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17. 少女と出かけることになる『A』

 全然声が出てないのは起きてあまり時間がたっていないからということでいいか。別に緊張してるからっていうそういうわけじゃないはずだ。うん、そのはずだ。


「だ、だいじょうぶ……。全然……待ってないです……」


 このギャップだ。申し訳ないが見た目はどう見てもスクールカーストの一軍だと言われても信じるぐらいなのにこのおどおどしている感じ。ずるい。ずるいぞ。わかっていてやっているのか知らないがそのギャップ犯罪級だぞ。


「そ、そうか。どうする。行きたい場所とかある、のか」


 こっちまでぎこちなくなってくる。前になんかで見たがこういうときは男が積極的に場所とかを決めた方がいいと書いてあった。うん。別にわざわざ調べたとかそういうわけじゃないからな。彼女もいたことないのにそんなことわざわざ調べないよな。うんそうだそうだ。


「あの、映画館とかある……デパート、に行きたい……」

「わかった。じゃあとりあえずバスで行くか」


 普段バスなんて乗る機会がないからこのバス停の看板をあまり見ないが全然バス来ないじゃん。一時間に一本こんなもんなのか。田舎って怖いな……。運がいいことにあと五分もしないうちに来るじゃん。電車の時間と合わせてんのか。よかった。ここで一時間とか待たされてたら逃げてたぞ。ていうかデパート行ったら何すんだ。わざわざ映画館のあるってことは映画見に行くのか。ていうかていうか映画を女と二人きりで見に行くっていうのも初めてだぞ。なんかデートみたいじゃね? 待て待て。何テンション上がってんだよ。現状を忘れるな。これは俗に言うハニートラップだ。油断はするな。けど人目のあるところで大胆な行動はとらないはずだ。落ち着け。


「……これで、いいんですよね……?」

「あ、ああ」


 適当に返事をしてしまったが問題はない。目の前に止まったこのバスでデパートまで行く。それでいいはずだ。二人でバスの中に入る。さすが田舎。と言いたいところだが今日は日曜日。席は意外と空いてない。二つ並んだ席の奥に女、名前はなんだっけ。()(こと)だ。佳琴はその席へと座る。バスの席は意外と狭い。え、隣座っていいの。何個か後ろの席開いてるしそっちに座るか……。


「……ここ……座らない……ですか……?」

「あ、座る」


 座ります。咳払いで自分を落ち着かせて隣に座る。なんだこの感じ。女特有のいい香りがますます俺の冷静さを奪う。自分でもわかってる。めちゃくちゃ気持ち悪いが男っていうのはこういうもんなんだよ。

 ガタンガタンとバスが進みだす。視線を動かし周りを見る。佳琴の繋霊らしき奴はいない。もしかしたらこいつは本当に契約者じゃないんじゃ……ダメだ。甘い考えをするな。ただでさえペースが乱れてるんだ。冷静になれ。こちらからペースを掴みに行こう。


「佳琴は、なんか見たい映画とかあるのか」


 佳琴はこちらを振り向く。


「な……なんで名前……知ってるんですか……」


 しまったぁー! そうだ。俺は佳琴から直接名前を聞いていない。悪い言い方をすれば佳琴の友達との会話を盗み聞きをしてそこから知ったわけなのだ。


「あ、いや、前に友達と話してた時に聞こえてきたから……」

「……う、うん……」


 変にペースを掴みたいとか思うからこんなことになるのだ。いつも通りでいけ。変なことを考えるな。友達と映画を見に行く感覚でいけ。ああ、そうすればいい。そう友達だと思って……。


「……」


 やべぇ! なんで目と目が合わさるだけでこんな気持ちになっちゃうの。誰か教えてくれ。こういうのを義務教育で教えてくれ!


