忘れ物に気付く
私とトモエは上履きから靴に履き替えて、正面玄関を出た。外は寒くなってきていて、夕暮れの赤みでなんだか寂しくなってきた木々の枝先が余計に寂しく見える気がした。秋だなと思う。これからもっと寒くなると思うと、憂鬱でならなかった。別に寒いのが苦手という訳ではないが、その気持ちを乗り越えてくるほど寒くなるのは勘弁願いたい。
「はぁ」
「ヨリコ氏、ど、どうしたの?」
少し吃り気味に、トモエは問いかけてくる。もしかしたら、私が怒っていると感じてしまったかもしれない。この親友はそういう部分が繊細だ。私は少し微笑みながら答えた。
「なに、秋だなと思っただけさ」
トモエが少しホッとする表情を見せる。前髪が長めで目にかかっている為、表情が読み辛い。それでも長く親友をやっていると、わかる様になってくる。それから意味ありげにトモエは微笑んで口を開いた。
「ビ、BLの、秋だね」
「そうなのだよ! トモエ氏、アンニュイな気分はBL心をくすぐる! でゅふでゅふでゅふ」
「そ、そうだね! でゅふでゅふでゅふ」
私達は道の真ん中で立ち止まり、そんな風に笑い合う。下校人数は減っているけど、この時間でもまばらに人はいて、私達に奇異の視線を送りながら遠ざかっていく。いつもこんな調子でやっている。でもそんなの気にしていたら、立派な腐女子にはなれないのだ。
「さぁ、早く帰ってアニメを視聴しなければ」
「そ、そうだね……あっ」
突然、トモエが突然そんな声をあげる。何かを思い出したというような表情。なんだろう。少し歩き出していた私は、トモエに向かって軽く振り返る。
「きょ、教科書……持って帰らないと」
「ん? 教科書? なんで?」
別に置いていけばいい物だ。あんな重い物持って歩くなんて、馬鹿げている。少なくとも私は、いつもそうしている。トモエは馬鹿正直に、すべての教科書を持ち歩いているのだろうか。
「だ、だってテストあるから」
トモエは少し不安そうに呟く。元々猫背気味で自信なさげな態度なのが、余計猫背になって自信が無くなって見えた。
トモエとは同じクラスだから、同じタイミングで同じ事をするはずだ。私は少し記憶を手繰り寄せた。教師が喋っているシーンが浮かんでくる。そういえば。
「あぁ、なんかテストするからとか言ってたね、でも何で教科書持って帰るのさ?」
私の問いにトモエは顔を歪ませた。何か変な事を言ってしまっただろうか。テストなんて、授業の復習のためにやるものだ。よって授業を聞いていればできる問題しか出ない。応用的な問題が出たとしても基礎さえ学んでいれば、そこから考えて解けるはず。私が分からないという顔をしていると、トモエが口を開く。
「ヨ、ヨリコ氏は無二の親友で何でもわかり合えるけど、そ、そこだけは分かり合えないみたい」
すこし呆れた様子でトモエは体を反転させて、もと来た道に戻っていく。私はそれを追いかけた。
「私も行くよ」
「あ、ありがとう」