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11. 不吉な予感『B』

 しばらく歩いた。特に話はしない。千羽も俺の隣で歩いているがこちらを見ることなく周りに視線をやり警戒している様子だ。何度か通ったことがあるような気がする。そんな曖昧な道を目的も知らずに歩く。近くでは新幹線が走る音。廃棄された車。嫌なにおいがする。わかっていたがとてつもなく嫌なにおいが。


「ここまでよく来てくれました。それじゃあ、始めるっす」


 何をだよ。そう言葉にする前に答えは目の前に現れる。人間の速さとは思えない、まるでチーターかのような動きでそれは千羽に襲い掛かる。


「千羽!」


 声を発した次の瞬間、背後で声が聞こえた。


「てめぇもだぞ?」


 反射的に地面にダイブした。危ねぇよ。なんだあのでかい爪は。避けてなかったら内臓まで抉り取られてたぞ。


「避けてんじゃねぇよ。おとなしく殺されろや」


 襟足が長くオールバックでキメている男。この時点ですでに関わりたくないのに両手にはゴツイ爪が手にかぶさるような形でつけられている。

こいつと戦うのかよ。クソ。


「厳つい見た目しやがって。田舎のヤンキーが喧嘩ふっかけてくんじゃねぇよ」

「あぁ? てめぇ、自分がどんな状況か理解してそれ言ってんのかよ!」


 足を踏ん張るような形にして片方の手を地面につけ、もう片方は走る時のような構えを見せる。そして独特なステップで攻撃を仕掛けてくる。だが、こちらにも対抗策はある。ポケットに入れてある。ナイフを取り出し、相手に向ける。ナイフは変形し千羽の刀と同じ見た目になる。あの時と同じ感覚。体は軽く、動きやすい。男の攻撃に合わせ、刀を振り受け止める。


「なんだよ、楽しめそうなもん持ってんじゃねぇか!」

「お前みたいなやつにただやられるだけやられるわけねぇだろ」


 次の瞬間、俺の視界は男の爪一色になった。


「なッ!」


 急いで避けたはいいが頬が少し抉られた……。痛い。ものすごく痛い。


「てめぇの刀は一本。俺は両手に爪。そんなに驚くことねぇよな!」


 さっきと同じ構えだ。クソ、こいつの間合いが読めないし攻撃のスタイルも独特すぎる。この短時間で動きを理解して攻撃を繰り出す。俺にできるか?


「オラよッ!」


 片方の爪を刀で抑え、体は後ろに下がる。さっきと……間合いが違う⁉


「アメぇ!」


 クソがよ。傷はさっきよりかは浅いか……。脳筋でただ突っ込んでくるだけだと思っていたが違う。俺の動きを予測してタイミングを少しずらしたり間合いを変えたりしている。こんな動き、普通じゃない。繋霊と戦いなれてるらしい。だが、避けれない攻撃ではなかったはずだ。軽くなった体が元に戻っているような感覚だ……。


「おい、どんぐらい繋霊殺してきたんだよ……」


 男は構えたまま話をする。


「どんぐらい? そんなんいちいち覚えてねぇよ。てめぇ、俺の戦闘技術に驚いてんだろ? 俺がこんなにも強ぇのは繋霊を殺す、そういう訓練をしてるからだ」

「訓練? まあ、二人でペア組むくらいだからそういうこともできるんだろうが。あっちのおしゃれな兄さんが言ってたぜ。上から命令されてるって。誰だよ、上の人間は」


 不良男は視線を千羽と爪の繋霊のほうへと移す。俺もつられてそっちを見る。


「いい勝負してんなぁ。てめぇの繋霊、戦闘経験は浅いが身体能力はすげぇな。すげぇ霊力だ。けど、能力は戦闘向きじゃあないらしい。時間の問題だな」

「質問に答えろよ」


 男は視線を戻す。


「俺の繋霊、あの女の力は爪を創り出し霊力を巻き込み体ごと抉ることだ。てめぇは二回も俺の攻撃を食らった。自分でも少しはわかってんだろ? 体が少しずつ不自由になっていってるってよ。てめぇの繋霊から分けてもらった力が俺の攻撃を食らうたびになくなってんだよ。てめぇの勝ち目は薄いと思うんだけどよぉ。普通の人間が霊力をまとった人間に勝てるわけがねぇ。だから少し話してやるよ。上の人間は保橋朝宏っつう人間を殺そうとしてる。そのためにあの人は戦って負けた俺らをつかって手掛かりを探してんだよ。てめぇも鍛えれば強そうだから仲間に加えてやってもいいぜ?」


