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22. 最終章 ~影はきまぐれ『A』~

「「ありがとうございました」」


 遠い遠い夏休明けの授業かと勘違いしそうな一日が終わった。授業が終わってあとは帰るだけ。本来ならばそのはずなんだけどどうやら今日は違うらしい。あり得ないことがあると他人事のように思えてくるだろ。それがこれから起こるであろうことだったとしてもだ。


「だいじょうぶ?」


 当然ほかの生徒がいる場所で答えるわけにもいかないので軽くうなずく。本当は大丈夫じゃないと答えたいのだが言っている場合じゃない。必要最低限の教科書を詰めるリュックの中の刀がそれを自覚させる。


「行こうぜ」


 冷静に考えればリュックの中に刀を入れて登校しているとか校則でアウトというレベルじゃなく銃刀法違反なのだが人を殺している奴がそんなことでどうたらこうたら言いうのは馬鹿だ。いつもはたらたらとしている眞貴人は道具を詰め終わったらしい。さすがというべきだな。いつにもまして重量感のあるリュックを背負い教室を後にして階段を下る。


「説明した場所は覚えてんだろ?」

「そんなぼけてねぇよ」


 今朝、登校しながら話し合った。甲騨飛之が現れる場所、殺した後の動き、その他もろもろいつにもまして冴えない頭で。朝食買ったり、制服取りに行ったりで忙しかったのだが頭を起こすにはちょうどよかった。


「台桜も秋雨も俺も不幸だな。こんなことに巻き込まれてよ」

「なに今さら言ってんだよ。これを知らないほうが不幸だと思えるくらいには出来上がってるから安心しろ」


 眞貴人はニヤッとすると右手を上げる。


「じゃ、お互い頑張ろうや」


 下校する生徒たちに紛れた眞貴人の背中を徐々に小さくなっていった。


「俺たちも行くか」

「うん」


 歩きながら周りを見回す。学校の時計は七時を過ぎたと言っている。奴があの場所へ来るまで一時間程度時間が余る。


「眞貴人は絶対来るって言ってたけど本当にくんのかな」


 刀を腰にぶら下げている千羽は視線をこちらに向けずに話す。


「大丈夫だろ。あいつも長い間調べてたんだ」


 学校から徒歩二十分もかからない場所にある洋風のホテル。この田舎では異彩を放っている建物だ。俺が生まれるのと同じくらいに建てられたらしいが一度も行ったこともないし近よったこともない。奴はそこに現れる。


「台桜はさ…… こっちに来て後悔してる?」

「してねぇよ。最後に後悔なんてしたのは小学校の時寝る前にトイレ行かないで漏らした時だ。それからはなっちまったことをいちいち考えるのが面倒になった」


 千羽の口角が少しだけ上がる。


「そうなんだ。うちは後悔ばっかりして生きてたんだろうなって。なんかいやだな」

「それはそれでいいだろ。後悔なんていい感じに言っちゃえば反省だ。反省すれば絶対次に生きてくるだろ。考えてみろって。高校に上がって髪型とか性格を無理に変えてる奴って大抵は徐々にクラスで浮いてくるだろ。今の自分が嫌いで無理して変えようとしたら事故るぞたぶん」

「台桜らしいね。なんか元気出た」

「そりゃよかった。その分の見返り楽しみにしておく」


 小さな肩で二の腕あたりに軽くぶつかってきた。


「言わなきゃ完璧だったのに」


 そんなこと言っている間に例のホテルが顔を出し始めた。初めてこんなに近くに来たが想像していた何倍も豪華だ。いかにもセレブ専用のホテルといった感じなのでこんなところに制服を着た学生が来るのは躊躇われるが足は止めない。

 ホテル前の広場には大きな噴水が、こちらを眺めるように立っていた。


「ここら辺か、甲騨飛之が来るのは」

「たぶん……」


 夕日はもう沈みかけだ。もう何分と経たないうちにホテルから出る光が主張を強めるだろう。あいつはどこから現れるんだ。普段からどうなのか知らないが人一人近くを通らない。背負っているリュックをやけにテカっている横長のベンチに置き中の刀を確認する。


