三人はもう友達
「おじゃましまーす」
ドアの方からイオリの声が聞こえてきた。
「今日もいるね」
少し足早にソファの方までやってきたイオリが、そう口にした後、腰掛ける。
「最近多いが、いいのかな? あちらの友達は」
心配というほどでもなく、単純に疑問に思った。イオリは私の問いに少し首を横に振る。
「あっちは友達って程じゃないよ、一緒にいるのは学校がある間だけ、遊びに行くのに誘われた事ないしね」
いろいろ難しいらしい。イオリが普通の女子なら自分から誘ってみればという所だが、そう簡単な事ではないかもしれない。やんわりとした拒絶でもあるのか、相手側が気づかう事に疲れているのを、イオリが感じ取ってしまっているのか。
「そういえば、トモエがオススメしてくれたの見たよ」
目を輝かせて、イオリがトモエに迫る。
「そ、そうなんだ!」
トモエもそれに対して、嬉しそうに答えた。ちょっと近いな。
「きゃっ」
私はさり気なく、トモエと自分の座り位置を入れ替えた。
「なに? 急に? いきなり動かしたからトモエが目を回してるじゃない」
怪訝そうにイオリが聞いてくる。私は「別に」とだけ言って、そっぽを向く。特に何もない。なんとなくこちらに、座りたかっただけである。それだけである。
「意味が分かんないよ、トモエ、大丈夫?」
「う、うん」
心配そうにトモエに触れようとしたイオリ。私はその手をやんわり押しのける。
「痛! 叩く事ないでしょ、なによもぉ」
「ヨ、ヨリコ氏、ど、どうしたの?」
よくわからないという感じで、トモエも首を傾げた。本当に何でもないのだ。本当に。
「ふふっ」
先生がいつの間にか、こちらに顔を向けていた。嬉しそうに微笑んでいる。
「なんです」
私がそう問いかけると、先生は「なんでもぉ」と含みのある笑顔で立ち上がった。なんか腹立つ。こちらが優位になってたはずなのに。
「ちょっと用事があるから、出てくるね」
何も言う暇もなく、先生は保健室を出て行ってしまった。
「それで、何か不満でもあるの?」
先生を見送ると、イオリがそう口を開く。トモエも、疑問に満ちた瞳でこちらを見てきた。
「……別に」
「絶対なんかあるでしょぉ」
「そ、そうだよ、い、いつもとなんか違う」
イオリとトモエにそう言われながら、私はそっぽを向いて「別に」と呟き続けるのだった。