魔法戦士急募
岡田いすみと中尾伽耶は純正女学院初等部6年生。2人は女子校生活に倦怠期を迎えていた。純正女学院は初等部から高等部まである小中高一貫校。名古屋では厳格なカトリックとして知られていた。いすみたちは母子家庭で一人っ子。実家は仏教だし、2人はクリスチャンではない。もう10年近くも幼なじみを続けている。いすみたちは同じマンションの違う階に住んでいた。3月5日。雨の日の登校は実に気だるい。2人のクラスは隣同士だから選択授業や体育の授業では一緒になる。昼食は学食で一緒にとる。この時期は実に気だるい。いすみたちには気になる異性や先生がいないから卒業イベントには縁がない。もちろん大好きな先生が異動になりはしないかとやきもきすることもない。まだ肌寒いから。外出がおっくうだ。4月からは中等部1年生に進級するが、春休みに予定はない。2人は塾や習いごとはしておらず、母親は長期出張中で、しばらくの間帰ってこない。いすみたちはクラスでは浮いた存在だ。2人は魔法少女のアニメを一切見なかった。特に男の子が大好きなアニメには違和感しか覚えなかった。かと言って別に潔癖症なわけではない。いすみたちは[12歳向け]を求めていたが、なかなかそれが見つからないのだ。2人はまず[魔法少女]という響き自体が好きではない。そして魔法少女が変な動物を従えることに必然性を感じない。更には彼女たちが無双することに違和感しか覚えなかった。いくら魔法が使えたとしても敵は成人の若い兵士。仮に20歳だとしよう。12歳の女の子が20歳の男の子と戦って勝つわけない。145センチの女の子が170センチの男の子と戦って勝つわけない。体重差は不明だが、おそらく倍かそれ以上違うはずだ。魔法少女が戦う場所は敵の陣地と相場が決まっている。ならば魔法少女はかなり不利なはずだ。なのに魔法が使えるから無双するというのはかなりムリがある。いすみたちは早熟で、独自の世界観の持ち主だからなかなか周囲に馴染めなかった。2人は既成の概念にとらわれない。いすみたちはもし自分たちの価値観に合う世界線があるならば魔法戦士として参戦してもいいと思っていた。だからといって参戦する動機は特にないが、2人は今の日本が大キライだ。いすみたちはそこそこ可愛くてスタイルも性格も悪くない。突出したスペックはないが、かつてバレエを習っていたからからだが柔らかいくらいだ。帰宅したいすみたちは1階の集合ポストに見慣れないチラシを見つけた。[魔法戦士急募]とある。まるでパチンコ屋のチラシみたいに紙質がよく、ちゃんと日本語で書かれている。でもよく見ると文法の間違いがちょくちょくあるのだ。チラシはマンションの全ての部屋に投函されていた。集合ポストは半透明のプラスチック製だからひと目でわかる。2人はチラシを持って部屋に戻った。私服に着替えるといすみたちはいすみの部屋でチラシを見た。そこには異世界の相関図が書かれていた。シラサギ公国と法華会が戦う構図だ。シラサギ公国はリアルだとベトナムに近い国。法華会は日本を拠点に平和を騙る仏教団体。世間ではかなりブラックなイメージが定着している。解散命令が出ないのが不思議なくらいだ。法華会は言葉巧みに魔法戦士を募り、異世界制覇を目論んだが、あえなく頓挫した。口では世界平和を語りながら裏では異世界を侵略しまくるのだからうまくいくわけがなかった。なので異世界は今の日本に全く価値を置かないのだ。シラサギ公国は2人の魔王さまが国政を取り仕切るが、彼らはむしろ魔法戦士に同情的。というか大好き。庶民も魔法戦士が大好き。これは異世界にアイドルがいないからだ。魔法戦士は悪い奴らに騙されてけなげに戦ういたいけな女の子だと広く認識されていた。まあ事実だから仕方がない。異世界にアイドルがいないのは今の日本を悪い見本だとみなすからだ。日本のアイドルは性悪でキモヲタを増殖させ、にわかファンを繁殖させて国を滅ぼすというのが異世界の常識。でも魔法戦士は例外とされた。彼女たちは満10歳から14歳の日本の女の子ばかり。異世界に展開する魔法戦士は100人に過ぎない。うち20人が2人1組でシラサギ公国方面に偵察に出ているが、魔法戦士と対戦する若い兵士をシードマンと呼ぶ。シードマンはアーミーナイフも手榴弾も小銃も使わずに魔法戦士と戦う。魔法戦士はリアルから異世界に行くと世界線を越える。世界線を越えると精神体に変わる。魔法は自身の性欲を抑える力から発せられるが、精神体でしか発動しない。魔法は異世界でしか使えないのだ。魔法が使えると自由に空を飛べるが、思春期の女の子はたいがい高度恐怖症だからあまり高くは飛べない。からだが軽くなるので空中戦をまじえたコンビネーションプレイは強いが、逆に地上戦となると魔法戦士が不利になる。体格差と地の利。彼女たちは敵のホームで戦うからだ。