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15. 動き出す影

 台桜が階段を降りる音が家の中に響いている。彼がいなくなった部屋で千羽はくるくると回るイスの上で体育座りをして額を自分の膝へと密着させている。しばらくくるくると同じ動きをしていたが突然、顔を上げる。薄いピンク色の髪の毛がパッと乱れるがすぐにいつもの千羽の髪形に戻る。代わりに額には赤い跡が残っていた。すぐにイスから立ち上がり窓を開け外を見つめる。視線の先にはなにも見えない。だが千羽はそのまま窓から地面へと飛び降り走り出す。学校へ行く方向とは逆の方へ足を進める千羽だったが突然その足を止める。近くには住宅もなく森に囲まれている。近くの看板にはハイキングコースと書かれていた。そして周りを警戒しながら見まわすそぶりみせる。


「気づいてくれてよかった」


 千羽の背後から何者かの声が聞こえる。千羽はすぐにその方向へと体を向ける。


「あんたは……」


 学制服を着た目の前の男に表情を曇らせる。


「繋霊なら誰でも感じ取ることができる特殊な炎だ。これでまんまとお前が来たわけ」


 男は手の平には林檎ほどの大きさの炎が形を創っていた。


「優しいな、わざわざ一人で来るなんて。あいつは戦えない状況なのか?」


 千羽は答えない。ただ目の前の男に視線を向けている。


「なんか喋れよ。まあいいや。俺について来いよ」


 突然のその言葉に千羽は目を細める。そして口を開く。


「……どういう意味?」

「意味? 俺についてきて俺の言う通りにしろ。そうすれば何もしねぇよ」

「今台桜と離れちゃダメ」

「そうか? 今お前、離れてんじゃん。死んでるかもしれねぇよ?」


 その言葉に千羽は空間から刀を創り出す。


「あんたは人間でしょ? うちは繋霊。ここで戦ったってうちが勝つでしょ」


 男はそれを見て炎を持つ手で炎ごと握る。炎は手の平から消える。


「違うからこうなってんだろ?」


 次の瞬間、真っ赤な炎が二人を包む。千羽は男に切りかかろうとするが炎がそれを遮る。今度は千羽の目の前に炎が現れたかと思うと男が現れいつの間にか手にしていた刀で切りかかる。


「お前の実力を直接見てやる。お前を初めて見たときから思ってた。お前は自分自身を使いこなせていない。だから俺には勝てないって」


 炎を纏った刀に切り付けられ千羽は肩から地面へ倒れる。腕には生々しい焼け跡が残る。千羽はもう一度立ち上がり身構える。


「おい。女を傷つけると心が痛むんだよな。お前も傷つくし俺も傷つくしでいいことねぇぞ。俺の言ったとおりにしろ」

「嫌だ。……こんなことして信用しろっていう方がむりでしょ」


 男は切っ先を千羽に向ける。


「長期戦をやってる余裕はねぇよ。強引に行かせてもらうぜ」


 男が炎に包まれたかと思うと千羽の周りにも炎が舞い上がる。炎をはらうその隙に男の攻撃が千羽を襲う。


「ウっ!」


 追撃が来る。周りの炎が全て千羽に集中的に集まる。炎が千羽を包み込む。もがくが炎は消えない。炎は千羽を焼き尽くし消えた。中から全身に火傷の跡が目立つ千羽が姿を現し人形のように膝から地面に崩れ落ちる。


「殺さない程度にやっておいた。悪いな。けどこっちにもこっちの都合っていうのがあるんだ。そのためには少し強引になってしまうこともある」


 千羽は横たわりながらもなんとか腕で体を持ち上げ立ち上がろうとする。そこに間もなく火の玉が撃ち込まれる。


「しぶといな」


 そう言う男の視線の先には腕の傷がなくなっている千羽の姿がある。


「それが噂の能力ってわけか」


 千羽が切りかかる。男は体を回転させて回避する。しかし千羽の素早い動きに遅れ胸元を狙う刀に傷を負わされる。


「イてぇ。さすがの膂力だ」


 男は再度炎を出現させると千羽から距離をとる。


「ケンカ売っといてそんな逃げ腰なの?」


 千羽は切っ先を男に向けながら話す。


「ずいぶんと煽るじゃんか。とりあえずこれでもくらえよ」


 男の体に炎が纏う。男は風をおこすように腕を下から上へと上げるとその炎が千羽に向かって覆うように包み込む。千羽は体を左に回転させ、炎を避け男との距離を詰める。


「あんたの目的はなに?」


 刀と刀が交じり火花が飛び散る。


「そんなのここで言うはずないだろ。保橋に繋霊にされちまったんだからつべこべ言わず俺のの言う通りにしろよ」


 千羽は力を入れ男の刀を弾きそのまま切りかかる。男はそれをなんとか避け反撃をするがまた刀と刀がぶつかり合う。


「思ってたより強いな。成長も早いようだし期待できる」

「どういうこと?」

「そのままの意味だ」


男が後ろに下がる隙を見逃さず切り付けようとしたそのときだった。


“ビチャッ”


 千羽の背中から大量の血が飛び散る。千羽はよろけながらもなんとかその場に立ち続けている。


「突然申し訳ないねぇ。ただ予想以上に苦戦してるみたいだったから手ぇ出させってもらったよ」


 千羽の背後に立っていたのは全身黒ずくめの男。オールバックにしていて肩につくくらいに伸ばした髪の毛が風に揺れている。


「いつから……」


 千羽のか細いその声に黒ずくめの男は答える。


「はじめからさ。君が俺に気が付いていなかっただけだよ」


 千羽は切りかかるが素手で抑えられる。


「なッ……⁉」

「そんなに傷ついてまだやるかい。お前さんたちは本当にかわってるよ」


 黒ずくめの男は刀を掴んだまま距離を詰めみぞおちに拳をぶつける。


「ゥ……」


 その瞬間、千羽の全身から力が抜け前方に倒れる。黒ずくめの男はそれを自らの体で支える。


「すみません。手こずっちゃいました」

「大丈夫大丈夫。繋霊でも俺のような()藍者(らんしゃ)でもないのにあそこまでやれていたのはさすがというべきだと思うよ」


 黒ずくめの男は星が輝いている空に目を向ける。


「今夜は冷えるね」



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