第7話『話したいことがたくさんある!』
「これは!どういうことなの!世界はどうしてこうなっているのさ!」
そう叫んでいるのは今日知り合った男の家にノコノコとついてきた、自称ミステリアスな美少女ミチオールである。
彼女はいま、我が家のリビングにあるソファアに我が物顔で座り興奮しながらでっかいクマのぬいぐるみを抱きしめてテレビを見ながらそう叫んだ。
テレビの内容は世界中で現れた『負けイベントモンスター』の映像が流れていた。
様々な人が撮影したのであろう、人類史にはいないはずの化け物どもが動く動画の特集である。
モザイク処理はされてはいるが朝の報道番組で流せないはずの人が襲われているシーンも流されていた。
軍人らしき人が銃を発砲するも何事もなく耐えるモンスター。
そのまま蹂躙されていく人間たち。
報道番組ではニュースキャスターの人たちがこれは本当に合成ではないのか?実際に世界で起きていることなのかと議論している。
自覚症状がないみたいだがこの人たちももう自分の体にスキルと呼ばれることとなる異能な力に目覚めている。
俺はお気に入りのシャツを着て、左手がないと結構服着るのって大変なんだなと改めて手がなくなったことを実感する。
右手でリモコンを持ちテレビのチャンネルを変える。
それにしても、このスキル電波届くんだな。
「ちょっと!デブ君なんで急にチャンネル変えたりするの!今僕が見てたよね!一言声をかけるって常識ってもんだろう?きっと僕のスキルはあの化け物どもと戦うために神様が与えてくれたに違いないよ!」
「お前のスキルでどうやって戦うんだよ。明らかに非戦闘員じゃねーか、治癒能力なんて。ほれみろ。このチャンネルお前が言う選ばれし人間特集やってるぞ」
ミチオールの隣に座りテレビを指差す。
外国人が手から火やら電気やらを手から出している動画の特集。
有名動画投稿者やらの動画らしい。
再生数がすでに1億をこえているらしい。
コラ動画にしてはリアルすぎる。編集ソフト使ってんだろ?などなどのコメントが番組で飛び交う。
すると、その場にいた芸人の一人が自分の掌から小さな水玉を作り出し、その場にいる全員が驚愕の声を上げる。
生放送ということもあり、編集で加工出来るわけがない何より私たちの目の前で起きているこれは現実でしょうか?と大物キャスターが自分の頬をつねっている。
「デブ君、これってどういうことなの?彼らも選ばれた人間ってことなのかな?」
「いんや、選ばれようが選ばれまいがスキルは強制的に植えつけられる。死にでもしない限りな。『世界』からの贈り物。強制的に進化させられたって言った方が正しいかもな」
俺は隣にいるミチオールにそう告げた。
ミチオールはだいぶ落胆した顔で俯く。
自分だけが特別だと思っていたことが実はそうではなかったことに対してだろうか?
十分、お前のスキルは特別だから安心しな。って励ますと調子に乗りそうだから黙ってよう。
他のチャンネルも見てみたがほとんどがスキルのことについての報道ニュースである。
『負けイベントモンスター』のことも多少なりともあったがにの次である。
俺は立ち上がり、キッチンでココアを注ぐ。
どうやら、我が家にあったものはすべて食品から家電、ゲームまで無事全てもってこれたようだ。
電気もガスも通っているしここは確かに安心して安らげる場所である。
どういう仕組みなのかわからんが、使えるので良しとしよう。
俺はミチオールにココアを渡し、また隣に座った。
「なーんだ。僕だけじゃなかったんだぁつまんないの」
ミチオールはココアに口をつけながらそう呟いた。
器用にクマの人形を抱きしめながらである。
その光景は俺がムカつくあいつと瓜二つなので困る。
無表情なくせにわかりやすいという謎の属性持ってたもんな。
「つまんなくはねぇさ。これから全人類に起こる悲劇を考えれば生きているだけで特別な存在となってくる」
「デブ君って不思議だよね」
ミチオールはそう呟くと俺のほうをみる。
青色の瞳で真っ直ぐに。
全てを見透かすようなその瞳で俺を見てくる。
「普通じゃないって言った方がいいな。僕の特殊な才能の話を聞いた時も動揺しなかったし、手がなくなってるのに半裸で公園で寝ているのも変。テレビのニュースの内容を見てもこうなるのが当たり前って感じでさ。君は一体何を知っているの?」
何を知っているか?
