簡単なアルバイト
「貴方がここにきたのには理由があるのでしょう?」
「理由?理由も何も…部屋で寝てたら急に…!」
戸惑っていると、その男ははぁ、と呆れるようにため息をついた。
「半端者がごちゃごちゃと…早く言ってしまいなさい、貴方はどうしてここに来たんです?」
「そんなの知るわけ…っ!!」
急な頭痛に襲われる。痛いなんてもんじゃない。
割れる!!頭がっ…!!
その瞬間、頭に映像が流れてきた。
ランドセルを担いだ子どもが、小さな猫を抱えながら歩いている。
「おい、信号…赤だぞ…。」
…子どもが信号に気づかずに、横断歩道を渡っている。
その瞬間、トラックが死角から出てくるのがミラーに映った。
「ちょ…」
気づいた、そして、その映像の主は子どもに近づき…
押した。
子どもを押した瞬間、映像が歪み電源を落としたようにプツンと切れた。
映像は誰かの視覚を通して見たもののようだ…
これは…俺の…そうだ、これは俺が見たものだ。
俺は…死んだ?のか?
「死んではいませんよ。」
映像に夢中になっていた俺が、男の方へ振り返ると、男は変わらずニタリと笑みを浮かべている。
心が読まれているかのようで気味が悪い。
「これで状況は把握できましたね?
あら、把握できていない?
では特別にお教えしましょうか。
貴方は死んではいない。」
変わらない表情で淡々と話すこの男についていけない…。
そう思った時、男の表情が初めて変わった。
今までよりも口角を上げ、一層目を細めて言ったのだ。
そのあまりの不気味さに背筋がすっと寒くなるのを感じた。
「今は、がつきますけど…ね。」
「ど、どういう…」
「まぁいいです、どうせしばらくはここにいることになりますから、アルバイトをやってもらいましょう。」
「は?何を…」
「やることは簡単ですよ。
この無数にある蝋燭の基、つまり台の部分に数字がありますから、毎日私が言った番号の蝋燭を消していけばいいのです。」
食い気味な説明で全然喋らせてもらえない。
男は、説明を終えて、ね?簡単でしょう?とでも言うかのように、笑みを浮かべたまま首を傾げた。
こんな顔がもしインターホンを鳴らして「神様を信じますか」なんて言ってきても絶対にドアを開けることはない。
だが、俺は何故だかこのアルバイトの話を受けてしまった。
そして蝋燭を消すバイトが始まった。