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第3話「運の悪さ」

初めに言っておくが俺は持久走には自信がある。

中学の時も三年間、先輩や運動部のやつらに大差をつけて校内持久走で1位を獲得したことがある。

ヤンキーの集団に入っていたからってタバコも吸うわなかったし酒も飲んでない。

この夏休みの間も毎朝ランニングを心がけた。

動いた分食べるから体重は増量待ったなしだったが。


走りながら俺は後ろをちらりと見る。

決して早くはないがそれでも着実に俺の後を追ってくる『グリーンオーガ』。

俺の血の匂いにつられているのかたまに人とすれ違ってもその人には目もくれずに俺だけを追いかけてくる。

地鳴りを鳴らしながら迫ってくる緑色の化け物。

あくまで一定の距離を保ちながら俺は走って逃げる。


すれ違った人からはどういう風に写っているのだろうか?

『負けイベントモンスター』の中でもトップクラスのパワーと知能の悪さをもつ『グリーンオーガ』

本能のみでいきる脳筋タイプのこのモンスターの最大の特徴は自分が獲物と決めた相手はたとえ地の果てまでも追いかけてくる習性がある。

その間は他のものには目も向けずにひたすらロックオンした獲物を追いかけ続ける。

漫画で読んだことあるが熊みたいな修正だよな。

そして誰かに獲物を奪われることを事細かに嫌がる。


走りながら俺は小説の内容を必死に思い出しこの状況の解決策を考える。

運がよけりゃあ・・・いや運が悪けりゃあ俺の予想通りになってくれるはずだ。


俺は手から流れる血を所々にまいて街中を走る。

幸いこの時間は人通りはほとんどなくどの家も電気が消えている。

もうおやすみなさいの時間だ。


明日からはもうこの光景が見れなくなると思うと少し寂しくなる。

小説でも被害が出始めるのは世界が壊れた夜の次の日からである。

本当に壊れた日は今日なのだがモンスターが溢れ始めるのは日本時間で言うところの明日の正午からである。


今この瞬間に世界が生み出したのは『負けイベントモンスター』のみである。

だいたい100体ほどの『負けイベントモンスター』が世界に散らばっていったのだ。

これは世界が好む強者に挑む弱者のバトルが見たいがために生み出されたが弱者である人類は一方的に殲滅される。

一方的なワンサイドゲームに世界はつまらなく思い、人類に今までになかった特殊な才能を授ける。


その時間がちょうど日本での日付が変わる時間。

世界中でまだ昼の国などの人々は急に扱えるようになった異能に驚きテレビで騒がれているときに夜更かしをしないだいたいの日本人はのんきに寝ているのだ。


『負けイベントモンスター』のことも世界中で発見され多分今頃SNSなんかでトップのトレンドになったりしていると思う。

今の俺に携帯をいじる余裕なんてないけどな。


どれくらい走っただろうか?

息切れを起こし呼吸するたびになんな血の味が口中に広がる。

滝のように流れる汗をぬぐいながら後ろを振り向くと『グリーンオーガ』はその巨大な棍棒を片手にとんでもないプレッシャーを放ちながら追いかけてくる。

その顔には間違いなく疲労がたまっている。

そうだよな、小説通りなら周りにエネルギーを吸収する相手がいないこの状況ではその額のツノが邪魔で仕方ねーよなぁ。


命がけの鬼ごっこ。

まだ30分ほどしか走っていないのに疲労感がハンパない。

このままいけば俺の体力が尽きる方が先だろう。


あともう少し、小説通りならあれがあそこに生えているはずだ。

周りの景色もすっかり変わり住宅街から木々が生い茂る森の中へ。

手から流れる血を巻き散らかしながら俺は走る。

貧血もプラスで意識も朦朧としている。


正直もう目の前もほとんど見えていない。

だがこれでいいこの状態じゃなければいけない。

大丈夫走馬灯は見えていない。


そこからどれくらい走っただろうか?

俺はよおやく目的の場所にたどり着いた。

朦朧とした意識の中でもはっきりわかるその異様な光景。


雑草のような小さな草が一本生えておりその周りの木々は一本残らず枯れている。

まるで養分を吸い取られたかのごとく。

実際の理由は違うのだが見たままの感想ならこれが正解だろう。

急いで携帯電話にイヤホンをさして最大の音量で音楽を流す。

大音量のおかげで鼓膜が破れるほどの振動が耳に伝わる。


ズボンを固定していたベルトをイキヨイよく引き抜き血が出ている方の手首を思いっきり縛った。

今更止血なんてしてもあんまり意味ねぇだろうがないよりはマシだろ。


その手で俺はその草をイキヨイよく掴んだ。


ふと振り返るとニタニタと笑いながら俺の方にゆっくりと歩をすすめる『グリーンオーガ』

醜悪なその見た目は俺をこれからどういたぶってやろうかという魂胆が見て取れる。


「グーギャッギャッギャッギャ!」


何か叫んだみたいだが聞き取れない。

よかった、これで俺がこいつを引っこ抜いても死ぬことはない。


俺は覚悟を決める。

初めから、五体満足で生き残れるなんて考えちゃいねぇ。

小説なら死んでいるらしいからな俺。


手の一本や2本くらいでこの人生少しでも長くなるなら安いもんだろ?