確定しない未来を少し知っている程度なのだが。
かといって、確かではないこの話を人に、それもあってまだ間もない人間にしていいものかどうか。
あと普通に変だとは思ってたんだな。
「俺はある程度の予備知識があるだけだよ。なんでも知ってるわけじゃないが」
「なんだよそれ!命の恩人である僕に対して、ふん!隠し事するデブ君なんて嫌い!」
そんまま拗ねて俺の太ももに頭をのっけて寝っ転がる。
この女の距離感は一体どうなってんだ。
人のこと普通じゃないなんて言っている場合じゃないぞ全く。
俺はココアに口をつけてニュースを見る。
世界中で起こった人類の強制進化。
これから起こる非現実な現実。
あと数時間もすれば世界は壊れる。
世界が望む世界になるために。
ひとまずは涼香ちゃんと小治朗と接触せねば。
俺は連絡が取れる方の携帯電話を手に持つ。
連絡の履歴にありえないほど二人からの着信がたまっている。
折り返しの電話をかけるが通じなかった。
ただいまで電波のないところにいるか携帯電話に電源が入ってないと繰り返される。
どうなっている?
留守番電話も確認してみたが何も伝言はなかった。
小説ではもう『負けイベントモンスター』はここら辺にはいないはずだから大丈夫だとは思っているが。
嫌な予感がする。
俺が立ち上がるとミチオールがそのまま滑り落ちる。
床にダイブしたミチオールはいじけているのかそのまま動かなかった。
「悪い、ミチオール俺ちょっと用事ができたから出かけてくるけど、できればこのままここで待機しといてほしい。ここは安全だそれは保証する。むしろここ以外が今から危険地帯へと成り替わる。だから動かないでここで俺の帰りを待っていてくれ」
返事がない、ただのミチオールのようだ。
俺は勢いよく玄関間から外に出た。
頼む、何事もないことを祈るぞ!
俺は隣にある小治朗の家のインターホンを押した。
何度も何度もしつこいぐらいに近所迷惑なんて知るか!
今、小治朗の家族は涼香ちゃんの家族と一緒にハワイ旅行に行ってくると師匠から聞いたから小治朗しか出てこないはずだ。
だが小治朗は出てきてくれなかった。
そのまま急いで小治朗の家とは反対側にある涼香ちゃんの家のインターホンを押す。
もしかしたら二人で行動しているかもしれないと思ったから。
だが、涼香ちゃんの家もハズレで誰もいなかった。
どこいったっていうんだよ!
おちつけ、冷静になれ!
大きく深呼吸をし肺いっぱいに酸素をいれ吐き出す。
携帯を取り出し、連絡の履歴を見る。
最後の電話が23時50分を指している。
つまりそれまでは二人とも異常はなかったということになる。
他に行きそうな場所に心辺りがない。
もし他に行きそうなところがあるとしても電話くらい出るだろ。
落ち着けてない、どこいったんだよ。
髪をかきむしる。
かんがえろ、かんがえろ。
シワが入ってない脳みそで考えろ!
こんなことなら『世界』に頭のよくなるスキルもらっとけばよかった!
もしくは答えがわかるスキルとかぁ!
二人のスキルってなんだっけ?
そうだよ!スキル、小治朗のスキルはともかく涼香ちゃんのスキル!
俺は走り出した。
小説通りなら涼香ちゃんのスキルは『移動』
言わずも知れた移動系のスキル。
だが涼香ちゃんの『移動』は物体をA地点からB地点まで瞬間的動かせるだけじゃない。
時空間もテレポートが可能なのである。
小説では好きな時間に飛べると言っても未来だけ。
過去に移動できることはできない。
もしかしたら何か公園でイレギュラーが起きてしまいそのせいで時間移動をしたと推測すれば。
まだスキルに目覚めたばかりでいきなりそんな高度なことができるかどうかは怪しいが涼香ちゃんならできる!
なんでもかんでも当たり前にこなすことができる人生イージーモードのあの天才なら。
ただの直感だが俺にはそれ以外ないとしか考えられなかった。
公園にたどり着く。
今朝いた時と何も変わりがなかった。
携帯電話を見る。
今は朝の7時過ぎか。
俺はベンチに座り込んだ。
その場で目をつむってじっと待った。
目の裏側にあの二人に自分が最後に関わらないといった日のことが浮かび上がる。
俺はどんな顔してたっけな?
