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23. 最終章 ~終止符はどこへ『A』~

 薄暗い部屋の中をゆっくりと視線を動かしながら進む。歩いた先にあるドアノブに手をかけるとゆっくりと回す。


「ここは……」


 扉の先に広がる景色はまるで天国。地面にはと真っ白い花が揚々とびっしり咲いている。

 広く明るいこの場所をぐるりと見まわす男は、また歩き始めようとするが出そうとした足がピタリと止まった。


「こんにちは、()貴人(きと)君」


 眞貴人は声のした方を振り向く。


「保橋……朝宏」


 眞貴人は目の前の人物が誰かを確認すると右手に炎を纏い、保橋朝宏へと炎を飛ばす。その炎は保橋朝宏の全身に燃え移り地面の花にも燃え移る。


「まずは挨拶から始めようか」


 そう言い、保橋朝宏は手に持つ刀をゆっくりと左から右へ振ると炎は何もなかったかのように消えた。しかし、保橋朝宏の背後に唯一消えていない炎、白い花に真っ黒い影をつくりながらそれは威力を増し中から大剣を振りかざした銀色の鎧が姿を見せる。


“ガンッ!”


 二人の刃が交わる。だが鎧はすぐに眞貴人のほうへ下がる。


「久しぶりだね。二人ともずいぶん成長したみたいで僕は嬉しいよ。君たちは僕が初めて創ることに成功した実験体なんだ。実験体である君たちも一緒に喜ぼうじゃないか」


 眞貴人は前に立つ男を睨みつける。


「テメェ、よくそんな飄々としてられんな。そんなこと気にしてたらテメェと話してられないが。単刀直入に、目的はなんだ、保橋朝宏」


 言われた彼は地面に咲く花を見まわし答える。


「心に余裕をもったほうがいいよ。そうしないと必ずどこかで治すことのできないケガをする。だけどそうやって生き続けていてもなにも始まらないんだ。時には一点しか見つめないことも大切になる。バランスが大切。けれど君は、ケガをするほうだね」

「俺の質問だけ答えてればいいんだよ。テメェが俗に言う天才だってことは知っているが完全無欠じゃねぇだろ。俺が契約者になってからどんぐらい強くなってどんだけ霊力の使い方が上達したかすべてを知っている訳じゃないはずだ。いや、すべてを知ることを望んでねぇだろ? やっと会えたんだ、こんなチャンス無駄にはしねぇ」


 保橋朝宏の口元だけが動く。


「言う通り、君がどれほど強くなったかは知らないよ。けれど君たちを創った僕だ、限界は知っている。君たちがどれほど強くなったかは関係ない。君たちじゃ僕の期待に応えることはできないと思うんだけど、どう思うかな?」

「そんなことどうでもいい。テメェの目的はなんだって言ってんだよ」

「いいよ。少しだけ無駄話をしようか」


 そう言うと天井のほうを見上げながら話をする。


「科学に基づいたものではないと存在を認められないんだ。頭が固いだろう、社会、いや世界は。だけどなんでも容認していては世界は成り立たない。僕はつまらないと思うんだ、そんなの。そんな縛られた世界のすべてを知りたいんだ。いや、これも後付の理由だ。本当は人間を知りたいんだよ」

「人間を知りたい?」


 眞貴人はより険しい表情をつくる。


「そう。人間は知らず知らずのうちに自らに枷をかけているんだ。それは人間が生活していくうちに徐々に大きくなる。人間は知らず知らずのうちに自分の限界を決めてしまうんだ。人間は潜在的な力を数パーセントしか使いこなすことができていない。とても残念なことだよ。ならば潜在的な力を最大限引き出すにはどうすいればいいか分かるかい?」


 眞貴人は無言のまま険しい顔を向けている。


「現代の技術で実現するのに現実的なのは、大量の幼児を用意し、産まれた瞬間からあらゆる環境で育て実験を繰り返すことだ。けれどそれは膨大な時間を有する上に問題点が多い。だから僕は考えた。後天的に与えたもので潜在的な力を引き出すんだ。今存在するものでこれを実現することは不可能だろうね。だから僕が新たな道を進み足跡を残すんだ。そうすれば人間の可能性はもっと、もっと広がる。そのための一歩が霊を利用した今回の実験だよ」


 眞貴人の右手に真っ赤な炎を纏う。


「そうやってテメェが勝手なことをしてどんぐらいの死人や怪我人が出てると思ってんだ。そしてテメェは時間を歪めた。そんなこと好き勝手に実験だと言って人がやっていいことじゃない」

 

眞貴人のほうへ視線を移す。


「死んだ人たちには感謝しているさ。そして彼らもまた僕に感謝しているだろうね。人間が新たな一歩を踏み出すための重要な役目を担うことができたんだ。もしも僕が彼らの立場だったとしてもとても嬉しく感じるだろう」

