シードマンとのデート
いすみと伽耶はギアたちにデートに連れ出された。いや、いすみたちが彼らをデートに連れ出したのだ。いすみはギアの。伽耶はクルスの恋人と化した。いすみたちは彼らと仲よく腕を組んで歩いた。ギアたちの手のひらは温かくて大きい。残念ながら彼らのひじがふくらみにちょくちょく当たるようなことはなかったものの2人は身も心も完全に彼らのものだ。ギアたちはいすみたちをラブホテルに連れ込みはしなかった。「シラサギ公国は満12歳から女の子は結婚できるんだ」「え?そうなの?」「だから僕たちが結ばれる可能性はふつうにあるんだ」「でっでも私たちは敵対関係にあるのに?」「魔王さまは優しいよ。下着を見せるだけで魔法戦士は許してもらえる」「ま、マジで?」「いつだって悪いのは法華会であっていすみたちは別に悪くない」「そ、そうなんだ」グレッグたちが合流し、いよいよ別れる時が来たが、いすみたちはなかなかギアたちの手を離そうとしなかった。ふだん冷静沈着な伽耶でさえ座り込みストライキを始める始末。帰宅したいすみたちは興奮してなかなか寝付けなかった。別にキスされたりしたわけではないが、生まれて初めてシードマンとのデートはあまりにも快楽と刺激に満ちていた。でも世界線が違うからネットがつながらない。ギアたちは定期的に日本語ツアーに来ているからいすみたちは住所と連絡先を渡しておいた。もしかしたらリアルでのデートができるかもしれない。やはり敵同士の恋は燃える。ふだんあんなにも冷静沈着な伽耶でさえあれだけ異世界に踏み留まろうとしたのだ。いすみは伽耶のあんな姿を初めて見た。でもきっと恋はそういうものだ。3月21日。2人は登校したが、日常なんかどうでもいい。リアルにギアたちはいないのだ。私たちが彼らに成長した姿を見せるのは異世界しかない。私たちは法華会なんかどうでもいい。彼らのためなんかじゃない。私たちのための戦いなんだから。ギアたちに成長した姿を見せるために。12歳の女の子が20歳の男の子に異性として見てもらえるのか?2人は怖くて聞けなかった。いすみたちはあえてギアたちに聞かなかった。私たちは実力でシードマンに認めさせなければならなかった。たぶん勝てはしないだろうが何とかギアたちに恥ずかしくない戦いをしなければならなかった。でなければ私たちはいつまで経っても[可愛い妹]でしかない。異性として見てもらえないのだ。だからこそ私たちはもっと力をつけなければならなかった。いすみたちはヨガのエクササイズに一段と力を入れた。最近はついついサボりがちになっていたからだ。やはり継続は力なり。付け焼き刃ではシードマンに通用しない。2人はグレッグたちからシラサギ公国の情報を集めた。何とかギアたちとの接点がないか?幸いにも魔王さまは魔法戦士とシードマンのマッチングイベントの開催に意欲的だ。例えばスク水祭りやブルマー祭りがある。これらは現役やリタイヤを問わず魔法戦士限定のイベントだ。デビュー前の女の子も参加できる。というのも異世界にはスク水もブルマーも存在しないからだ。彼らはスク水もブルマーも魔法戦士が身にまとうのが至高だと考え、あえてスク水やブルマーを採り入れないのだ。だからこそいすみたちは異世界で輝きを放つことができた。シラサギ公国は仮投降した魔法戦士の社会復帰に力を入れる。一番人気はファッションモデル。仮投降した魔法戦士限定のファッションショーが毎週のように開催された。彼女たちに衣装代はかからない。衣装代もクリーニング代も交通費もスポンサー企業が全額負担するからだ。仮投降した魔法戦士は専用のマンションに住み、広々とした個室が与えられた。ファッションショーは全員に参加資格がある。更には彼女たちにスマホが与えられた。メーカーは選べないが、仮投降した魔法戦士は毎日AIイラストを生成してファッションデザイナーを目指すことができる。彼女たちは定期的にコンテストに応募してデザイン性を競い合うのだ。仮投降した魔法戦士は感性が豊かなので、彼女たち限定のコンテストがあるほどだ。ファッションモデルやデザイナーは社会的地位も年収も高い。なので仮投降した魔法戦士はシラサギ公国で社会復帰を目差す子が大半だ。今の日本にはブラックな仕事しかなく、異世界で魔法戦士として戦っても経験値を生かせる仕事がない。どこへ行っても死ぬまで痛い人扱いされるしかないのが現状だ。いすみたちは真剣にシラサギ公国で生きる道を模索し始めた。リアルに何の希望もないのだから当然だ。2人は今の日本に幻滅していた。中にはいまだに日本を過大評価している輩がいるが、いすみたちは[日本がすごい]なんてちっとも思わない。いったい何がすごいのか?2人にはさっぱりわからない。異世界の方がよっぽどすごい。いすみたちは街を歩いただけでわかった。街並みからして今の日本とは全然違うのだ。