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聖女な義妹と始める二人暮らし  作者: 田中たんか
7/17

ファーストコンタクト②

 二人で生活していく上でのルール——。


 五宮さんからこの提案を聞いた時は、とても感心しました。何らかの取り決めを作る必要はあると思ってはいましたが、到着した初日にそれを提示してもらえるとは。


 私が来るのを知ったのが今日だと言っていたので、この短時間でルールを考えたのなら素晴らしいですね。


「最初は生活面、家事の役割分担からいこう」


 家事ですか。

 それなら私が全部やってもいいのですが。取り敢えず提案してみましょう。


「それくらいなら全部私がやりますよ。住まわせて貰っている身ですし」


 それが礼儀という物だと思うのですが.....。


「いや、それじゃ俺が落ち着かない。全部やってもらうのも悪いしな」


 またしても五宮さんに拒否されました。彼がそう言うのなら、私は従うまでです。たしかに、五宮さんからすれば私が家事をしている間ダラダラしているのは居心地が悪いのかもしれません。


「てことで、役目を割り振っていこうか。まず、洗濯は雪代がやった方がいいよな?」


 最初に五宮さんが話題に出したのは洗濯についてでした。そこに関しては分けることも出来ませんし、どちらかが負担することになりそうです。


 私がやることに文句はありませんが、なぜ私がやった方がいいのでしょう。シンプルな疑問が湧いてきました。


「どうしてですか?」


 質問すると、五宮さんはビシリと固まりました。

 なにか不味いことを聞きましたでしょうか.....悩むような表情になっています。


「もし雪代がやらない場合、君が着た物も全部俺が洗うんだぞ?」


 全部......全部!?そ、それはさすがに....。


「.................!?す、すいません。私がやります...」


 考えが足りませんでした....。洗濯の時にその日着ていた下着を見られるなんて耐えられません。五宮さんがこれを言うか悩んでいたのにも頷けます。


 その後もルール決めは続きました。

 明日の分の炊事当番はなんとかもぎ取りましたが、できれば全部やらせて貰いたいという思いは変わりません。


 キッチン周辺の案内もされましたが、圧倒的に調味料や調理器具が足りていないようです。これではまともな料理も作れません。

 新しいカップラーメンのゴミも捨ててありますし、五宮さんは本当に料理が出来るのでしょうか.....。





 そんなこんなで、気づけば夜になっていました。

 時間も無かったので夜ご飯は出前で済ませました。お寿司、美味しかったです。家では再現できない味でした。


 そこそこに高い物を頼んでいましたが、五宮さん曰く「復讐」とのことです。樹さんへのでしょう。


 そして、お風呂に関しても先程決めたルールの通りに入っていきます。

 どちらが先に入っても構わないが、きちんと脱衣所のドアを閉じパジャマを持っていく。というのが取り決められたルールです。あとは先に入る場合あまり長風呂はしないということ、ですね。


