事件発生01
声を抑えているけどトモエは興奮しているらしく、あまり抑えられていない。暴走してしまうといけないから、私はトモエを落ち着かせようとする。理想としては、リアルBLカップルに私達の存在を知られる事なく、二人の顔を確認して、今後も追いかけていきたい。理想を叶えるべく私は作戦を練っていると、突然教室の中から金属が擦れるような音が聞こえてきた。
「いかん、バレたかも」
「し、しまった、リアルBLカップルの情事を覗く機会が」
トモエが絶望的に顔を青くして言った。気持ちは痛いほどわかる。しかも自分のせいで、チャンスを不意にしてしまったのだ。私はトモエの肩に手を置く。
「気持ちは分かる、でも今は次の作戦に移る時、リアルBLカップルの顔だけでも拝む」
それだけでも、今後の妄想のオカズに大いに役立つ。今後の彼らについて、警戒されて拝めないだろうし、そもそもこんな形で露見したらもう学校では絶対にそういう事はしないだろう。つまりこれが最後のチャンスでもある。私はトモエを伴って、焦らず素早く教室の正面の方のドアに近寄った。慌てて何かを片付けているような音が中から聞こえる。急いで片付けている様な、そんな印象をうける。
「早く」
私はトモエを急かして、教室のドアに手をかける。そこでもう一度金属が擦れるような音が聞こえた。私は構わずにドアを開け放つ。まず目に入ったのは黒板。私は焦らず何でもない様に装って、教室の中に入った。
「わ、忘れ物してしまったぁ」
「このうっかりさんめぇ」
私達は二人で「HaHaHa」と、少しわざとしくなってしまった笑い声をあげる。とりあえず些細な事はもうどうでもいい。私は目を見開いてリアルBLカップルの姿を探すため教室内に視線を移した。黒板から外側の窓の方、そして教室後方の景色が順に視界に飛び込んでくる。でも、おかしい。景色しか見えていない。
「あれ?」
間抜けな声が出てしまう。トモエも同じような声を隣であげている。一瞬起こっている事に、脳が追い付かなかった。中にはリアルBLカップルなんていなくて、教室の後方にスクールカースト最上位、東城伊織が座ってスマホをいじっているだけだったのだ。イオリの背中にかかる程度の長さの軽く茶色に染めた髪が、肩からさらりと落ちる。顔をこちらにあげたらしい。
「と、東城伊織……さん」
トモエが、必要以上に身構えて声をあげる。無意識にやっているのかもしれないが、トモエが私に体を寄せてきた。少し戸惑いつつも私は代表する様に、イオリへ問いかける事にする。
「イオリ氏、この教室に他の誰かがいなかっただろうか?」
「……誰もいなかったけど、ずっと私だけ」
イオリはポツリとそれだけ言って、組んでいた足を外した。キレイな足が伸びるスカートの中が見えそうになる。どれだけの努力をして、そのキレイな足を保っているのか分からないが、そんな足を見せられたらスカートの中がどうなっているのか気になるのは、私だけではないはずだ。いかん。ついつい凝視してしまった。
私が見入ってしまっているのに気付いたのか分からないが、イオリは冷たい視線をこちらに送りながら立ち上がった。それから、シワが寄ってしまったスカートを撫でる様にして直す。姿勢を元に戻すと、少し高めの身長のおかげでやっぱりイオリは一軍だなと思わされる。少し気崩した制服のおかげか、どこぞのモデルが教室で撮影をしているかのような錯覚をしてしまいそうだ。制服の首元から伸びる白のふわりとしたオシャレなタートルネックが、モデル感を高めているらしかった。先生に注意されそうなものだが、イオリだから許されているのだろう。誰も注意はしない。
私が見入っているのを、いつもの事の様に気にする風もなく、イオリは後ろのドアから出て行ってしまった。