「千羽、お前昨日の傷は本当に回復したんだろうな」


 返事がない。


「大丈夫さ、彼女の力があればあれぐらいは簡単に治せるだろう?」


 毛穴から汗が溢れ出るのが分かった。後ろを振り向くと予想通りの人物が立っていた。


「甲騨飛之……」


ワックスで固められた黒髪、黒いスーツに身を包んだ男。


「千羽はどこだ」


 さっきまで横にいたのに千羽がいなくなった。目の前の男の繋霊もいない。こいつの力であることは間違いなさそうだが、どういう力だ。


「存分に戦うことができる場所を用意した。彼女はモーシャとそこで戦っている」


 甲騨はそういながらベンチの端へと腰を掛ける。


「なんだよ、お前の繋霊は戦ってるのにその感じ。お前には戦う気がねぇのか、お前の繋霊が強いから油断してんのか。それともいつでも俺を殺せるのか」


 甲騨は前かがみの体はそのままで顔をこちらへ向ける。


「肩が上がっている。もう少し力を抜いた方がいい。それと私は君と話をしてみたかったんだ」

「話?」

「安心してくれ。初めて出会ったレストランを仕切っているのも、ここを仕切っているのも私だ。邪魔が入ることはない」


 甲騨は顔を少し上げ空を見上げる。


「保橋朝宏。面白い人間だろう? 彼のおかげで普通に生きていてはできない面白い体験をすることができた。私は今の地位を手に入れることができる程度の知識はある。だが彼は私の知らないことをいとも簡単に成し遂げる。私だけじゃない。世界の誰も知らないことを彼は知っている」

「契約者になって死ぬかもしれないのによくそんなこと言えたな」

「気が付いたんだ。死ぬかもしれない、そんな恐怖を私は求めていたのだ。恐怖と隣り合わせでいることが生きている実感をもたらす。私は気分がよかった。だがそれも簡単に終わった。私とモーシャは強すぎた。どうせ勝つそんな思いが私の活力を奪った。だから決めたんだ。私をこんな状況にした彼に恩を返そう、彼ならばより面白い経験をさせてくれるんだと」


 甲騨は笑っていた。作り笑いなんかじゃない、話しているうちにでる自然な笑み。


「たぶんあんたよっぽど賢いんだろ、こんなホテルやレストラン、ほかにもたくさんあるんだろうが、これらを仕切れるくらいのお偉いさんになれてるんだから。そんなあんたが保橋朝宏の手のひらで易々と踊らされるなんてそんなちょろいもんなのか、世の中って」

「自分では想像できないようなことを考えて行動している。人はそう思える人間に尊敬したり、憧れを抱いたりする。自分とは次元の違う存在を求めているんだ。しかし現実は違う。人間なんて皆同じだ。その小さな脳で考えられることなどたかが知れている。私は小さい頃にすでに気がついてしまった。どんな歴史上の人間も、ものすごい功績を残した人間もただの人間。なにを考え、行動しているのか想像がついてしまう」

「なにが言いたい」


 ゆっくりと視線をこちらに向ける。


「なぜ多くの人がそんな簡単なことに気がつけないのか。それこそ簡単だ、気持ちを考えようとしていないからだ。自分よりも優れた人間の気持ちを考えようとせず、その立場になったとき自分ならばどうするか、考えもせず間に線を引いてしまう。そうした時点から人は劣ってしまう。くだらない、私は自分より上に立つ人間が嫌いだった」

「それだったら、あんたもそっち側になる。保橋朝宏ならば自分が思いつかないような何かを見させてくれると思ってんだろ」


 俺の目を見ているのにどこか遠くを見ているようなその細い二重。


「その通りだ。私は彼にそんな感情を抱いてしまった。だから彼に抗ってみたいんだ。私の上に立つ彼に。君はどうだ、台桜雪彦。君は今何を思い何のために行動し、何を見ている」

「知らねぇよ。あんたがいろいろ考えてんのは分かった。けど人の気持ちを考えてたら自分の仲間、部下だって同じだ、そいつらを傷つかる結論にはなんねぇだろ」

「理解はしているさ。だがすべての人の思い通りにいくほど世の中甘くはない。皆、仕方ないことだったんだ。それにそんな過去のことを考えるより今、この時を楽しもう、台桜雪彦」


 甲騨は立ち上がり周りを見渡す。


「ずいぶんと君の繋霊は耐えているようだ、感心する。モーシャ相手にこれほど耐えているとはさすがと言おう。言う必要はないと思うがモーシャも私も加減をすることはできない。君は高校生で私は去年から四十に足を踏み入れてしまった。歳の差は経験の差そのものだ。加減もしないし、油断もしない」


 いなくなった。目の前から。ベンチから立ち上がり見回すが甲騨の姿はどこにもない。なんだどういう力だ……!