 ぺたぺたと音がして、お風呂から上がった五宮さんが現れました。肩にタオルをかけ、髪からは少し水が滴っています。

 冷蔵庫を開けてお茶を飲んでいる姿は男の人、という感じがします。首元があらわになっているのもその要因かもしれません。


「五宮さん」

「ん、どうした?」


 お茶をごくりと飲み込んでからこちらに振り向きます。


「さっき思ったのですが、私は今日どこで寝れば?」


 ベッドなどの生活用品は、まだ購入していないので寝る場所がありません。遅いので明日買いに行くという話にはなっていますが、それだと今日は少し困ります。

 あの時気づいていれば良かった。そう後悔しますが、今日は上手く頭が働きません。


「そういえば......ベッドがないのか。ウチには布団も無いんだよ」

「あ、なら私はそこのソファで寝ます」


 ベッドでなければ寝られないわけではありませんし、恐らくソファでも寝れるはずです。少しばかり不便ではありますが、床で寝るよりはマシでしょう。

 他に方法もないので、これが最適解です。


「いや、なら雪代が俺のベッドを使ってくれ。まあ、そっちが不快でなければの話だが」

「え。いえ、私はベッドで大丈夫ですよ?不快とかではなく.....」


 それは申し訳ないです。元々は私の、不手際なのですし、五宮さんがそこまでする必要はありません。


「別に俺も大丈夫だ。ソファで寝るのは慣れてる。大丈夫ならベッドを使ってくれ」


 しかし、五宮さんは頑なにソファを譲ろうとしません。これが彼なりの気遣いであることは流石に分かっています。

 そこまで理解しているのなら、それを享受するのも大事でしょうか。


「.....分かりました。そうさせて貰います」

「ああ。そうしてくれると助かる」


 そんな問答をして、私達はそれぞれ眠りにつきました。

 会って一日ですが、思っていたよりも五宮さんは紳士です。彼に限らず、異性と接するとなれば身構えるのはなんら特別なことではありません。


 紳士的ではありますが、どこかぶっきらぼうな感じもします。まあ、そこは感じ方の差かもしれませんが。


 これなら、上手くやっていけるかもしれない。そんな希望が生まれるような初日でした。でも、五宮さんに慣れるのはまだ先のことになりそうです.......。


 布団に染み付いた、五宮さんの匂いを感じながら私は眠りに落ちていきました。






♦︎♢





 朝。自然と目が覚めました。

 枕元に置かれた五宮さんの時計を見ると、現在は5時。いつも通りの時間に目が覚めるのはいいことですね。


 伸びをしてベッドから降り、自分の部屋へと向かいます。トランクから服を取り出して着替えを済ませると、開いたカーテンから陽光が差し込んでいました。

 今日もいい天気です。

 これなら洗濯物も乾きますし良いですね。


 次は朝食の準備です。昨日炊事当番を引き受けたので、朝食を作るのは私の役目。食材はあるようなのできちんとした物が作れそうです。


 いざ調理開始、という時に、カウンターからソファで寝ている五宮さんが目に入りました。

 半袖半ズボンのパジャマを身につけ、気持ち良さそうに寝ています。


 春先とはいえ、夜と朝は冷え込みます。

 たしか五宮さんの部屋にタオルケットがあったはず。持ってきてそれをかけると、それを握って丸まってしまいました。


 可愛いですね。小動物的な愛らしさがあります。本人に言う気にはありませんけど。


 気を取り直して、朝ご飯の調理に取り掛かりましょう。作るのは目玉焼き、あとは適当な野菜にご飯でいいですかね。

 ゴム紐で髪を束ね、準備を終わらせます。


 静かなリビングに、とんとんと包丁の音だけが響き渡りました。





 あの後少ししてから起きてきた五宮さんと朝食を食べ終わったあとは、私の家具を買うための買い物に出かけることに。


 向かったのは近場のショッピングモールで、隣には五宮さんがいます。黒のスキニーに黒いシャツ。シンプルな格好で、五宮さんに似合っているのではないでしょうか。


 まずはベッドの棚です。収納がなければ何も始まりませんから。とはいっても、大事なのは機能性です。デザインも大事ですが、それよりもですね。


 選り好み、金額を気にして選んでいる内に午前中は終わってしまいます。時間がかかってしまい、五宮さんには悪いことをしました。

 当人は気にした様子もなく飲み物をくれましたが。


 そして足りなくなるかもしれないと食器類のコーナーへと向かいます。いくつかのお皿を五宮さんがレジに持って行きました。

 ここはレジがいくつかあるフロアなので、近い時に買うのが良いと言っていました。


 待っている間にも見ていてくれとも言っていたので、コップでも見ましょうか。

 おや、これは良いですね。猫のイラストがとても可愛いです。ちょうど今朝の五宮さんみたいで。


「何か気になる物でもあったのか?」


 肩が跳ねます。

 それくらいびっくりしました....。急に後ろから声をかけるなんてどうかと思います。


「五宮さんですか....少しコップを見ていただけです」

「へえ.....そんなに良い物が」


 コップを手に取ると、五宮さんは店員さんに値段を聞きに行きました。どうやら値札が剥がれてしまったようで、調べる必要があるとのことです。


 数秒もすると、店員さんが値段を教えてくれました。

 ペアカップ?そう言われてよく見ると、隣に似たようなデザインの青色バージョンが置いてありました。


 カップルと間違われたのを五宮さんが否定します。店員さんは間違いを謝罪して去っていきました。


 二人きりになり昨日のような気不味い雰囲気が漂い始めます。


「それじゃ、他のコップにするか....」

「いえ、これにしましょう」


 はっ、咄嗟に手を掴んでしまいました。

 

「私達は義兄妹なんですから。これを使ってもおかしくないです。二つ買うより安上がりですし」


 変に思われていないでしょうか。自分でもなんであんな行動に出たのか分かりません。


「分かった。じゃあこれにしよう」


 五宮さんの了承も得られ、コップはそれに決定します。

 嫌だったのかもしれません。無駄に五宮さんを他人として意識したくなかったから、手を掴んだ。そうとしか思えません。


 でもこれは可笑しくないはずです。兄妹なら、ペアカップを使っていても。


 自分を納得させるように、一人で言い訳をして。私達はレジへと向かいました。

 次回からは戻ります。

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