解決編01
「何の用?」
翌日の放課後の保健室。ちゃんと来てくれたイオリが椅子に座り、不機嫌そうに足を組む。ちゃんと来たというより、自分の行いがバレていないか不安で確かめに来たという所だろう。私は対面に座り、その横でトモエが私に体を寄せて座る。トモエには結局真相を話していない。リアルBLカップルの正体が気になるから、この場にいるという事だ。
「伝言通り、一昨日教室で起こった事がわかったのさ」
私の言葉で、イオリは少し居心地が悪そうに座りなおす。保健室の先生を説得するのは大変だった。でもイオリの置かれた立場を考えると、保健室の先生も無視する訳にもいかない。その気持ちをくすぐる様にして、言いくるめたのだ。
私はイオリに少し微笑んで見せて、さてと口を開く。
「私達、一昨日教室で会ったでしょう? その時、私とトモエ氏は男子二人の声を聞いたんだよ、それも付き合っているかのような、今にも秘め事を始めてしまいそうな声」
「へぇ、でも私以外誰もいなかったから、聞き間違いか、別の教室から聞こえたのを勘違いしたんじゃない」
一息にイオリが言った。勝ち誇ったわけではないけど、私は少し笑って返す。
「ふふっ、今日はよく喋るんだね」
私の言葉に、イオリが少し眉をひそめた。イオリはよく喋るタイプではない。必要な事だけ言うような感じだ。今回で言えば「へぇ」とだけ言う方が、イオリらしい。偶然かもしれないけど疑って見れば、イオリの饒舌は疑われない様に必死にしていると考えられる。ますます私の中に、確信めいたものが生まれてきた。
「話を進めようか」
イオリは不機嫌そうな表情で俯く。私は構わず言葉を続けた。
「私とトモエ氏は声を聞いて、そのまま教室に入った訳だけど、知っての通り男子はいなかった、声は確かにその教室から聞こえてきていたのにね」
私は指を一つ立ててから口を開く。イオリは相変わらず俯いたままだった。見られていないけど、そこは雰囲気として指を立てたままにする。
「考えられる事その一、イオリ氏がリアルBLカップルを逃がした」
少し大袈裟に私は顔を横に振る。
「いやいや、これだと不自然だね、イオリ氏がその場にいるのにリアルBLカップルは秘め事を始めようとしていたのだから、その逆も不自然だね、イオリ氏はどういう状況かわからないけど、入ってきた男子二人がそういう雰囲気になったのに席を外す事もせずに、それを眺めていた事になる……無理やり説明しようとすればできるけど、どっちも不自然だね」
イオリが何か言おうとして口を開いた後、結局何も言わずに眉をひそめる。たぶん先ほど私が、饒舌なんだねと言ったからだろう。何か言えば疑いが濃くなると思ったかもしれない。
「なにか、あるのかな?」
私が問いかけると、イオリは首を横に振る。
「ふむ、何もないなら続けようか」
私はそう言いながら、二本目の指を立て言葉を続けた。
「考えられる事その二、リアルBLカップルはイオリ氏と男子の組み合わせだった」
「なっ、私の声が男っぽいっていうの!」
弾ける様に前のめりになって、イオリが声を荒げる。トモエが私の腕にしがみついた。よっぽど受け入れられない物だったのだろう。私は優しく声をかける。
「大丈夫、ちゃんと可愛い声だよ、だからその二も否定できる」
私の言葉を聞いて、イオリが少し恥ずかしそうに元の姿勢にもどる。トモエもくっついたままだけど、しがみつくのをやめた。
「声の問題だけじゃない、そもそもリアルBLカップルの内の一人がイオリ氏なら、一緒に逃げなかったのは不自然すぎるんだよね、わざわざ残る必要はない」
煙の様に消えてしまったように見える逃げ方があったのであれば、その方法で二人とも消えてしまえば、今こんな風になっていなかった。こんな状況を想像できていなかったとしても、残るのは不自然だ。
「では男子二人はどこへ行ってしまったか、まさに煙の様に消えてしまったか」
私は少し大袈裟に両手を使って煙のジェスチャーをして見せた。イオリはそれに嫌な顔をしてから口を開く。
「だから、聞き間違いじゃあ」
私の言葉と動作に少し苛立ったらしいイオリの言葉に、私はすかさず声をあげた。
「そう、それだよ、強いて言うなら聞き間違いだったんだよ」