空を仰ぐと巨大な影が月明かりを防ぐようにそこにいた。

それを確認した俺は思いっきり草を引っこ抜いた。


「まあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


俺にはなんて言っているのか聞こえない、この植物、声自体はそこまで大きくないがその声を聞いた人間の殺すことができる植物型の『負けイベントモンスター』、『叫ぶ毒草』。

小さな手のひらサイズのその球根には目と口のような黒い穴が開いており、なんとも不気味な見た目をしていた。


叫びで殺せるのはあくまで人間だけだし、モンスターにはなんの障害もない。

実際に目の前の『グリーンオーガ』は何食わぬ顔で俺の方への歩みを止めない。

ほんの少しだけ俺は『マンドレイク』を口に含み咀嚼する。


俺は引っこ抜いたマンドレイクごと手を天に上げた。

さぁ餌はここにあるぜ?

食べたきゃたべな。


ポケットにあったハンカチを加える。

空から降ってきた黒い巨大な影は俺の掲げた手のみを『マンドレイク』ごと食らいついた。


「が、いいいいいいいいい、ぐううううううう!!!!」


あまりの痛みに意識が一気に覚醒する。

本当に運が悪い。

いや食われたのが腕一本ではなく手だけってところはある意味運がいいかもしれんが。

それにこの化け物がここにくるように仕向けたのは俺だが、三体もの『負けイベントモンスター』が一堂に集まるなんて。

小説でもある程度話が進んでからだったぞ、『負けイベントモンスター』を討伐する試みは!


およさ8メートルはあるその巨大な空飛ぶホオジロサメのような化け物。

鋭利な牙はしっかりと噛み合っており、その口元には今しがた食らいついた俺の血がべっとりとこびりついている。

胸びれにはおよそサメには付いていないような羽がびっしりとついている。

その円らな瞳でしっかりと俺をロックオンしている。

『フライングホオジロシャーク』

『負けイベントモンスター』の中でもトップクラスの実力を持つモンスターである。


こいつは空を悠々と泳いでいる。

人の血の匂いに敏感でだから俺はありとあらゆるところに血を巻いた。


大音量で流れているイヤホンを耳から外す。


俺が生き残るにはこうするしかなかった。

自分では勝てない『負けイベントモンスター』同士をぶつける。

あとは互いに殺しあってくれ。


どういうわけか、『負けイベントモンスター』というより『世界』が生み出した『ビースト』と呼ばれる存在は基本『ビースト』同士は争はない。

だが例外がある。

相手に攻撃されるか、自分の本能に直接作用される禁止事項を行われると『ビースト』同士で争い合う。


『グリーンオーガ』の禁止事項は獲物を奪うである。


自分の獲物が取られたと大激怒する『グリーンオーガ』が巨大な棍棒で『フライングホオジロシャーク』の顔面をイキヨイよくフルスイングする。

『フライングホオジロシャーク』は枯れた木々がクッションになりながらその巨体がぶっ飛ばされる。

あまりの爆風に巻き込まれるが体もうずくまることにより俺が吹っ飛ぶことはなかった。

何食わぬ顔で起き上がる『フライングホオジロシャーク』はターゲットを『グリーンオーガ』の方に変更。

突進していきその巨大な牙で噛み付くとそのまま天へ昇っていく。


『グリーンオーガ』は持っている棍棒で何度も何度も『フライングホオジロシャーク』を殴るが決して離さずにそのままユウターンをし地面へと『グリーンオーガ』をたたきつけた。


あの巨大な歯でも噛み切れなかったのか『グリーンオーガ』の体にはしっかりと『フライングホオジロシャーク』のキバが深々と突き刺さっていた。

なんでだよ!小説内だとその牙で鉄筋のコンクリートかみ砕くシーンとかあるんだぞ。


『フライングホオジロシャーク』の口を見てみるとボロボロの担った牙がみるみると再生していく。

あれだけ殴られたというのにもかかわらず浅い傷しか追っていない。

『グリーンオーガ』も刺さった牙のことなど気にもしていないようでその棍棒でまた『フライングホオジロシャーク』に殴りかかって行った。


とてつもない迫力の大怪獣バトル。

本当にこれ人類がスキルを手に入れたごときで倒せるようになるのか?


