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聖女な義妹と始める二人暮らし  作者: 田中たんか
4/17

義妹とお出かけ

 首が痛い。

 今日はそう思って目が覚めた。昨日よりはマシな目覚めだが、首と肩あたりがバキバキになっている。


 いつものように枕元の時計に手を伸ばすも——。

 あれ、時計がない。そういえば、目覚ましの音もしなかった気がする。


 上体を起こしてやっと気付いた。昨日はリビングのソファで寝たんだ。


 ルールの決定が終わり、ご飯を食べて後は寝るだけとなった夜。

 失念していたが、布団が無いということはどちらかがソファないし床で寝る必要があった。他に寝れそうな場所はないので、自然とその二択になる。


『私がソファで寝ますよ』


 雪代はそう言ったが、女子にソファで寝させるのも心が痛む。それに、起きてリビングに行ったら雪代が寝ていると反応に困るし。

 

 そんなわけで、遠慮しようとする雪代を説き伏せて俺がソファで寝たんだった。


 欠伸をしながらかかっていたオレンジ色のブランケットを剥がすと、トントンと小気味の良い音がリビングに響いていた。

 て、あれ?俺ブランケットなんてかけて寝たっけ。....まあいいか。

 トントンという音源を探してみると、すぐに見つかった。


 雪代だ。

 まあ俺以外にこの家にいるのは彼女だけなので当たり前ではある。


 雪代はキッチンに立ち、食材を包丁で切っている最中だった。奥のコンロあたりからは味噌汁の良い匂いが漂っている。


「朝ご飯、作ってくれてるのか?」

「あ...おはようございます。今日は私が当番の日ですから」

「ああ....そういえば昨日決めたんだったな。おはよう」


 寝ぼけて忘れていた。炊事は一日毎の交代制になったんだった。


 雪代は持って来ていた私服に着替えており、そんな彼女がキッチンで料理をしている。 

 ......慣れないな。これからも馴染まない気がする。


 そもそも、女子が自分の家にいるというのに慣れていない。それが彼女ほどの美人ともなればいつになっても克服できる気がしない。

 

 やはりポニーテールは正義だ。普段からそうではないからこそ目立つ。動きに合わせて揺れるのもポイントが高い要素。


 いや、おろしているのが悪いのではない。さっきも言ったように普段とは違う感じがストライクゾーンにハマるのだ。

 雪代なら色んな髪型が似合うはず。


 ........朝から俺は何を熱弁しているんだ?

 速く着替えよう。






♦︎♢






「「いただきます」」


 一人だった食卓に、二人分の声が発される。


 雪代が作ってくれたのは、白飯、目玉焼き、野菜類という模範的な朝食だ。

 全て作る工程としてはシンプルだが、それが決して楽ではないことを俺は知っている。

 

 料理の手間以前に、朝起きることが難しいのだ。人よりも速く起き、ご飯を作る。その大変さは、たとえ一日でも簡単ではない。

 だから、「いただきます」という言葉を真摯に言う。


 それが相手に伝わるかは分からない。所詮は自己満足だ。


 醤油がかけられた目玉焼きを箸で切断し、口に放り込む。


「美味い....」


 感想が口から漏れた。

 目玉焼きは俺でも作れる簡単料理だ。実際、何度も作ったことがある。

 しかし、この目玉焼きは違う。ありふれた味でありながら、普通の美味しさを超えている。


 これが腕前の差か。

 他の料理も、俺の作る物とはレベルが違った。まあ、俺の発言一人暮らしのために身につけた付け焼き刃だしな。


「お口に合ったようで何よりです」

 

