解決編04
「さて……踏み絵って知ってるかな? 歴史の授業で出て来たやつさ、キリシタンをあぶりだすために行われた物だね」
私の言葉にイオリが一瞬で顔を青くする。キャラが崩壊している状態でも、頭はしっかり回っている様だ。これから私がしようとしている事を察したらしい。私は構わず続ける。
「これだけのプレイをする人間なら推しのキャラを愛しすぎていて、イラストさえも踏む事は出来ないだろう、つまり私がさっき言ったような事を君がしていないと言うなら、このイラストを踏めるはず、それはもうぐちゃぐちゃに」
私が床にイラストを置くと、イオリは少し後ずさる。
「ちなみにこの限定イラストは忘れて仕舞われていた物だ、私には必要ない、ほしいならイオリ氏にあげよう……ただしイラストを踏む様な人間にはあげられないけどね」
私はイオリに笑いかけてから言葉を続ける。
「さて、どちらを選ぶかな? イラストを踏めば、ここで話した事は間違いだったと謝罪しすべて忘れよう、さっき話した事なんてしていないと証明できる、イラストは手に入らないがね……踏まなければ、この限定イラストを手に入れる事は出来るが、認める事になる」
イオリは顔を横に振りながら、表情を崩していく。ほとんど泣きそうな顔。イオリからしたら究極の選択かもしれない。
「さ……」
イオリは一度そんな声を漏らした。それから少しだけ顔を横に振る。眉をひそめて、口を真一文字に結んでいる。葛藤しているらしい。でもそれも長く続くことは無かった。
「さっ」
また何かを呟いたと思ったら、イオリは飛びつく様にして床に這いつくばる。正直何が起こったか分からなかった。倒れたのかと思ったが、そうではない。よく見ると置いてあるイラストを抱きしめている。
「佐藤きゅんと江崎しぇんぱいにしょんなひどい事出来る訳ないでしょぉぉぉぉ」
イオリは胸にイラストを抱きしめて上体を起こし、こちらを睨みながら続けて叫ぶ。
「やったわよ! 認めればいいんでしょ! 掃除道具入れに入って、ドラマCD流して、悦に浸ってましたよ! これでいいんでしょ! もうっ! 人の趣味を暴いて、そんなに楽しい訳?!」
そこまで言ったイオリは、胸に抱きしめているイラストに「あんな悪魔の所に居て辛かったね」と呟いている。確かに私もBLを愛する者として、少しひどい事をしてしまったかもしれない。佐藤きゅん、江崎しぇんぱいすまない。
そんな感じで私が少し反省をしていると、トモエが一歩踏み出した。なんだろうと思っていると、トモエは口を開く。
「イ、イオリ氏! ……そ、そういう高度なプレイは私達も経験してるよ、そ、それを同志と語り合うとね、すごく楽しいんだよ!」
イオリを恐れていたはずなのに。私はトモエの成長を密かに喜びながら、イオリに向かって語りかける。
「そうだよ、楽しいんだ……なのにそんな楽しい趣味のはずなのに、それを隠して苦しんでいるイオリ氏を、私は救いたかったんだよ」
私達の言葉を聞いてイオリは「たの……しい?」と呟く。
「あぁ、同志と共有すると楽しい、一人で苦しんでいるより確実にね」
「でも、私」
少し言いにくそうにイオリは口ごもった。それに対して、私は優しく語りかける。
「イオリ氏が男でも気にしないさ、同志だからね」
私の言葉に対して、トモエも大きく頷いて見せていた。