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第2話 「グリーンオーガ」

『世界は壊れた、理由は退屈だったから。

世界は自分に自我が芽生えた時のことは覚えていない。

ただ自分には何かしらを生み出す力があると本能的にだけ悟っていた。


何もない世界。

変化はあるがほとんど何も変わらない。

退屈がてらに勝手に成長するものを作った。

意思も理由もなくただ成長する何か。


それは水を吸い上げ、大地から養分を吸収し世界中に種を飛ばしていった。


途方もない時間をただそこに存在した世界はある日ふと考えた。


自分と同じ自我がある何かを作ろうと。

気がつけばそれは自分の中にいた。

小さな小さな動く何か。


意思を持たず海の中をさまよう何かを。

だが確かにそれには目的があった。

生殖して子を残そうという目的。


何度も何度も繰り返していくうちにそれは姿形を変えていき様々な生物となった。

石や水のようにただそこにあるわけではない。

動き、考え、行動できる。


いく日たっただろうか?

気がつけば、それは地上にて王者のごとく君臨していた。

他の生物たちを知恵という力で押さえつけて、圧倒的なスピードで世界中に繁殖した。


この生物の一番面白いところは同じ種族で争うところだった。

理由は様々だが、一番規模が大きいのは陣取り合戦だ。


陣取り合戦はだんだんと規模を拡大して行った。


世界はこれを面白く思った。

自分の中にある大地を割れさせてそこに水の境界線を張った。

わざと大きな大陸や小さな大陸に割れた。


圧倒的強者に弱者が蹂躙される姿を見るのがこの時世界は好きだったのだ。


さらに時が経つ。

争いあってはいるが着実に新しい文明を築き上げる生物たち。

もはやこの世界で彼らを超える生物は出てきはしないだろう。


またも争いが起きた。

よりによって巨大な大陸の生物達が小さな大陸生物達と争い合うそうだ。


結果はわかりきっている。世界が好きな展開になることに世界は胸おどらせた。

圧倒的な強者にじゃくしゃが捻り潰される。

わかってはいるが病みつきになる結末。


結果は世界が思っていたのとは違うものとなった。

小さな大陸にいた生物達が勝利したのだ。

独自の戦略と文化、水の境界線でその他の大陸の生物とほとんど交流がないというのにもかかわらず圧倒的な強者にかってしまった。


その時の衝撃を世界は覚えている。

様々な争いがあった。

今までも弱者が強者に勝つという展開は観てきたが今回は規模が違った。


ジャイアントキリング。

圧倒的弱者が絶対的強者に勝つ瞬間。

気がつけば世界はその瞬間に興奮するようになっていた。


退屈とは程遠い刺激的な世界。


それも長くは続かなかった。

決まってしまったのだ。


生物たちの中でも最上位に君臨する者たちが。

陣取り合戦もやめ争い事も無くなってしまった。


あの興奮を知ってしまった世界からしてもうあの退屈な日常には戻りたくなかった。

小さないざこざはあるものの、昔のような巨大な争いはなく、似たような実力者同士でしか争わないはもうおこらなくなってしまった。


圧倒的弱者は完全な強者に挑まなくなってしまった。


退屈である。

あの衝撃をあの感動を世界は欲していたのだ。


だがまた一からやり直すには生物たちには膨大な時間をかけて見守ってきた愛着もある。


敵がいないのだったら作ればいい。

これは陣取り合戦だ。

ルールは簡単、世界からこの星を奪い取る。

人類VS世界。


世界という圧倒的な強者から見事この星を勝ち取るんだ。


世界は壊れた、あるいは作り変えられたのだった』


プロローグからとんでもないスケールの話だなと持って読み進めていたのは覚えている。

目の前の『グリーンオーガ』を前に俺はあのクソ小説の内容を少し思い出していた。


あの小説の始まりは世界が壊れてからだいたい一ヶ月くらいからスタートしてんだよな。

人類の今までの英知をあざ笑うかのごとく破壊して、文明レベルは一気に落ちる。

それでも何かしらのスキルに目覚めて、たくましく生きる人類。

ある程度この壊れた世界に慣れ始めたところからスタートしてたよな。


だいたいうん悪すぎない?