 雪代の表情に変化は見られない。美味しいと言われて嬉しいのか迷惑なのか、それともどうでもいいのか。

 分からないというのは存外不便なものだ。


 俺も人の事は言えないが。


 美味しい料理ともなれば、ものの数分で食べ終わる。食器洗いは炊事をした方とは逆の方がやることになっているため、ぱっぱと終わらせた。


 時刻は九時半。

 いつもなら部屋に篭ってダラダラする時間だが、今日は一つ予定がある。


 そう、雪代の使う家具を買いに行くという予定が。




 そんなわけで、やって来たのはマンションの近くにあるショッピングモール。

 買い物だけなら俺が着いて行く必要もないが、案内という(てい)で付き合うことになった。


 このショッピングモールは素晴らしいことに、ベッドやタンスなどの家具はもちろん、アパレル、本屋から雑貨や100均まで揃っている。

 まさしく地域住民の味方である。


 まずは時間がかかるであろう大きな家具から見ることに。最初は死活問題であるベッドからだ。


「布団とベッドどっちにするんだ?」

「前も使っていたので出来ればベッドが良いですね」


 とのことなので、迷うこともなくベッドコーナーに向かう。

 部屋の広さも分かっているためどれほどの大きさかも限定され、想像していたよりもベッドに時間はかからなかった。

 

 考えてみると、ベッドなんて大きさ以外はほとんど同じじゃないか?あとは二段...つまり高さとかタイプくらいだろう。

 そう思い調べてみると、ベッドにも種類があるということで驚いた。


 床板の高さによってフロアベッドとローベッドに分けられているとは。この二つ、名前が違ったのか。

 どちらにもメリットデメリットがあるようで、雪代が選んだのはそのどちらでもなかった。


 可愛らしい花柄の掛け布団やらシーツやらも一緒に買ったし、即日配達で頼んだので直ぐに届くだろう。


 そして、思いの外時間を食ったのが収納だった。

 クローゼットは備え付けの物があるから良いとして、問題は小物やら何やらの部分である。


 俺も少し収集癖があるので分かるが、ああいった物は無限に溜まっていく。新しいの買い置き場に困っても、捨てるのもどうかと思い取っておいてしまうのだ。


 雪代の場合は勉強道具類がほとんどだった。

 そんなに悩むのかも思ったが、デザインなど気にする部分があるのだろう。

 そういったことに疎いので、収納類は適当に機能性で決めた記憶がある。


 もう少し気にかけた方が良いのか?


「あまり大きいと部屋に入りませんよね」

「ドアがそこまで大きくないからな。そこは考えないと不味いかも」


 そんな会話を交わし、着々と家具を選んでいった。



「お待たせしてすいません。退屈でしたよね」


 自販機で買ったペットボトルを、そこらにあったベンチで飲んでいると雪代がやって来た。手続きは終わったようだ。


「いや、色々気付きがあったから大丈夫だ」

「気付き....ですか?」

「うん、こっちの話だから気にしなくていいよ」


 フロアベッドとローベッド。すごい役に立たなさそうな知識だ。どこで披露するんだよ。

 ああほら、雪代も不思議そうな顔してるじゃないか。

 微妙な空気が出来上がってしまった。


「あ、そうだ。これどうぞ」


 そう言って俺が手渡したのは、一本のペットボトル。もちろん俺が飲んでいた物ではなく、さっき自分の分を買うついでに買った物だ。

 どちらかと言うと、俺の方がついでだったかもしれない。


「ありがとうございます。何円でしたか?」

「いや、お金はいいよ。大した値段じゃないし。それに、義理とはいえ兄妹なんだから」


 本当に大した値段じゃないしな。

 飲み物の一本や二本くらい、奢っても問題ない。それが義妹ともなれば尚更に。


「分かりました。でも今度は私に奢らせて下さいね」

「ああ。楽しみにしてる」


 うん、いいなあこの感じ。

 お節介を焼いても、どちらかが変に遠慮することのないフラットな関係。


 実際お金についてはかなり繊細な問題だ。それをこうも容易く解消するとは、できる。乙女ゲーだったら好感度爆上がりだ。

 変な例えをしたが、つまるところ気が利くということ。

 

 俺もそう心がけよう。

 この知り合いくらいの距離感が俺に取ってはちょうどいいのだ。

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