしまった。


「まず、アリバイを聞きたいのですが……」

「えっ、いやアリバイも何も今あの大麻が今……」

「え、まだ大麻があるんですか!差し押さえないと!」

「違いますあの!大麻さんが飯田を刺してるんですが!」

「ああそうですか、それはいいでしょう。アリバイは?」

「えっ!?」


 ワトは殺されつつある飯田歳美を見てここからどうやって推理に持ってくんだろうなと他人事だった。助けて巻き込まれたくはない、清く正しい一般人と自負するわとは聞こえないふりと見えないふりが得意になっていた。


「ぎゃぁ!刺された!おい!警察だろ!止めろ!」

「ああ、刺されてますね、じゃあアリバイは後でですね……現場を見に行きましょうか」

「おい、ちょっと待て!何いってんだよ!おい!や、やめろ!クソッ!」


 薬物は隠し持っていた拳銃を取り出すと大麻に発砲した。


「う、うう……」

「危ないところだった……腹刺されたけど」

「どうかしましたか!!薬物さん!大麻さん!」

「薬物さん!あなたが犯人だったんですね!」

「どうしてだよ!俺が刺されてるの見てただろ!なんで拳銃はダメなんだよ!」

「銃刀法違反ですよ!」

「コイツのナイフは何だよ!」

「6センチないですし……屋敷内ですしね……流石に摘発は……」

「コイツは住んでないんだよ!美術品売りに来たんだよ!刃物持った男が皆殺してんだよ!ずっと言ってるだろ!」

「皆さん落ち着いて、警部も……よく考えてください、遺体は刃物による傷です。彼は連続殺人とは別です」


 ワトは500億のことでいっぱいで遺体をぼーっと眺めている。飯田歳美さん口の周り血まみれだな、口紅かなーとか思っているのである。どうせ解決まで時間がかかるので現実逃避しながら時間を潰すのが彼の最近の趣味だ。


「それでは、この事件の犯人は……」

「それはまだ……」

「あの、今殺された歳美さん口の周りが血まみれなんですけど……」

「何!歳美さんが殺されたのか!」

「なんで見てねぇんだよ!俺が刺されたのも歳美が刺されたのも見てたのに死んだの気づかないのは何だよ!」


 その一言が探偵の吐瀉物色の脳細胞を刺激した。


「わかりましたよ犯人が……さすが毛利くんだ……」

「見ればわかるだろう!」

「申し訳ないがあなたは銃刀法違反に殺人未遂だ、黙っていていただこうか」


 理不尽といえば理不尽だが正論ではある警部の意見に沈黙してしまう薬物。


「まずこの刃物、大麻さんのナイフと同じです。がそれくらいでは無理ですね。その程度の一致は腐る程あります」

「はい、そういうと思ってました」

「まず被害者、腹部を刺されてますね。皆さん、と言っても大麻さんと薬物さんだけですが身長差を見てください。大麻さんは小柄ですよね?彼が刃物を持って刺すとちょうどいい場所が腹部なんです。おかしいと思いませんか?腹部より心臓当たりを狙うなり首を刺すなりすればいい。ここまで刺すならね」

「怨恨では?」

「毛利くん、それは違うよ。純粋な怨恨では刺して倒れた後で腹部以外を狙う。つまり腹部の傷が浅いから立ったまま連続で刺しているんだ。刺せているんだと言ったほうが正しいな?」


 なんでそんなところは推理できるんだろう。これどっか推理しないとダメなの?と思うワト。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!それだけですか証拠は!」


 犯人にされてはたまらぬとよろけつつも、急に立ち上がる大麻。再びよろけるも持ち直し再度立ち上がる。


「もちろん違いますよ、歳美さんの口周りを見てください。」

「血ですね、でも刺されたなら血くらい吐くでしょう!」

「そこではありませんよ、あなたの袖です。」

「血がついてますが、それだけではないですか!」

「ええ、それだけでは探せばごまんといるでしょう」


 いるわけないと思いたいが事件が恐るべき速度で起きてるこの世の中。結構いるかも知れないので否定はできない。


「袖のボタンどうしました?」

「!!?」

「あなた刺してる時噛みつかれたんでしょう?袖には彼女の口紅があるでしょう?それは血ではないんですよ口紅です。すっかり血だと騙されましたよ……それではよくあることですしね」

「わ、私は彼女と不倫関係にあったんだ!」

「そうきましたか……でも聞きましたよね?ボタンはどこですかと」

「落としたんだ!」

「へぇ、それはもしかして」


 江戸田一は歳美の遺体に近寄ると手袋をした手で口を開いた。


「このボタンではないですか?糸が口から出てましてね。毛利くんに言われて気が付きましたよ」


 毛利は気がついてない、知らんぞと思っているが面倒くさいのでしたり顔でうなづいている。朱に交われば赤くなるのだ。


「…………これまでか、薬物中毒者を生み出す魔の施設を突き止めて皆殺しに出来たのにな、だがまだだ!これは屋敷と工場を爆破する爆弾の起爆装置だ!早く逃げるんだな!」

「なんだと!ここを所有して稼ごうという私の計画を邪魔するな!」

「やめたまえ!もう殺す人間はいないのだろう!まさか……薬物さん!死んでいる……」

「さっき立ち上がって刺した後もう一撃刺して殺してましたよ」

「いつの間に……毛利くんそこまでの観察眼、流石だね!」


 これもうダメなんじゃないかな、せめて島ごと吹き飛ぶなよと思うワトはとっとと避難するように呼びかけた。


「とっとといきましょう、薬物は避難させたんですよね?命のほうが大事ですよ」

「それもそうだな、じゃいこうか江戸田一くん、毛利くん」

「そうですね、帰りましょうか。あ、晴れてきましたよ!警部あの大きな船は!」

「私が手配した輸送用の船だ、さぁ帰ろうか」

「そうしましょうか、アレ?逮捕しなくてもいいんですか?」

「爆死するって言ってるしいいでしょ、早く売りに行きたいし、行こう」

「復讐を遂げた人間は救われないとかよくいいますけどスッキリするし気分は最高ですよ!バレなければもっといいですからね。だから基本的には遂げさせてやればいいんですよ、探偵としての矜持です」

「…………もしかして他の人が殺されたりしてた時見て見ぬふりを?」

「ん?殺されたのを見てたのかい?それは止めないといけないよ!殺人を見過ごすなんて!いや、薬物さんはすぐ殺されたから間に合わなかったんだね、毛利くんが止めなかったんじゃなくて……」


 ワトは考えるのを止めた。爆発しない島を眺めて帰る一行。謎の外人が箱を積み込んでいくのを眺めて取り分が550億に上がることを聞いた探偵と相棒は小躍りしながら今日の夕食を考えた。

 この違法な薬物が大勢の人間を苦しめることを3人は知らない。

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