『負けイベントモンスター』は意思を持った厄災である。

人が近くにいたら襲い、なぶりものにする。

だがその数が少ないのと互いに不干渉という点から滅多なことでは争はない。

だがこうして無理矢理理由をつけさせて争わせることができる。


だいたいなんでこの広い世界で約100体しかいない『負けイベントモンスター』が三体もこんなところに集まってくるんだよ!

主人公か?主人公がこの地域に住んでいるのがいけないのか!


まだ定まったルールもない0日目でなんで俺がこんな化け物ども相手にしなきゃあいけねぇんだ。

目の前の化け物どもの戦闘巻き込まれないように避難しながら心で叫ぶ。


亡くなったはずなのに手がズキズキと痛む。

なんとか服を巻いて止血をしているがこれもいつまでもつことやら。

早く上院に行って治療してもらいたいもんだぜ。


どのくらいの時間が経っただろうか。

ここら辺一帯の地形が変わってしまうほどめちゃくちゃになったいた。

枯れた木々は一本も残らず倒れその中心部で勝ち誇るように『フライングホオジロシャーク』が『グリーンオーガ』を天空に投げ飛ばしその巨大な口をあける。


『グリーンオーガ』は最後の抵抗のごとく自分の額に生えていた立派なツノを折りそのまま『フライングホオジロシャーク』に投げつける。

そんな攻撃もできたのかお前!

ツノは見事目に命中し一矢報いたことに満足したのか『グリーンオーガ』は少し満足げな顔を浮かべ口の中に入っていった。

『フライングホオジロシャーク』は無慈悲にもその巨大な口をとじる。


周りに生物のものとは思えない色の血飛沫が舞う。

芸術家が絵の具をぶちまけたような風景がそこにあった。


俺は亡くなった手のほうをさすりながら、『フライングホオジロシャーク』に近寄る。


きちんと初めに10秒数えなかったからこの鬼ごっこはお前の反則負けだな。


ゆっくりと『フライングホオジロシャーク』の目に突き刺さったツノを引き抜いた。

『フライングホオジロシャーク』はせずにただじっとしている。


潰れなかった目の方にはもう精気を感じられはしなかった。

危なかったもう少し毒が回るのが早ければ俺は『グリーンオーガ』方に殺されていただろう。

いや、この折れたツノの効力が功を奏したのかもしれない。


『叫ぶ毒草』はただ奇声を発する『負けイベントモンスター』ではない。

あまりにも強い猛毒を持つ植物系モンスターである。

周りの木々が枯れたのも単にその強い毒性にやられただけだ。


遅延性のその毒はほんの少しなら鎮痛剤になるがあれを丸ごと食うとなれば話は別だ。

毒も使い方を誤らなければ薬となるが間違った使い方をすれば薬も毒となる。

有名な話だ。


サメの口を大きく開く。

本当は歯なんかも回収したいところだったがさすがに『叫ぶ毒草』の毒と『グリーンオーガ』の戦闘で再生できないほどのダメージを負ったらしく歯はボロボロに砕け散っていた。

最後の最後で『グリーンオーガ』を噛み砕いたのが止めになったんだろうな。


俺は口から目的のものを取り出すと手を握りしめ何も入っていないズボンのポケットにツノとともに入れた。。

近くに放り投げられていた『グリーンオーガ』の棍棒を片手で拾い上げる。

重くごつく、俺などではとても扱えるジロものではない。


運が良かったのか悪かったのか。

生き残ったことは良かったがこれから世界がどうなるのか俺は知っている。

知っているからこそこれから起こる数々の悲劇をすべて食い止めるのが不可能ということも知っている。


とりあえずは二人がまつ公園に行くとするか。


無事だった方の手で時間を確認する。

23時59分。

そう記されていた。

永遠にも感じた2時間だった。


あと1分もすれば俺の何かしらのスキルに目覚めるのかね。

俺は棍棒を『フライングホオジロシャーク』の遺体に突き立てた。


なんの恩も義理もないが『グリーンオーガ』お前の墓標としてはぴったりだろ?


俺は振り返り二人がまつ公園へ行こうと足を動かそうとしたが俺はうごえなかった。

そこにいた圧倒的な存在感を放つ何かに。


「ブラボーブラボー!すごかったよ君の作戦!なんで知ってたのかは謎だけど、いや!教えてくれなくていい!むしろ教えないでくれ!久しぶりのハラハラドキドキってのを感じたよ!はぁたまんない。これがあるから生きるのはやめられないんだと思うんだよね!」


振り返った俺の目の前に急に現れた少年とも少女ともとれる外見をしたガキ。

俺はこいつの存在を知っている、いやこんな、プロローグも始まっていない場所で出てきていい人物じゃない。


人物と表すことなんてできないガキだが。


携帯の時計の日付は0時をちょうど刺した時のことだった。


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