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聖女な義妹と始める二人暮らし  作者: 田中たんか
8/17

初登校

 雪代の生活必需品を整え、引っ越しを終えた後。やっとゆっくりできると思えば、新たな高校生活が待っていた。


 どこかに出掛ける間もなく、始業の日がやってきた。まあ、時間があっても恐らく出掛けなかっただろうけれど。

 基本俺はインドアなのだ。


 校長やら生徒会長やらの話を含んだ長ったらしい入学式を終え、俺は自分のクラスで席に座っていた。最初の席は番号順に決められているようで、俺は窓側中列の席だ。


 前だともちろん目立つし、後方も何かと先生に目をつけられてやすい。真ん中辺りが一番良いと俺は思っているのでこの席は当たりと言える。


 友達ができるか、勉強に着いていけるか。そんな不安と新たな生活への期待を背負い浮き足立つ新入生が教室に入ってくる中、俺は鞄から一冊の本を取り出して読み始めた。


 これでまず俺に声をかけようとする奴はいなくなったはず。というか、そうそう見知らぬ人間と何か話そうとする奴はいないと思う。


 どうせ最初なんて隣の席と一言二言挨拶を交わしておしまいだろう。初対面で気不味くなるのは目に見えている。ならこうして有意義な時間を過ごした方がマシだ。

 まあ、惜しむらくは二つほど例外があることか。


 一つ。

 この学校には中等部があり、そこからの付き合いである進学組は既にグループを作っているということ。

 始めたてから友人がいるというのは、途轍もないアドバンテージだろう。


 二つ。

 コミュ強——つまりはコミュニケーション強者。彼らは最初からバグった距離感で話を持ちかけてくる。

 そういった輩と席が近くないと良いんだが。


「雪代さーん!」


 そんな事を考えていると、教室の中に元気な声が響いた。横に目を向けると、栗色の髪の毛に整った容姿をした少女がいる。


 間違いなく雪代だ。

 驚いたことに、彼女も俺と同じ高校に受かっていた。ここは一応進学校の範疇に入るらしいので、彼女も勉強はできる方なのだろう。


 マンションの近くに他の高等学校は無いため、良く考えれば同じ学校であることは明白だった。しかし、同じクラスだということは予想外だ。


 別に兄妹なんだし問題無いだろって?それがあるんだよ。大きな問題が。


 先程、彼女はクラスメイトから何と呼ばれていたか。

 そう、「雪代」と呼ばれていた。対して俺の名字は「五宮」だ。


 雪代きってのお願いと、親父と母さんの気遣いにより雪代は大学卒業まで旧姓を名乗ることになっている。

 問題とは周囲の目。彼女と俺を好奇の目に晒されないようにすることが親父達の目的なのだろう。


 つまり、俺達は義理の兄妹関係を隠し通さなければならない。少なくともバレるまでは。

 無理して隠すほどの事でもないが、できる限りは秘密にしておきたい。


 幸いにして俺達が住んでいるのはマンション。

 一軒家なら言い訳が効かないが、マンションなら同じマンションだという言い逃れができる。


 マンション内に同級生がいれば話は別だが、その有無は俺に判別できない。考えても結論が出ない以上、考えるのはその時でいいだろう。

 考えないとは言っても、気にかけない訳ではない。そこがポイントだ。


 兄妹バレしないようにすることについては雪代とも話し合っているため、食い違いはない。

 あとはうっかり口を滑らせないようにすることか。


 俺には無用の心配かもしれない。

 

 雪代という起爆剤、もとい共通の話題ができたことにより少しずつ騒がしくなっている教室内でも、俺に話しかける人がいないのがその証拠だ。


 雪代は....さっき名前を呼んでいた少女と話している。栗色とは違う茶髪に、ボブカットというのだろうか?ロングよりかは短い。


 元気はつらつ。というのが俺の第一印象であり、雪代と話している様子からも、それが間違っていないであろうことが分かる。


 もっと美人である雪代に群がるかと思っていたが、思っていたよりかは少ない。

 普通よりは多いのだろうが、彼女の容貌を加味すると少ないのではないか。


「美人だよなー。雪代さん」


 前の席の奴が言う。

 独り言にしては声がでかい。もう少し静かに言った方がいいぞ。


 あまりジロジロ見ても失礼だ。そう思い、俺は再び本に視線を落とす。


「っておい!無視かよ!?」


 ギュインという音がするほどの勢いで振り向き、芸人顔負けのツッコミを入れる男。


 敢えて第一印象を述べるなら、チャラい。

 中学ではあり得ないような茶髪、毛先を遊ばせているのがチャラさを醸し出している。印象だけで言うなら余り関わりたくないタイプだ。


「ん?俺に話しかけてたのか」

「そうだよ!あんたの方見てただろ!」


 ああ、横を向いていたから雪代を見ているのかと思っていた。


「それで?要件は?」

「いんや、あんたが雪代さんを熱心に見てたからな。話しかけただけだ」


 .......普通に見られていた。

 こっそり女子の事を見ているとかただの危ない奴.....でもないか。前を向いているように見えてチラチラと雪代の方を見ている奴が何人もいる。


「俺は朝霧(あさぎり)浩也(こうや)だ。よろしく」

「五宮夏樹だ。よろしくした覚えはないが」

「そう言うなよ。俺達同じ中学だろ?」


 同じ中学.....記憶の中を探るが、朝霧のような顔の同級生は出てこない。考えてみると俺の交友関係なんてほぼ皆無だ。


「すまん、記憶にないな」

「まーそりゃ仕方ねえよ。同じクラスになったことないし」


 なら覚えていないわけだ。他クラスはおろか、自分のクラスの生徒さえ全ては覚えていなかった男だぞ。俺は。


「逆に何で朝霧は俺を知っているんだ?」

「俺、一応学年全員の顔と名前は覚えてたからなー」


 決して少なくない中学校の同学年を全部?

 どれだけ脳のリソースを割いたんだ。そこまでしないとチャラ男にはなれないのか。大変なんだな。


「......凄いな。俺にやろうとは思えない」

「知っといた方が有利だからな。そういえば、五宮はお友達作りに行かなくていいわけ?」

「逆に聞くが、何のためにこうして本を読んでいると?」


 そう言うと、朝霧はニヤリと笑う。

 全て見透かしたような笑みに、一瞬鳥肌が立った。


「俺みたいなのに話しかけられないため、だろ?」


 コイツ、チャラ男みたいな見た目しているのに良く分かっているじゃないか。そこまで解ってて話しかけて来たのかよ。


「ま、観念しろって。俺とオトモダチになろうぜ?」


 目の前に差し出された朝霧の右手。

 予期せぬフレンド申請が届いたこの状況に対し、俺は——。


「それ、自分で言ってて恥ずかしくないのか?」


 そう返した。


「まあ......少しな」

「まあいいや。よろしく」


 なんとも締まらない形で、俺の高校生活は幕を開けた。

 ちなみに、何か癪だったので握手はしなかったとだけ伝えておこう。

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