解決編02
「え?」
トモエが疑問の声をあげる。当然納得できないと言った感じの気持ちも混ざっているだろう。自分が聞いたリアルBLカップルの声。確かにその場に人がいたという証明。それを聞き間違いと言われているのだ。当然の反応だと思う。私は疑問に答える様にトモエに声をかける。
「私達は声を聞いただけで、中を覗かず、身をひそめた、姿は見ていないんだよね」
「た、確かそうだけど、じゃ、じゃあどういう事なの?」
トモエは唸る様に答えを求めてくる。分からないと気持ち悪いと言った感じだ。私はそれに答えるためにイオリに向き直りつつ、口を開く。
「声は確かに聞こえた、でも人が煙の様に消えるわけがない、だとすればだよ……その場にリアルBLカップルなど居なかったと考えるべきだ」
至極当然の帰結。魔法でもない限り、その場から人が消えるなんてありえない。今回のケースでは、居なかったという方がしっくりくるのだ。
「い、居なかった? でも」
疑問が再燃したようにトモエが再度声をあげる。それを制する様に私はスマホを取り出しておどける様に掲げた。これが答えなのだと見せる様に。その姿を、呆ける様にトモエが眺める。あまり勘の良いタイプじゃないトモエは、なかなか真相に気付かない。なんとなく気付いてくれた方が探偵の推理っぽく見えたけど、仕方がない。私は答えを口にする事にした。
「音声の再生をすれば、人間はいらないよね」
「あっ、お、音声の再生」
トモエの中で、いろいろ繋がったのが分かる様な声だった。私はスマホを操作する。そして、音声が流れ始めた。あの時聞いたリアルBLカップルの声が流れる。まるっきり同じセリフとトーン。そこから先の続きも流れていく。
「ドラマCDだったよ……少し古いけどね、私もトモエも持っている」
しばらく続きを聞いたトモエが、思い出したように表情を変えて口を開いた。
「そ、そうだ、も、持ってる、このドラマCD」
私はトモエの言葉に頷く。ドラマCDの事を忘れていたけど、聞き覚えだけはあった。聞き覚えがあるという事は、知っている人の声。そして、その場に居たイオリ。その状況によってトモエの中で勘違いが起こった。だから、イオリがリアルBLカップルの一人ではと思ったのだ。二人の内どちらかがドラマCDについて覚えていたら、すぐに真相の一部を見抜けていたかもしれない。
「じゃ、じゃあイオリが聞いていたドラマCDを、か、勘違いした?」
トモエは信じられない、という表情で聞いてくる。キラキラした一軍の人間が、スクールカースト最下位の私達と同じ趣味を持っているなんて信じられない、といった顔。私はイオリに視線を移してみると、顔を赤くして、スカートを握り締めていた。真相の一部はおそらくこれで、間違いない様だった。でもそれだと不自然さが残る。
「……ただ聞いていただけじゃないよね」
私の声に、イオリが勢いよく顔をあげて私を見る。物凄い形相で私を睨みつけていた。これ以上言ってくれるな。そんな気持ちだろうか。分からなくもないけど、これはイオリの殻を破るためだ。私は構わず続ける。
「ただ聞いていただけなら、掃除道具入れが開け閉めされた意味がわからない、それにイヤホンを使っていればバレないのに、それをしなかった」
私の言葉を聞いても、トモエは特に驚かなかった。たぶんその辺は、疑問にも上がってなかったという事だろう。我が親友は思いのほかボケっと生きているらしい。まぁトモエのそういう所は可愛らしい。私が少し微笑むと、トモエは首を傾げるだけだった。
「それ以上は」
私とトモエの少し緩んだ空気に割って入る様に、イオリは呟く。物凄い形相は脅しだったのか、効果が無いと分かって今度は泣きそうな表情になっているイオリ。私はそれに対して首を横に振った。
「こんなの恥ずかしい事じゃないさ、私が解放してあげよう」
私は努めて優しい笑顔を浮かべながら、続ける。