 わかりやすい挑発をしてくる。


「勝手なことは言わないでほしいっす。勝手なことをすればあの人が何をするかもわからないっすよ。それに彼の繋霊は何か違和感があります。ここで殺しておくのが無難っす」


 とりあえず今の状況をどうにかするしかない。どうにかすると言っても具体的にどうするとかはない。ただどうにかなる可能性はある。何よりあのおしゃれ野郎のこの場所への誘い方が気に食わない。自分で選んでここにいるようなものなのだ。とりあえず時間を稼ぐ。


「二対一で戦ったほうがいいんじゃないのかよ。お前は戦いに参戦しなくていいのか」

「戦いに慣れればわかります。二人で戦うっていうのは難しいんっすよ。どちらも全力を出さずバランスを保ちながら戦うことになります。ただ、そっちのほうが強いのは事実っす。あなたにそうする必要がないだけっすよ。それになにが起こるかわかりませんから」


 挑発してくれるじゃねぇか。だがこれはこれで好都合だ。あの厳つい契約者とだけ戦って勝ち、次にあのおしゃれ野郎を倒せばいい。できるか?


「おしゃべりはこんぐらいでいいかぁ? このままじゃあ俺が一方的に勝っちまう。今の時間で勝ち筋は見つかったかよ!」


 厳つい男は後ろに下がりあの態勢をのまま走りだす。

またか。どうにかして弱点を見つけろ。


「来いよ……」


 攻撃を仕掛けてきたところからバックして攻撃を避ける。かわしたところにアッパーのようなスタイルの攻撃を繰り出される。それに合わせ刀で防ぐがもう片方の爪で追撃されてしまう。避けようがない。


「隙しかねぇ!」


 ……? なんだ。なんでこいつ後ろに避けた。なんかしたか? 俺は反射的に前に飛び込むように避けた。考えろ。クソみたいな脳みそだが昔からゲームは大好きだ。こいつには決定的な弱点があるはずだ。


「なんだ、そんな顔してよぉ。少し遊んでやっただけだぜぇ!」


 攻撃するときに距離をとる。さっきもわざわざ距離をとっていた。一定の距離をとりながら戦っている。もしそうならば……


「オラよォ!」


 攻撃と同時に間をつめながら両手で刀を下から上へと切り裂く。


「ちィっ!」


 手応えがあった。腹から胸にかけて刀の切り後、そして真っ赤な血が地面に垂れる。まだだ。弱点を見つけたといってもここで攻撃の手を止めればこいつも攻撃方法を改めるはずだ。だから手を止めてはいけない。

 後ろに下がる男にもう一度距離を詰め刀を振るう。予想通りだ。刃は男の肉体を切り裂く。地面に倒れこむ男に容赦なく刀を振るう。


「⁉」


 刀を振るおうとした腕が動かない。冷たい。刀とそれを握る手が凍り、氷は地面にまで続いている。なんだ、なんの能力だ……。


「なにやってるんすか。こんな短時間で弱点を見抜かれて、危うく死ぬところでしたよ」

「ちげぇよ。こいつの霊力が馬鹿みたいに上がりやがった。そうじゃなきゃ傷は負ってねぇよ」


 不良男は立ち上がり手で傷を抑えている。


「なんだよ、二人がかりで殺す必要もなかったんじゃないのかよ……」


 冷たい空気が顔の傷をなぞり痛みを呼び起こす。


「そう思ってたんっすけど、あなた方は何かおかしい。早急に殺す必要があると判断しました。すみません、ここまでっす。さすがここまで生き残っていただけのことはありました。いいですよ、殺してください」