「……えっと……”さだよ”が……見たい……」


 「さだよ」というのは超人気ホラー映画。なぜこの時期にと思うかもしれないがあそこのデパートはいつも少し前に上映された映画をやることで有名だ。これも田舎特有のものなのかもしれないが。ていうかまさかのホラー映画。できることなら今一番見たくないぞ。いや、考えてみればそうじゃないかもしれない。今、ラブコメ見させられた方が困るかもしれない。待て。ホラーってことは幽霊だろ。これはまさかお前をいつでも殺すことができるぞという合図なのかもしれない。繋霊と契約者は一心同体。いざとなれば佳琴のことを殺すことになる。佳琴の繋霊に殺されるよりも早く佳琴を殺す。不安だ。できるのか今だって……。


「……あの……聞いてなかったから……名前は……」

「あ、な、名前? あ、俺の? 台桜雪彦」


 まだ名乗ってもいなかった。バスに揺られ十分もしないうちに目的地であるデパートが見えてきた。いわゆる受験期に入ってからは()貴人(きと)と二回ぐらいか、ここに来たのは。久しぶりに来る。デパートの入り口辺りにはお決まりの宝くじがある。おい、この時の宝くじの当たり見てから過去に来てたら金持ちだぞ。当然のようでいざ時間を戻ると考えないようなことである。無理なことを言ったってしょうがないのだが。


「……佳琴は定時制だろ? 定時制もあんまりやることは変わらないのか?」

「う、うん。……やることが少ない……だけで……変わらない……と思います……」

「そうだよな、なんか事情があって定時制やってんだろ。すげぇな。まあ俺はどっちみちワースト十の学力しかなかったんだけどな」

「…………」


 ヤベェ。ヤベェよ。やっちまったよ。個人的に今のは笑うところだったんだが。なんでこんなに黙っちゃうの。責めてなんか一言ちょうだいよ……。いやこれは俺のプレミだ。突然こんな自虐ネタを言われても笑えない。しかも佳琴は絶対そういうので笑うタイプじゃないだろ。何やってんだ。


「……けど私も、そんなに成績……よくないです……」


 おいおい。まさかのフォローをもらってしまった。無理するな無理するな。こういうとこで変にフォローされるのが一番傷つくって習わなかった? そんなこと習わなくてもそんな見た目なら大丈夫ってことか。顔で世の中決まるって厳しいわね。

 そんなこんなでバスの揺れが収まる。さすがはここら辺での唯一のデパート。ほとんどの人がここのバス停で降りるようだ。流れるように俺と佳琴も降りる。


「あ、あの……どういう風に……呼べば、いいですか……」

「え、適当でいいよ、呼び捨てでもいいし抵抗あったら後ろになんかつければいい。俺も名前呼ぶとき基本呼び捨てだし」

「わ、わかりました……。台桜……君……」


 本当は名前で呼んでほしいなんてそんなことは思ってないぞ。苗字が一番しっくりくるもんな。うんそうだそうだ。

 とりあえず店の中に入りエレベーターへと向かう。映画館は五階。正直映画を見るのは好きだ。見るのも好きだしあの空間も好きだ。なんとなく特別な場所にいるという気分を味わえるしあの暗くて映画の世界観にのめりこむことができるのもいい。


「ホラー映画とか普段から見たりするのか?」


 エレベーターが上がる中、口を開く。


「……そ、そういうわけじゃ……ないけど、なんか……おもしろそうだったから……」

「ま、まあ、俺もホラー映画とか急に出てきて心臓に悪いけど見るのは好きだな……」


 なんか会話がぎこちないが成り立っているだけ良しとしよう。そもそも映画の開始時刻とか全然わからないしな。けどこんなときに映画って……。集中して見れないのは間違いないのだがまあ、そういう目的じゃないしいいけども。

 エレベーターの扉が開くと目の前は映画館独特なあの雰囲気。休日ということもあり人が多いが好きな雰囲気だ。そんなことはどうでもよくて上映開始時間だ。掲示板を見ると二時からの上映となっている。まだ四十分以上時間がある。


「チケットだけ買ってどっかで暇つぶしするか」

「……うん……」


 席はどこら辺にすればいいのだろうかと思ったが後ろすぎず前すぎずの当たりで大丈夫だろう。席が空きすぎていて逆に迷う。これも田舎の特権なのか。ここではないが小学校の低学年の頃に親と映画館に行っていたときは満席に近い状態だったと思うが。少子高齢化が進んだのだろうか。やめよう、俺が馬鹿なことがばれる。


