推理02
私は少し呆れながら昨日の状況を思い出してみる。
私達は忘れ物を取りに、教室に向かっていた。その時に教室を出入りした人間は居なかった。つまり少なくともイオリは、私達が教室のある廊下に差し掛かる前に教室に入った事になる。また、リアルBLカップルも同じだろう。イオリとリアルBLカップルの入った順番は分からないけど。
教室の前までくると、リアルBLカップルのくぐもった声が聞こえてきた。廊下に面した窓とドアはしっかり閉まっていたから、はっきり聞こえなかったのだ。声を聞いた私達は、興奮して少し声を漏らし、それから身をひそめた。その時金属が擦れるような音、掃除道具入れが開けられる音がする。しばらく何かを片付ける様な音がして、また掃除道具入れが閉められた。
私達は何食わぬ顔で教室に突入。でも中にはイオリが座ってスマホをいじっているだけだった。
イオリは自分しかいなかったと言って教室を出る。その後、外側の窓を確認したが、すべてきっちり施錠されていた。掃除道具入れの中も確認したが、誰も隠れていなかった。
こんな流れだっただろう。私は考えを巡らせる。イオリの置かれた立場を考えると、トモエの考えた可能性が無いとは言い切れないのが悩ましい。いろいろ可能性を考えていると、ふとさっきトモエが納得していない表情をしていた事を思い出す。
「トモエ氏よ、そういえばどうして、イオリ氏が男っぽい声になっているかもと言ったのだ?」
「ん? な、なんか聞き覚えがあったんだよ、リアルBLカップルの声、ど、どっちの声か分からないけど、なんだか覚えがあるような」
思い出せないという顔で首を傾げるトモエ。でもすぐに表情を変えて口を開いた。
「り、リアルBLカップルが誰なのかわかったら、ヒ、ヒントにならないかな」
「……ヒントにはならないと思うが、誰なのか判明させたいのは確かだね」
昨日顔が見れなかった。今後のオカズの為に、正体を判明させておきたかったが、できなかった訳だ。でも落ち着いて考えれば、絞る事は出来るかもしれない。
「ヨ、ヨリコ氏の頭脳で、な、何とか見つけ出して」
トモエが期待のこもった視線を向けてくる。
「私の頭脳はそんな優秀ではないよ……でも考えてみよう、トモエ氏も知恵を貸してほしい」
私の言葉で、トモエは勢いよく首を縦に振る。
「じゃあまず、名前が判明している佐藤の方かな」
「せ、先輩の方は、な、名前分からないもんね」
佐藤に先輩と呼ばれていた事以外に、手掛かりがない。
「一つの事実として、佐藤氏は、先輩がいる以上、三年生ではない」
「う、うんじゃあ先輩の方も、い、一年生ではないって事かな」
トモエの言葉に私は頷いて見せる。
「そしてもう一つ、私達一年生の教室でそういう事をしていたのだから、どちらかは一年生の可能性が高い」
イケナイ事をしようとしていたのだ。全く縁も所縁もない教室でそういう事をしようする勇者ではないと仮定すれば、どちらかの自分の教室という事になるだろう。
「つ、つまり?」
やっぱり勘の悪いトモエは気づかない。まぁそういう所が可愛らしい部分でもあるのだが。私は少し笑って見せてから口を開く。
「佐藤氏は私達のクラスの人間という可能性が高い、先輩が一年生という事はありえないからね」
「ク、クラスメイト?」
「そう、イケナイ事をしようというのだから、自分の教室を使う可能性が高い、という事だよ」
「な、なるほど」
トモエは理解できているのか疑わしい感じだが、気にせず続ける。
「さて、ここで悩ましい問題が起こる」
「な、悩ましい問題?」
「そう、佐藤という日本一の多さを誇る苗字は、私達のクラスに四人もいる」
もう少し特殊な苗字だったら、特定も簡単だったのに。まぁ文句を言っても始まらないから、クラスメイトの佐藤を私は思い浮かべた。
「で、でもそれなら、ひ、一人しか!」
「気が合うね、トモエ氏もそう思うかい」
おそらくトモエも、佐藤たちの顔を思い浮かべたのだろう。そうなればもう一人しかいない。
「水泳部の佐藤だね」
「そ、そう! イ、イケメンだから!」
トモエの言葉に私は頷く。ほか三人の佐藤は、ブサイクと普通しかいない。こうなるとBLが似合うのはイケメンの水泳部佐藤しかいないだろう。うん、それしかいない。
「でゅふでゅふでゅふ、さ、佐藤氏か、じゃ、じゃあお相手は渡仲氏!」
「そう! 分かっているね! トモエ氏! でゅふでゅふでゅふ」
私達は日頃から怪しい男子二人組をチェックしている。イケメンの仲良し二人組はほぼBLで間違いないから、動向をチェックしているのだ。オカズにする為に。
「さ、佐渡カプかぁ、あ、あの二人やっぱり」
「そうそう、私達の狙った通り、カップルだったんだよ」
それから私達はどういうシチュエーションだったかなど、予想と妄想を言い合い語り合った。