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聖女な義妹と始める二人暮らし  作者: 田中たんか
2/17

義妹

 短いかもです。

 気を取り直して家のリビング。


 名前がわからないという醜態を晒したが、俺は悪くないと断言できる。義妹が来るというメールは寄越したくせに顔写真も名前も書かないとは。

 今気づいた俺も俺だが、やはり親父には一発パイルドライバーを打ち込まなければ気が済まない。


 そんな恨み節は後にして、問題はこの少女についてだろう。聞いてみたところ、雪代(ゆきしろ)天音(あまね)というらしい。

 どこかで聞いたことがあるような....まあ気のせいか。名字なんて被ってなんぼの物だ。


 今は用意した椅子に座り、テーブルを挟んで向かい合っている状況だ。落ち着いて見てみても、やはり顔が整っている。

 ぱっちりとした瞳、小ぶりな鼻。可愛いというよりは綺麗という言葉が似合う顔立ちだ。


 俺?俺は普通だな。

 イケメンでもなく不細工でもなく。道端ですれ違っても次の瞬間には忘れるような顔をしていると自負している。

 イケメンに憧れているわけでもないので今の顔面に不満はない。


 なんて下らないことを考えているのも、この状況からの現実逃避である。

 対面に座ったのはいいが、何から話したものか思いつかない。相手側もそれは同じようで、お互いに相手が話し始めるのを待つという永久機関が誕生していた。


 俺も誰かと話すのが得意なタイプではないし、正直言って速く一人になりたい。だが、そういうわけにもいかなかった。

 親父のメールによれば、彼女は俺の義妹に当たる。ならば、対話は避けて通れない道だ。


「取り敢えず....改めて自己紹介から始めようか」

「いいですね。そうしましょう」


 ようやく絞り出した案はお互いの自己紹介。

 一番無難な選択肢を取れたと思う。同意も得たところでスタート。


「俺は五宮夏樹。親父からの情報が正しければ、雪代の義理の兄ってことになる」

「雪代天音といいます。(いつき)さんから言われて来ました」


 五宮樹は親父の名前だ。

 つまり、彼女は俺の義妹だし俺は彼女の義兄だということになる。


「それで、雪代はどうして俺の義妹に?」


 親父からのメールにはそこが書かれていなかった。義妹が出来た。とはいうが、どんな手順でそれが成立したのか。


 考えられるのはよくライトノベルである片親同士の再婚だが、俺は両親が離婚したという話は聞いていない。

 あの二人が離婚するなら、世の中の家族はほとんどが離婚している。息子の俺がそう思うくらいに親父と母さんは仲が良い。


 そのため、雪代が義妹になった理由が俺には分からなかった。


「......私は貴方の親戚にあたる家の人間です。とはいっても血縁上はかなり遠い親戚ですが」


 雪代、なんて名字の親戚がいるのは知らなかった。彼女の言う通り、親戚の集まりで会うような繋がりではないのだろう。


「そこからは....すいません。樹さんからも話すなと言われているので言えません」

「親父が?」

「はい。樹さんから貴方に話すと」


 ......なるほど。

 雪代が義妹になった理由は分からないが、親父がそう言うなら俺はまだ知らなくていいのだろう。恐らくは碌な理由ではない。

 雪代から俺に言わせないということは、彼女が口にするのも憚られるということなのかもしれない。


 ま、俺が気にすることじゃないな。


「分かった。それで雪代はこの家に滞在するのか?」

「樹さんからそうしろと言われて来たのですが....」


 何考えてんだ?あの親父。

 いい年頃の男女を二人一つ屋根の下で過ごさせるとか.....しかも保護者なしで。


 予想していたとはいえ、雪代から言われるとやはり不味いのではないかと思わされる。

 もっと子供だったならまだしも、俺の気が触れる可能性も0.000001%くらいはあるかもしれない。俺からしてそう言わせるだけの容姿をしている。


「すまん。ちょっと待っててくれるか?」

「?分かりました」


 雪代に断りを入れ、俺は自分の部屋へ戻る。

 携帯を操作し、通話ボタンを押したのは親父の番号。


 相手が出ない時にイラつく音は直ぐに止み、親父との通話が繋がった。


「もしもし、親父」

『おお、夏樹か。電話してくるなんて珍しいね。どうした?』

「雪代さんのことだけど」

『ああ!もう着いたのかい?思ったりよりも早かったんだね』


 時間は伝えられていないので早いかどうかは分からない。というツッコミは呑み込み、話を進める。


「家に住ませるって本気か?俺ももう高校生だぞ?」

『うん。でも夏樹から浮いた話なんて聞いたことないよ?それに、夏樹に任せれば安心だからね』


 それはそうだが....生まれてこの方彼女ができたことがないのはこの際どうでもいいのだ。ていうか親父にそれを言われると腹立つ。


「男女だぞ?」

『後先考えずに手を出すほど飢えてないでしょ。それに、そこらへんは信頼してるからね』


 信頼されるのは嬉しいが、そういう事じゃないんだよ。


『僕達は仕事で家を開けることが多いからね。夏樹が適任だと美代子さんとも話し合った結果だ』


 五宮美代子。俺の母親だ。

 うちは共働きのため、両親が家にいないことが多い。それを持ち出されると弱いな。


「はぁ....分かったよ。こっちで何とかしてみる」

『うん、ありがとう。そういえば聞かないんだね?なんで彼女が義妹になったのか』

「親父が言わないと判断したなら聞くつもりはないよ。それとも聞いて欲しかったのか?」

『まあ、正直聞かないで貰えると助かるね。あまり良い話じゃないし』


 やはり俺の推測は正しかったようだ。

 雪代は親戚といえど赤の他人。そんな彼女が義妹になる上で、まともな理由があるとは思えない。


『一つ言うとしたら、彼女には優しくしてあげて欲しいかな』

「.......まあ、出来る限りは」

『ま、そこも夏樹なら大丈夫だよね。そろそろ時間だからこれくらいにしようか』

「ああ。時間取って悪かったな、親父」


 通話が切れる。

 いつも通り文章と電話で印象が変わる親父だった。まるで二重人格だ。


 正味気乗りはしないが、それが両親の意向な以上雪代と同居するはめになりそうだ。

 この家を借りられているのだって親父のお陰だし、元々断るつもりはなかったが。俺が文句を言うのはお門違いだろう。


 .....まずは雪代のことを知る事からか。

 よく知らない人と二人暮らしなんて耐えられない。どちらかといえば雪代の方がキツいはずだ。


 そして生活環境を整える。俺も引っ越して来たばかりだし、まだここに馴染めていない。


 大体やる事は決まった。

 この家にいるのが雪代を除いて俺だけな以上、自分で何とかするしかないだろう。


 覚悟を決め、俺はリビングへのドアを開いた。

 あと一話!

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