25. 最終章 ~終止符はどこへ『B』~
「死んどけ」
息をきらす眞貴人。その視線の先には燃え上がりながら地面に倒れる繋霊。
「偽面の翁も倒したようだね。正直、君たちに偽面の翁と嵌合接車を倒すほどの実力があるとは思っていなかった。褒めてもいいね、素晴らしいよ」
息を整える眞貴人。その視線は言葉を吐く保橋朝宏の方。
「随分と上からだな。繋霊はどちらかが命が共有されている。だからどちらかが死ねばどちらも死ぬ。この繋霊どもを倒したところでテメェが死ぬとははなから思ってねぇよ。まだ何か隠してんだろ? 早く出せよ、出さねぇなら切っちまうぞ」
自らの方へと足を進める眞貴人に人差し指を口元に置く保橋朝宏。
「静かに。頭に血が上ってしまっているよ。足を止めて周りの音に耳を傾けよう。今のまま僕の方に来たところで君はまた失敗する。今は失敗から学ぶ状況ではないよ。勢いに乗っているときこそ一度立ち止まるべきだ、そうすることができれば必ず機会は来るよ」
それを聞いた眞貴人は足を止める。そして周りを見渡す。
「テメェ以外がそれを言えば言い訳に聞こえてた。けどテメェが言えば様になる。なるだけだ。本当は奥の手なんてないんだろ?」
「君らしくないことを言うね。けれどそれじゃあ結果は変わらない。君はここでいなくなる。彼はどうだろうね。台桜雪彦君。あらゆる選択肢の中で君は私の元へ、台桜雪彦君は甲騨飛之会長の元へと送った。その意図はどこにあるのか聞いてみたいね」
保橋朝宏は笑みを崩さない。
「意図? テメェに言う必要はねぇよ」
「台桜雪彦君を甲騨会長に殺させて僕の計画を妨害することが目的、とか」
「馬鹿を言うな。そんなことあるわけがねェ」
「軽い冗談のつもりだよ、そんなに感情を顔に出すべきではない。君にとって彼は重要な人間だ。君の中に彼が死ぬという選択肢はないと僕は分かっているよ。けれど疑問が残るね。彼が甲騨会長に勝てると本気で思っているのかい? 今の実力では敗北すると見るべきだ。無難に見るならばね。僕が彼を死なせるわけはないからというわけではないないだろう? 君も分かっているはずだよ。僕がいる限り意志は死なない」
眞貴人は手に持つ大剣を強く握る。
「あいつは勝つ。俺は知ってる、だから任せた。テメェはあいつのことをすべて知ったつもりになっているだろうがそれは思い上がりだ。実際はこれっぽっちも分かってない。知ったつもりになってると死ぬぞ、お前」
複数の火柱が立ちその中央で眞貴人と保橋の刀が交わる。
「怒りに身を任せるべきではないよ。それはその場しのぎと同意犠だ。それともう一つ忠告しておくよ。火柱に紛れて移動した君の繋霊、僕の背後を取ったつもりだろうけどやめておいた方がいい」
「なに?」
「ほら、数分前から学ぶことができていない」
眞貴人の脇腹が鈍い音をたてる。
「……クッ!」
そこにいたのは燃え散ったはずの偽面の翁。その奥には炎の鎧に狙いを定める嵌合接車。花に覆われた地面を転がり脇腹を押さえる眞貴人。
「話を聞くことは基本だよ。そこからその人というものを垣間見ることができるんだ。話し方、表情、仕草、動作。すべてにその人がいる。眞貴人君、君の底は知れたよ。もういいかな」
眞貴人は手を地面につき立ち上がる。
「黙ってろ。何度生き返っても殺してやる」
汗が溢れる手で刀を握り偽面の翁に刃を向ける。
「僕には君のほうが死にそうに見えるけどね」
「俺のことは聞いてねぇよ」
「フッ、そうだね。けど死にそうな人を気遣うことも優しさだろう?」
保橋は視線を炎の鎧へと移す。
頑丈な鎧を貫通し太ももを貫く弓矢。その弓矢は青く燃えている。
「気を付けた方がいいよ。嵌合接車が放ったその矢は刺さった対象の霊力を基に爆発する。果たして君の繋霊の場合どれくらいの爆発になるんだろうね」
炎の鎧は弓矢を掴む。
「やめておいた方がいい。今は霊力を把握している状態だ。君の膨大な霊力に少し時間がかかってしまっている。無理に引こうとすれば今すぐにでも爆発する。そうなればどうなるか分かるだろう? 唯一爆破を免れる方法は、刺さった対象が自身の霊力を使わずに矢を除去すること。つまり眞貴人君、君が矢を外すことだよ」
「そんなの簡単だ」
「そうかな? 君の繋霊が避けることができなかった時点で分かっているだろうが彼らは強くなっているよ。比べ物にならないほどに」
偽面の翁の拳を大剣で受け止める眞貴人。拳を伝い刀の炎が偽面の翁を包む。しかし拳の猛攻は止まらない。
「クソが! 怯みもしねぇのかよ」
「早くしないと粉々になるよ。ほら、もうあと数秒で」
その声と同時に矢が引き抜かれた。