 この氷、びくともしねぇと思ったが、繋霊が直接やったのかよ。反則だろ。青い髪の繋霊が近づいてくる。腕は動かない。つまりこれは詰んだってやつだ。


「おい、待てよ……」


 声のほうを見ると不良男があの構えをしている。


「……どういうつもりっすか」


 氷の男の言葉を無視してその爪で繋霊が造った氷を削り壊す。


「どういうつもりじゃあねぇよ。少し傷を負っただけだ。こいつは俺がやる。だからてめぇはまだ出てくんな」


 氷の男はあきれた表情を見せる。


「あなたと過ごした時間は長くはないっすけどそんな無理をする人だという記憶はないんですけどね」


 不良男は笑って答える。


「俺に傷つけれる奴がいなかったからな! だからてめぇの出番はまだだぜ」

「……わかりました。けど、急いでください。あなたの繋霊、あのままじゃ負けるっすよ」


 不良男は一瞬千羽たちの方へと視線を向けるがすぐに俺の方へ戻す。


「じゃあ、その前に俺がこいつを殺すだけだろうがよ! 再開だぜ!」


 どうやら繋霊に一方的に殺されるってことはなくなったらしい。だがそれも時間の問題だ。だがまずは目の前の敵を倒さずには話は進まない。構える不良男に合わせ俺も刀を握りなおす。


「こいよ、何回でも切ってやるよ」

「やってみろやぁ!」


 基本的なことはさっきと変わらない。こいつの責める姿勢に下がることなく攻撃を繰り出すだけだ。こいつもそれぐらいはわかっているはず。始めはこいつの動きに合わせながら……!


「ビビってんじゃあねぇよ!」

「早い⁉」


 さっきよりも速度が上がった……。さっきまでは本気じゃなかったのかよ。なるほど。さっきはたまたまこいつの油断をつけただけで実力が上回ったわけではないということか。そのぐらいは知っている。戦うことに慣れているこいつを実力で上回るのは難しい。正直さっきで決められなかったのは厳しい。


「どうしたよ? さっきまでの攻めはどこにいったんだ? あぁ!」


 攻撃から避ける姿勢に入るまでの隙がなくなっている。だがそこをつくしかない。そうしないとこいつは倒せない。


「防御もしなくなったなかァ!」

「クッ……」


 一撃が前よりも重い。敵の攻撃を防ぐことも難しくなってる。攻撃を避けることに専念している今の状態じゃ勝つことは見込めない。ただ今は避けることに集中しろ。そして何とかして隙を見つける。


「おい、知らないだろ? 霊力ってのはどんなものにもあるんだってよォ」


 急に何言ってんだよ。


「なんだよ、急に」

「俺の力がどんなもんか知ってるか?」


 惑わそうとしてるのか?


「さっき自分で言ってただろ」


 避けながらでもわかるくらいに男の口角が上がる。


「霊力を巻き込みながら体を抉るってな。これはよォ、ヒトじゃあなくてもいいんだぜ?」


 人じゃなくてもいい。どういうことだ。意図が読めない。


「……なッ⁉」


 地面が柔らかい! そういうことか! まずい、後ろから転ぶ。そして奴の攻撃が……当たる……。


“ガンッ”


 目を閉じてしまっていた。痛みはない。恐る恐る開ける。


「……千羽!」

「台桜! 大丈夫!」


 大丈夫なわけない。目の前には不良男の爪を刀で抑える千羽。不良男は後ろへと下がる。千羽が来なければ死んでいた……。


「やられてんじゃねぇよ」


 千羽が戦っていた場所に目をやると不良男の繋霊が倒れていた。倒れた繋霊は氷に包まれている。あれ生きてんのか。不良男が死なないってことは生きてるのか。


「タイムオーバーっす。氷の膜は張っておきました。そしてお二方、ここまでありがとうございました。こちらもいい経験ができたっすよ。無駄な抵抗はやめた方がいいと思います。霊力も先の戦いでかなり消費したでしょう? もう抵抗もできないっすよね」


 いつの間に手足を凍らせていた……。 千羽もか⁉ 氷の男の繋霊は両手を広げ数十にもなるつららのような鋭利な物体を創っている。


「台桜も凍ってるの……」

「ああ、動けねぇ」


 全ての氷の形が完成されていく。


「お前らはいつから過去に戻されてんだよ」


 時間稼ぎか、最後に知っておきたかったのかは自分でもわからない。ただ、自然とその言葉が口に出ていた。


「過去? そんなことで時間稼ぎはできないっすよ。さようなら」


 数十の鋭利な氷がこちらに向かってくる。こんな死に方あるかよ……。


“バキンッ”