「テメェ……」


 炎を纏った右手を強く握る。


「そういうところが枷になっていると言っているんだよ。なぜ時間に人間が干渉すること否定するんだい? 自分たちが干渉することができない時間を人は神の領域と決めつけた。そうやって気づかないうちに枷をかけてしまう。なぜ自分が今できないことを永遠にできないと決めつけるんだ。それじゃあ進化することはできない。今の考えに囚われるべきじゃないよ、眞貴人君」


 鎧は全身に炎を纏うともう片方の手にも大剣を創り出す。


「テメェの勝手な妄想を他人に押し付けてんじゃねぇって言ってんだよ!」


 鎧は片方の大剣を眞貴人に投げ渡し、もう片方の切っ先を保橋朝宏へと向けて投げつける。

 保橋朝宏が刀でそれを受け止めると投げられた刀は包み込むように燃え広がる。


「……結果は君もわかっているはずだよ」


 眞貴人は大剣を振りかざし切りかかるが、火だるまになる保橋朝宏に受け止められ弾き返される。彼を纏う火はだんだんと威力を弱め消えてなくなった。


「なんで効かねぇんだ」


 保橋朝宏はつまらなそうに答える。


「人間は失敗から学ぶ生き物だ。今の君のように自分がどうすればいいか分からず判断を間違える、これも失敗だよ。本当はこういうことをするために力を欲している訳じゃないのに」

「力……。じゃあなんでテメェは力を持ち時間を操りたいと思っているんだ? 人間の進化とやらとそれは関係ないだろ」


 保橋朝宏は眞貴人の表情を静かに見つめながら話す。


「僕自身が実験体となることが最も効率がいいだろう? やるべきことを伝える手間がなくなる。他人に意志を伝える、これが難しいことなんだ。それに進化を語る僕が進化を成し遂げていないと説得力がなくなってしまうよ。偶然、近道として選んだことがそれだったというだけさ」


 言葉に反応するように保橋朝宏の目の前まで身長よりも高い炎が燃え上がり鎧が移動し、大剣を振り上げる。


「油断しすぎじゃないかい。前だけを見ていたら大ケガをするよ」


 同時に横から数百にもなる弓矢が鎧を襲う。咄嗟に炎で弓を矢を消滅させようとするが何本かの矢が鎧を突き破る。


「なにが起こった?」


勢いよく刺した地面を貫通させた大剣が倒れそうになる巨体を受け止める。


「君もだよ、眞貴人君」


 眞貴人は目の前の生物に顔を引きつらせる。


「なんだこいつ……!」


 全身、顔もわからないほどに腐り今にも溶け出しそうな見た目のその生物。全身を使い勢いをつけた拳を眞貴人に叩きつける。大剣で防ぐが衝撃で吹き飛ばされ花の上を転がる。


嵌合接車(かんごうせっしゃ)、殺しても構わないよ」


 「嵌合接車(かんごうせっしゃ)」と呼ばれた手に弓を持った、下半身は馬、上半身は人間で顔のない生物は弓を引き、炎の鎧に狙いを定め手を放す。放たれた弓矢は一本が二本へ、二本が四本へ、四本が八本へ、速度を落とすことなく次々と分裂を繰り返す。対する鎧は炎を纏った刃を上にあげ左から右へ振り上げると数百の矢へと轟音を轟かせる真っ赤な炎を放つ。二つは相殺され跡形もなくなる。


「嵌合接車、偽面の翁、彼らは言葉を発することはできないし、感情もない。それゆえの強さがある、僕の自信作さ。君たちが彼らを殺すことができたならば君たちの評価を変えることにしよう」


 全身が腐り今にも溶け出しそうな見た目の生物、偽面の翁は鎧に殴りかかろうとするが後ろから眞貴人がその背中を大剣で焼きながら切りつける、が瞬間、爆発し肉片が白い花びらに飛び散る。


「クソっ!」


 後ろから地面に叩きつけられる眞貴人。そして偽面の翁は穴が開いた背中をまるで沸騰する水のようにブクブクと欠けた部位を再生させる。


「どうなってんだよ」


 眞貴人は起き上がりすぐに大剣を構える。


「繋霊は霊力が全て。けれど損失した体は霊力を補ったところで直ることはない。その点、偽面の翁は特別なんだ。彼は霊力が続く限り体を元通りに直すことができるんだ。それを最大限利用するために僕は彼の体に特殊な爆薬を仕込んだ。条件を満たすことでそれは爆発し自分諸共吹き飛ばす。彼は動く爆弾なんだよ」

「まさか、こいつらも元は……」

「そうだよ、人間。彼らも感情をなくす前は喜んでいただろうね」

「テメェ、人じゃねぇな……」


 偽面の翁は立ち上がり眞貴人へ不格好に走り出し、嵌合接車は再度弓を引く。保橋朝宏は唇を歪ませて笑う。


「否定するだけじゃ物事は進まないよ。ほら、考えるんだ。目の前の敵を倒す方法を、自分が生き残る道を。さあ、見せてくれ、君の答えを」



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