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14. 思惑を暴く『B』

 上がってきたばかりの階段を急いで降りる。家を出て周りを見渡すがどこにも千羽はいない。どこにいった……。千羽が窓からどこかへ行くくらいだ。何かあったのは間違いない。

 日は沈みかけているがまだ明るい。探しに行くべきか。だが心当たりというか俺が個人的に手掛かりがあると思っている場所がある。千羽はそこにいるかもしれない。全力で走る。走る時のコツは走っていることを意識しないこと。誰かに教わったことじゃなく俺が勝手に思っていることだ。意識すると疲れる。なにかあったら……。不安が大きくなるだけだ。やめよう。

 走った先は昨夜戦った場所。景色は昨日と変わっていない。昨日と同じ廃車があり臭いこの場所。息が荒くなってしまったがそんなことはどうでもいい。だがぱっと見千羽はいない。千羽どころか昨日の奴らもいなくなっていた。昨日の契約者がいればいろいろ話を聞けたんだけどな。そう簡単には話さないと思うが。地面を観察するが何もない。来た損になってしまった。

 ……なにか妙だ。

 そのとき、直感的に前に飛び込んだ。ボゥと背後から音が聞こえた。


「炎の鎧……」


 広範囲に炎を纏う繋霊。全身黒い鎧に包まれているその姿は間違いなく前に会った繋霊だ。なんでこんなときにこいつが現れるんだよ……。

 炎の鎧が纏う炎を掴むような動作をしたかと思えばその手には刀が握られている。霊力ってのが目に見える物じゃなくてよかった。もしも見えていれば今俺は諦めていただろう。そのくらいに目の前の繋霊からは何かを感じる。威圧感、殺気、風格、どう表現すればいいかわからないがわかることはこいつが強いということだ。

 歩くたびに鎧の重みのある音と炎のボゥという音が混ざった奇妙な音を立てる。そして左手をこちらに向けた瞬間、火の玉が飛ばされる。


「あぶねぇ!」


 今度は右に転がりなんとか攻撃を避ける。まずいな。可能性がゼロに等しいのはわかっている。ただ無抵抗で死ぬわけにはいかない。ポケットに手を突っ込み千羽の力が込められた刀を取り出す。取り出す……。ない。やっちまった! 家を飛び出してきたから刀は部屋に置いたままだ。嘘だろこんなの。本当に一方的にやられるぞ。

 俺が動揺している間にも炎の鎧は攻撃を仕掛けてくる。同じように何度も火の玉を飛ばしてくる。こいつ、俺の逃げる場所をなくそうとしている。だがそんな心配もいらなかったみたいだ。鎧を包む炎が放った火の玉と一体化して大きさを増していく。逃げられない……。飲み込まれる。


「死なない……」


 熱くない。前が見えないほどに燃え上がる業火なのに熱さも何も感じない。なんなんだ一体。さっきの火の玉は熱をもっていたがこの炎はそれをもたない。いくつかの炎を使い分けているのか。だが一体何のためにこんなことをしている。殺すことが目的ならばこんなことせずにとっとと殺せばいい。千羽のことを一方的に攻撃していた奴が俺なんかを殺せないわけがない。目的はなんだ。

ボゥ! その音と同時に目の前が周りよりも濃い炎で包まれる。反射的に腕で顔を覆った。目の前を見ることなくそこに鎧がいることが分かった。無言で片手に刀を持ちそこに立つ。


「どうするつもりだ。なんで殺さないんだよ」


 返事はない。ただその場所に立ち動かない。


「お前は誰の繋霊なんだ」


 言葉が返ってこないのは知っている。別に帰ってこなくたっていい。前もそうだ。こいつは千羽を襲うだけ襲って殺しはしなかった。繋霊にとってほかの繋霊や契約者は邪魔なはずだ。殺さない理由がない。なのになぜこいつはそうしないんだ……。


「目的はなんだ」


 動かなかった炎の鎧は突然動き出した。足を一歩、一歩また一歩俺の方へと俺の方へと近づいてくる。後ろに下がろうとした瞬間、炎が熱くなった。そして炎の鎧と俺を中心に火は暴れるように燃え上がる。逃げ場はない。すでに鎧は俺の目の前にまで来ていた。


「なんだよこれ……」


 触れ合うほどの距離まで鎧は接近していた。


「⁉」


 いつの間に……。いつの間にか俺の腹に炎の鎧がもつ刃が突き刺さっていた。何が起きている。刃が刺さっているはずなのに痛みがほとんどない。その代わりによくわからないがなにか気持ちが悪い。なんだこれは。ものすごく気持ちが悪い。胃の食べ物が逆流してくるようなそんな気持ちの悪さ。そんなこと考えていたそのときだった。周りの炎がが轟音をたてて迫ってきたかと思えば目の前からすべての炎が消え去った。炎の鎧もいない。何事もなかったかのように空は暗い。腹に突き刺さったはずの刀もない。それどころか腹を見てみても傷一つもない。なんだったんだ。幻覚か? そんなわけはない。証明できるものは一つもないが紛れもなく事実だ。あの逆流するような気持ち悪さがそれを物語っていた。炎の鎧は俺になにをさせたい。わからない。だがきっとあいつもその契約者も保橋のことを殺したいはずだ。それだけは確かだ。


「ほんとに気持ちわりぃ……」


 あまりの気持ちの悪さに吐くことを試みるが吐けない物凄く不愉快だが気持ち悪いだけならいいか。結局何の手掛かりもなかった。手掛かりどころかますますわからなくなることが起きただけだ。千羽もどこかへ行ってしまったままだ。このまま千羽を探しても無駄か。すでに帰っている可能性もある。言えることは今一人になることが危険だということだ。早く帰ることが最善策だろう。



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