「こういうことだ」

「グっ!」


 イてぇ。肩のあたりを切られた。深いなこの傷は……。

こいつ、殺す気だった。首を狙ってた。首を切り落とすのを無理だと判断した瞬間に刀を握る右腕に狙いを変えたのか。


「卑怯だと思ったか? これは命の駆け引きだ。確かに不意打ちをしなくても君を殺せるだろう。だがここまで生き残った君は何か奥の手をもっている可能性も考慮する必要がある。確実にいかせてもらおう」


 急に姿を消して姿を現す。瞬間移動系の力か。便利すぎるだろそんなの。どうやって勝つんだ、瞬間移動し放題の相手に。いや、違う。千羽も一瞬にしていなくなった。相手のことも瞬間移動させることができる? ならもっと違う方法があるはずだ。俺をビルの屋上ぐらいの高さに移動させればいい。そうすれば俺は勝手に死ぬ。警戒した結果こうするという答えに至ったということは瞬間移動は能力の一部と考えるべきだ。奴がいた場所に何か仕掛けがある……?


「影か」


 ベンチの影から細い糸のような影が続いている。繋がっている先は、甲騨の影だ。


「気が付くのが早い。一度、私の攻撃を受けただけで仕組みを理解するとは素晴らしい、褒めていいレベルだ」


 いつも通りポケットから小さいナイフを取り出して刀へと変化させて構えをとる……が半身に激痛が走る。


「無理だな。その痛みの中私に勝てるわけがない。無理に肩を上げようとすれば傷口が開き使い物にならなくなる。君は詰んでいる」


 血が止まらない。肩のあたりからシャツの色が変わっていく。


「あんたの繋霊を倒すのは千羽でも難しいだろ。だから俺があんたを殺す。繋霊をどこかへ移動させたのは裏目だったんじゃねぇのか」

「ふっ。君が生きられる時間は限られている。必然と話す時間も。挑発なんてしないでもう少し有意義なことを話すべきだ」


 影に関する力。それがわかっただけでもいい。どうする。いや、考えても無駄だ。


「その腕で切りかかるか? だが残念、単調な攻撃だ」


 刀と刀がぶつかり弾かれ後退する、それだけでも痛みが走り、歯を食いしばってしまう。


「クッ……」


 甲騨は握っている刀でベンチと自分を繋げている影を切る。そして刀を下から上へ上げる仕草を見せると切っ先から影が伸びるように俺の影へと繋がる。


「私と君の影を繋げた。影が繋がっている間は君の想像通りのことができる。君の言った通りモーシャは強い。だがこの力をより有意義に使うことができるのは私だ。君が私を殺すと言ったのが間違いだということを示そうか」


 自分の影と俺の影を繋げた。さっきの感じであれば俺の元へ瞬間移動することができるはずだ。いや瞬間移動じゃない。俺に切りかかる前は刀を持っていなかった。影の中に刀を置いていたのか? こいつはたぶん繋げた影の中を自由に移動できる。じゃあどうするんだ。影のできない場所へ移動する。だめだ、周りはホテルの外灯で影をつくるにはもってこいの場所しかない。


「なにを考える? 無駄だ」


 影の中に入った。一瞬だ。一瞬で移動してくる。移動してくる場所はわかってるんだ。


「……」


 こない? ペースを乱されている……。まずい!


「タイミングを見極めるのは難しいだろう?」


 両腕で刀を支え、相手の攻撃を受け止めるが衝撃が凄い……。身体がバランスを崩し倒れかけるがなんとか立て直す。


「またかよ……」


 また影に潜り込みやがった。あいつは俺の影から出てくる。俺の影に刀を向けておけばどうだ、自滅する可能性はないか?

 震える右腕を左手で抑え刀を自分の影に向ける。


「痛みで判断力も失ったか?」


 影を繋ぐ糸が円状に広がりそこから奴が切りかかってくる。

反応が遅れて構えられない、まずい!


「……!」


 なんとか地面に倒れこんで回避する。刀が顔を掠ったようだが気にしている暇はない。


「君は私の力を徐々に理解してきている。普段の君ならばこれくらいは簡単に予測できたんじゃないか? 傷も深い。どうやら君に奥の手となるものがないこともわかった。君が望むのであれば遺言を残した後、首を刎ねてやっても構わない。望まないのならば君の体は体と認識できる状態で残ることを約束できない。さあ、どうしようか?」

「そんなの答えを聞くまでもないだろ。お前を殺すってことは変えられねぇんだよ」


 甲騨は自分の刃を見つめたまま話す。


「残念だ。だがそれもいいと考えるとしよう。君がここに来る前から知っていた。炎の繋霊と契約者は保橋朝宏の元へ向かったのだろう? 彼らじゃ保橋には勝てない。彼らは保橋に殺される。そうなれば私の繋霊としての最後の相手は台桜雪彦、君だ。そんな君を無残な姿にしたくはなかったのだが断られたのならば仕方がない。望み通りにしよう」


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