 ……一瞬にして目の前の氷がすべて砕けた。いや、そんなことどうでもよくなるくらいの寒気。氷のせい? 違う。よくわからないがものすごく気持ちが悪い。なんだこの感覚。それは周りの奴らも同じのようだ。そして奴らは全員同じ方向に顔を向けていた。


「ああ、こういうの嫌だよな」


 たった一人。そこにはたった一人の男が突っ立ていた。首元ゆるゆるなワイシャツをネクタイで適当に絞めたその男。見た目はダメな社会人だがそれを忘れさせるくらいに気持ちの悪い寒気が襲う。


「あぁ? 何だてめぇ。契約者だろ?」

「気にすんなや。邪魔しちまった。続けんなら続けていいぞ」


 しばらくの間風の音だけが耳に残る。氷の男がその静寂にきりだす。


「あなた、契約者じゃないんすか? 私の繋霊が見えてるみたいっすけど」

「なに言ってんのかさっぱりだ」


 その回答が気に食わなかったのか不良男はあの構えを見せる。


「おい、こいつが契約者じゃあなくてもこんなところ見られちまったら殺すしかねぇよな? ここに来たこと後悔しろォ!」


 勢いをつけて襲い掛かる。そこまでは見えた。そこまでは確実に見えていた。だが次の瞬間、不良男は倒れていた。何が起こった……。


「おお、やんのか? じゃあ次はお前か」


 男は氷の男の方を向く。


「なんなんっすか、あなたは……」

「ええ? ただの人間だ」


 氷の男は自分の繋霊に視線を移す。


「霊力を使いきっても構いません。凍らせてください」


 氷の繋霊は両手を見知らぬ男に向ける。しかし何も起こらない。根拠はないがわかる。力を出すのに時間がかかっているわけではない。何も起こせないのだ。


「つまんねぇな」


 男は氷の繋霊のもとへ足を進ませる。氷の繋霊は両手を広げ、攻撃を繰り出そうとする仕草を見せる。ただ、氷は男の元まで届くことはない。


「ガッ……」


 何も見えない。ただ氷の繋霊は背中から地面に落ちる。


「聞いてないっすよ。こんなこと。本当になんなんすか……」

「知らねぇよ」


 氷の男は顔から地面に落ち動かない。ピクリともしない。さっきまで俺たちあんなにも苦戦していたのが嘘みたいだ。いや、もうこれは嘘だろ。


「すまねぇな」


 そう言って体を俺の方へと向ける。そしてそこで初めて顔がよく見えた。よく見えた。こいつ、俺はこいつを知っている。どこで見た。思い出せない。ただ、どこかで見たことがある。


「おい、お前は楽しそうでいいよなァ。俺もそんぐらいが良かった」


 何言ってんだ。千羽は震えている。千羽だけじゃない。俺だって震えている。こちらに向かって歩く。そしていつの間にか千羽の前まで来ていた。


「これ以上近づくなよ……」


 体が勝手に動いていた。俺は千羽の前に立っていた。


「初めて見たときから知ってた。お前は面白れェ。勝てるわけもない俺の前になんで立ってんだ? そこの女を守るためか」

「立ちたいから立ってんだよ。別に千羽のためじゃない。俺のためだ」


 ここで立たなきゃ絶対に後悔する。それだけはわかった。しかしその言葉に男は笑う。


「そういうとこだ。そういうところに惹かれる。気にすんな。お前らにはなんもしない。保橋に怒られっからな」


 保橋。保橋朝宏。不良男も言っていた。こんな化け物みたいな男の口から出る男。そんなものはきっとあの男しかいない。俺たちが探している男。


「その保橋っていうのはどこにいんだよ。お前も過去から来たんだろ。保橋ってのと手組んでんじゃないのかよ」



「俺も大して知らねぇから直接あいつに聞いとけ」


 男は歩き出す。


「おい、保橋朝宏ってのは何者なんだよ!」


 男は振り向く。死んだ目と無邪気に笑うような口角の上がり方のミスマッチが不気味さを増幅させる。


「えッ……」


 目の前が真っ暗、意識も……遠のく……。



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