「まだ時間もあるし、どっか行きたいとこあるか?」


 無事チケットも購入することができたが暇になってしまった。この中途半端な時間をつぶすにはどうすればいいだろう。眞貴人とならば適当にゲーセンをぶらぶらするのだがそういうわけにもいかなそうだ。これは本当に俺の経験値が足りなさ過ぎるということだろう。しょうがないじゃん。そんなマンガみたいな高校生活、送れてる奴のほうがたぶん少ないぞ。これは全国で調査を行ったほうがいい。マンガみたいな青春を送れていますか。一つ、この質問を全高校生にぶつけてやれ。そしてこれから高校生になる奴らに現実を見させろ。仮にしてますって答えた奴がいたら俺がつぶす。そんなリア充存在してはいけない。


「……服、とかみたい……です……」

「ああ。わかった」


 よかった。行きたい場所あってくれて。なかったらお得意のトイレに逃げるを使っていたかもしれない。服が売っているのは確か三階あたりだ。もう一度エレベーターに乗り三階にたどり着く。佳琴が何もないのに申し訳なさそうに俺の前を歩き俺はそれについていく。服売り場の中に入るが服とか興味ないから全然わからん。服とか買う奴は素直に凄いと思う。だって服買う金あったらおいしいもの食べたいぜ。絶対にこの感性はリア充には程遠い感性だ。間違いない。


「これとか……似合い……ますか……」

「あ、う、あ、ああ……」


 急に話しかけんなってマジでたぶん今の俺は常にホラー映画見てるってくらいに敏感になってるから。しかも似合いますかってそんなこと聞かれたら頭オーバーヒートするって。今日一日で頭使い物にならなくなる。ああ、ほんと変な気分だ。だがそれにしても襲われる気配が一切ない。佳琴は千羽がいないことをどう思っているのだろうか。警戒していると思っているのかそれとも知ったうえで行動しているのか。


「……ごめんなさい……」

「あ、いや、俺全然こういうところ来る機会ないからさ……」


 だめだ。正解の正解がわからない。もう一周回って何も考えなくていいや。

もうそこから先は熱すぎて記憶にない。佳琴が服を入れた袋を持っていることから買い物を終えたと見える。服の買い物がこんなにもハードだとは思いもしなかった。女との買い物って駄目だな。精神がすり減る。


「……ごめんなさい……私しか買い物しないで……」

「いや、全然大丈夫。時間もちょうどいい感じだろ」


 映画館に戻り、それぞれ映画のお供ポップコーンとコーラを買い、会場へと向かう。


「にしてもあれだな、この時期にホラーなんてここだけだろ」

「……そ、そうですね……」


 三分の一くらいか。これで混んでるというのかどうかわからないがとりあえず自分の席へ向かう。無事、何事もなく着席する。これもまた映画の大定番のコマーシャルを見ながらポップコーンを頬張る。このまま何事もなくが一番だがそんな希望言っている場合でないことはわかっている。俺は生きている。千羽も生きているということだ。どこにいるのだろう。佳琴の繋霊もどこにいるのかがわからない。繋霊の能力は様々だった。レーザーで攻撃してきたり風になって攻撃を仕掛けきたり。千羽のように回復させる能力だったり。正直言って何でもありだ。佳琴の繋霊の能力を考えろ。姿を消す能力。もしかしたらそういう力なのかもしれない。だが力を使うには霊力という力が必要不可欠だ。今日、会ったときから常に姿を消しているとは考えにくい。そんなこと考えている間に映画が始まっていた。序盤からなかなかに飛ばしてくるな。始めに幽霊による犠牲者が出てそこから主人公たちも同じ現場に何らかの形で足を運ぶというよくあるといえばよくある物語なのかもしれない。幽霊が近づいてくる。


「!」


 びっくりしたと思えば佳琴に袖を掴まれる。そして体も俺の方へと寄せてくる。いろんな意味で集中できない。怖がりながらも頑張って画面を見続けているその姿は素直にかわいいと言っておこう。だって金髪でスクールカーストで言えば一軍の見た目をした女がホラー映画で怖がってるんだぞ。そんなの俺には耐えられない。いや、耐えるけど。耐えるけど耐えられないんだよ!


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