そんなしょっぱなから『負けイベントモンスター』に遭遇するとか。

こいつらは、地球が壊れたその日に出現した中でも最高クラスのモンスター。

俺の運が悪いのはいつものことだから仕方がないがよりにもよってここまで悪いことも珍しい。


スキルにも何にも目覚めていない人類が勝てる相手じゃない。

買っていい相手じゃない。


「グーグーギャァァァァ!」


目の前の『グリーンオーガ』が雄叫びをあげる。

やばい、足がすくむ。

今まで様々なやつと喧嘩してきたけどこいつは違う。


圧倒的上位の存在。

蟻一匹が象に挑むに等しいこうい。


一歩、一歩とゆっくりとこちらに歩いてくる。

いやらしく、こちらの絶望の表情を楽しんでいるかのごとく。

もし本当に小説通りなら明日、明日にさえなればまだ希望が見えてくる。


先ほど小治朗が携帯を覗き込んだ時に書いていた時間は22時。絶望的だわ。

腹くくるしかないのか?


どうしたら、どうしたらいい?

頭の中でごちゃごちゃと考えがこんがらがる。


何故か、浮かぶ小説の内容。

序盤で死んでしまうキャラで大木小治朗と黛涼香という二人がいる。

彼らは世界が壊れた日運悪く、初日に『負けイベントモンスター』に出会ってしまった。


たまたま一緒にいた二人が愛してやまない最愛の人を犠牲にして生き残る。


モンスターというモンスターを憎み、殺しだんだんと壊れていく。

モンスターを殺すのが快楽に変わっていったのだ。

あまりの強さに人々は彼らを英雄視したが最後には化け物として圧倒的な強者に殺されこの世を去る。


名前が同じってだけのただのウェブ小説の登場人物。

だがもしあのクソ小説に書かれていた二人がこの二人のことだとしたら?

最愛の人が俺だとしたら?


俺が死んだことで二人の人生観がそんなに変わるとは正直思えない。

それに俺が犠牲になることで二人が生き延びれるならそれでもいい。

が、もし、もしもあの小説通りに、二人が死ぬっていうのなら話は別だ。


覚悟は決まった。

あの小説通りなら、2時間さえ過ぎればこちらにも勝機がある。

ギャンブルってのは悪ガキが好きな遊びのひとつだろ?


「おい!小治朗、涼香ちゃん!俺を信じてここを一歩も動かないでくれ!大丈夫俺はすぐに戻ってくるから。思えらが愛する親友を信じて待っていてくれ」


大声を俺はあげるとそのまま『グリーンオーガ』の方に走る。


「デブ!」


「ブーちゃん!」


後ろから悲鳴に似た俺を呼ぶ二人の叫び声が聞こえる。

俺は振り返らずに走った。


また再開しよう。

大丈夫、小説通りにはなりゃしねぇよ!

俺はこのカップルの結婚式の友人代表として呼ばれるのを夢見ているんだ。

この場所で生きてまた会おうぜ。


俺は自分の手を目一杯に噛んで手から出血した血をグリーンオーガの顔面に向けて飛ばす。


『グリーンオーガ』は目に入った血を拭い真っ赤に染まった顔を俺に向けた。

小説通りならこいつは視覚情報よりも嗅覚を頼りや聴覚を頼りに敵がどこにいるのかを確認しているはずだ。

今やつの鼻腔にはおれのちのにおいがべッタリついている。


俺はズキズキ痛む手をリズミカルに叩く。


「鬼さんこちら手のなる方へ!」


「グギャああああああああ」


巨大な咆哮と共にこちらに駆け寄ってくる『グリーンオーガ』

走るスピードはそんなに早くないが無尽蔵の体力を持つ。

タイムリミットは2時間。


サァ命がけの鬼ごっこの始まりだ。

初めに10秒数えてくんなきゃお前の反則負けだぜ?鬼さん。




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[良い点] 命懸けで守ってくれた昔馴染みの友人に向かって「デブ!」って叫ぶの面白すぎひん?
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