二人は当たり前、当然だみたいな顔をしていた。
俺がヤンキーグループを作り始めたから本当は二人とも俺から離れたかったんだなと勝手に納得した。
勝手に納得して勝手に結論付けて勝手にわかったような気になっていた。
昨日の二人の涙を思い出す。
寂しかったと嗚咽をあげて震えていた。
後悔した。
きちんと話せばよかった。
俺はバカなんだ。
人の気持ちを察するのも疎いし、自己中心的な考えをいの一番に思いつく。
俺はそんな俺が嫌いじゃないしこれからもこのまま生きていこうと思っている。
だからこんな俺を大事だと言ってくれたあの二人をもう悲しませることなんかしたくない。
おしゃべりしようぜ?昔みたいに。
積もる話があるんだ。
世界が壊れても作り変えられても好きなように喋ろう。
もう互いにすれ違い会うのなんてのはごめんだ。
大事な誰かを傷つけてまでもう後悔したくない!
なにか風のようなものを感じてゆっくりと目を開ける。
そこには見知った二人が立っていた。
二人ともボロボロになった制服を着ており既に慢心相違だった。
全身に切られたような傷があり少しアダルトなエッチな雰囲気を醸し出す。
息を切らしており、俺には気づいていないみたいだ。
大木小治朗と黛涼香の二人がそこにいた。
二人の視線の先にはそれは綺麗な銀色の毛並みを持つオオカミがいた。
巨体な体には足が6本もついており、尻尾を大きく膨らまし左右にゆっくりゆっくりと揺らしている。
牙は全てを噛み砕くがごとくキラリ光る。
草食動物のように目が横についているオオカミ、『負けイベントモンスター』『ソニックウルフェル』がそこにいた。
いや!なんでだよ。
もう『負けイベントモンスター』はこのあたりにいないはずだろ?
このオオカミ確か小説ではもっと違う地域に出現してたじゃん!
もっと遠いところにいたじゃん!
『負けイベントモンスター』に呪われてんじゃねーの俺?
3体も倒したから4体目もいっしょとか言わねーよな?
冗談じゃねぇ!たしかに『フライングホオジロシャーク』や『グリーンオーガ』に比べたらまだ弱いよ?
弱いだけで今の人類が単体で勝てるように設定されてねぇんだよ!
だいたい涼香ちゃんなんでこのオオカミも一緒に連れてきてんの!
置いてきなさい、我が家ではこんな大きな犬買えません!
って!やべあの犬っころ息を大きく吸い始めやがった。
一か八か。
次の一瞬、『ソニックウルフェル』は姿を消した。
あまりのスピードで走り去った衝撃波はかまいたちを生み出すほどである。
威力は少し弱いが幾千にも繰り出されるその風の刃は確実に人体へと傷をつける。
が弱点がある。
この技を使うときに大きな隙ができる。
大きく息を吸うだけでなく足の裏にある発射口から勢い良く空気を噴射し地面を蹴ることにより圧倒的なスピードで移動できるのだ。
なのでこうやって少し地面から浮かせてやれば足の裏にある空気の噴射口から出る空気によってこうやってそれ高く飛んでいくのである。
二人の前に出た俺は思いっきりオオカミの顔面を蹴り上げた。
手には『フライングホオジロシャーク』から回収した『無重力玉』を手に持っている。
この玉は所有者の望むままに触れた物または所有者自身の重さをゼロにできる。
俺ごときの蹴りでは普通なら上がらないこの巨体も体重がゼロならば難なく上がる。
あまりダメージはないようだがそれでいい。
目的は地面から足を浮かすことにある。
足から離れた瞬間に体重は元に戻る。
天高く飛んで行った『ソニックウルフェル』さすがにあの高さから落ちればただでは済むまい。
「たーまやー」
俺は大声でそう言った後に振り返り二人にこう言った。
「待たされたぜ!二人とももう大丈夫だ、なんせ俺がお前らの味方なんだからな!」
ピースサインをする二人の顔は安堵の顔というよりも当たり前、当然だと昔から二人がよくする俺の好きな顔だった。
「はっは!んじゃまいっちょ、三体一で悪いがお前の方が強いしこのくらいのはんではゆるしてもらうぜ?さぁ!俺の喧嘩に惚れてくれ!」
俺はそう言って『ソニックウルフェル』に喧嘩をうった。
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