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聖女な義妹と始める二人暮らし  作者: 田中たんか
3/17

話し合い

 気を取り直して雪代がいるリビングに戻る。

 

 俺が出て行ったのと変わらない様子で座っており、ドアを開く音に反応して目線がこちらを向いた。


「話を遮って済まなかった。家を案内するからちょっと来てくれないか?」


 そう言うと、雪代は従順にも俺に着いて来た。

 最初の言葉通り、トイレ、バスルーム、洗面所を案内する。別に案内などいらない大きさだが、一応やっておいて損はない。

 やらないのも不親切だと思う。


 そこまで広くもない廊下を歩き、ある一室の前で足を止める。


「この部屋を使ってくれ。そこそこ広いしスペースには困らないと思う」


 この家に滞在することが決まった以上、自室を用意しないわけにはいくまい。見たところ俺と同じくらいの歳なので、プライベートスペースが欲しいはずだ。

 というか、自己紹介をしたのに歳を知らないとは。


 後で聞いてみよう。


「分かりました。ありがとうございます」

「礼を言うような事じゃないだろ。当然の権利だよ」


 ペコリとお礼を言う雪代。

 一応家族になったのだから、遠慮する必要はない。とまあ言うのは簡単だが雪代にも思う所があるのだろう。


 俺だって突然見知らぬ異性と同じ家に住むとして直ぐに家族気分にはなれない。半年以上はぎくしゃくする自信がある。

 

 一番は遠慮だ。

 義理の、とはいえ所詮は赤の他人。急にこの人が家族だよと言われても、そいつに対する態度は他人行儀な物になるはず。


 話すのが上手い人なら違うかもしれないが、残念なことに俺は苦手な方だ。


「取り敢えず荷物を整理した方がいい。荷物は....それだけ?」


 雪代が持っている荷物は、トランク一つ分のみ。事前に届いている物もない。

 彼女がミニマリストな可能性も否めないが、普通に考えるなら少なすぎる。

 旅行じゃあるまいし、それで私物が全てなのか?

 

「そこまで持ち物が無かったので。何か問題でも?」

「いや、問題ってわけじゃないけど....まあ、整理が終わったらリビングに来てくれ」


 何と言ったものか迷い、結局話を逸らすことにした。あれで全てなら俺が口出しすることじゃない。荷物の多少など人の好き勝手だ。


 あの荷物の量では、整理も直ぐに終わってしまうだろう。そこまで時間もないし、お茶でも飲むか。


 


 それから十分後。

 

「お待たせしました。一通り終わりましたよ」


 ソファに座ってお茶を啜っていると、雪代がリビングにやって来る。


「そっか、お疲れ。雪代も飲むか?お茶」

「貰います。でもコップが無いですね」


 言われてみれば、基本的な生活用品がない。

 コップ、お皿はまあ予備のを使えばいいとして。

 

 食器棚から適当なコップを取り出しお茶を注ぐ。


「そういえば、布団とか持ってるの?」

「ない、ですね。でも樹さんからお金を預かっています」


 現地で買えってことか。

 そこは近くに大型ショッピングモールがあるから何とかなる。


「買いに行くのは明日でいいか?今から行くのも遅くなりそうだし」

「大丈夫です。それで、次はどうしますか?」


 雪代の同意をとり、次のステップへと話を進める。

 

「じゃあ二人で暮らす上でのルールを決めよう」

「ルール、ですか?」

「そう、ルールだ」


 今日の午前中に考えた即席の提案に過ぎないが、俺たちが安全に暮らすにはルールが必要だ。


 お互いの不平、不満が出ないように。ゼロにするのは無理だろうが最低限、二人共悪い思いをしないようにするルールがいる。


 これは雪代のためだけではなく、俺のためでもあるのだ。


「最初は生活面、家事の役割分担からいこう」


 炊事、洗濯、掃除、その他諸々。

 共有スペースだけでもやらなければならない家事は山ほどある。全て俺がやってもいいが、二人分となると少し面倒だ。

 ならば二人でやってしまった方が得だろう。


「それくらいなら全部私がやりますよ。住まわせて貰っている身ですし」

「いや、それじゃ俺が落ち着かない。全部やってもらうのも悪いしな」


 雪代がせっせと家事をこなしている間、何もしないでソファに寝っ転がってテレビを見てるとか居心地が悪すぎる。

 残念ながら、俺はそこまで図太くなれない。


「てことで、役目を割り振っていこうか。まず、洗濯は雪代がやった方がいいよな?」


 忘れてはならない、というか忘れようもないが、雪代は女子なのだ。

 洗濯とは、身に付けていた物を洗濯機にぶち込み物干し竿に引っ掛ける一連の行為を指す。

 

 つまり、そこには下着も含まれる。ということ。

 そうじゃなくても、普通に自分の着た物を他人に現れるのは嫌だろ。


「どうしてですか?」


 きょとんと、雪代は不思議そうな顔をする。本当に分かっていないようだ。

 これを説明するのか....なんか俺が変態みたいじゃないか?


「もし雪代がやらない場合、君が着た物も全部俺が洗うんだぞ?」

「.................!?す、すいません。私がやります...」


 分かってくれたようで何より。

 懸念があるとすれば俺の洗い物がお目汚しにならないかどうかだ。そこは雪代からクレームが来たら対応すればいいか。


 速く話題を変えたいし次だ。この空気から抜け出したい。


「じゃあ、次は炊事だな。日によって分けるか、それとも朝昼夜で分けるか」


 あれ?そもそも雪代は料理が出来るのか?

 

「ちなみに、料理は出来るか?」

「はい。人並みには出来ると思います」


 なら大丈夫だ。俺も人並みだし、よほど酷くなければ食べられる。


「よし、俺は日毎に分けた方が良いと思う。朝昼夜だと割りにくいし」

「私もそう思います。交代制でいいかと」

「うん。なら炊事に関してはこれで決定。明日は——」

「私がやります。いいですか?」


 まあ、やって貰えるなら断る理由もない。


「大丈夫。後でキッチン周辺の説明するよ」


 その後、掃除に関してもトントン拍子で決まった。汚れは各々気づいた方が掃除するといった方針だ。お互いにいちいち確認を取るのも面倒なので、こういう形に落ち着いた。


「あとは個人的にだが——俺の部屋に入る時はノックしてくれ。あと勝手に入らないこと。雪代を疑っているわけじゃないけど、一応な」


 見られたくない物も幾つかあるし、間違えて入られるのも少し不味い。この約束を雪代に取り付けるのだから、当然俺も雪代の部屋に無断で立ち入ることはしない所存だ。

 当たり前の事ではあるけどな。


「雪代はそういう要望ない?あったら遠慮なく言ってくれ」

「そう....ですね。今のところはありません」


 こうして、俺達が暮らしていく上でのルールが決定された。


 日は既に傾き、窓の向こうは暗くなりかけている。朝から濃い一日だった。しかし、これからは今日が日常になるのだ。弱音は吐いていられない。


 どちらかが損をしどちらかが得をすることのない、双方にとって平和な同居が出来ることを望もう。

 ここまでプロローグです。

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