七つ目の願い
それから二ヶ月後、暖かい春がやってきた。季節が変わっても病はお構い無しに襲いかかってくる。咲菜は起き上がることも辛くなっていた。眠っている咲菜は病人なのかと疑うほど美しかった。ただ、以前と違うところは少し頬がこけるほど痩せてしまっていること。細身の体がさらに細くなり触れたら折れてしまうのではないかと思うほど痩せてしまっていた。暗い茶髪の髪を撫でているとゆっくりと瞼が開き、目が合うとにっこりと笑みを浮かべた。
「おはよう、よく眠れた?」
「うん、おはよ」
そう言うと咲菜は直ぐに起き上がろうとした。
「ちょ、駄目だよ!急に起き上がったら辛いでしょ?」
「大丈夫、少しは動かないともう動けなくなっちゃうから」
「うーん、少しだけだよ」
と言いながら咲菜を起き上がらせた。
「うん、ありがと」
「あのさ、七つ目のお願い。”お嫁さんになりたい”」
「え、」
「や、やっぱ駄目だよね。ごめん」
「は、駄目なわけないじゃん。びっくりしただけ、僕がずっと言おうと思ってたことだったから」
「え、そうなの?」
「本当は僕から言いたかったんだけど…僕と結婚してください」
僕はダイヤの光る指輪の入った箱を開け、差し出した。
「ありがとう」
と咲菜は瞳を潤ませながら言った。
「結婚式しないとね」
「えぇー、いいよ。大変でしょ?」
「何言ってんのさ、大変とかじゃなくて、自分がやりたいか、でしょ」
「私は、やりたい!!」
「じゃあ決まりだね。式場探さなきゃ」
「どこがいいかな」
二人で色々探して綺麗な花の咲く教会にした。
雲一つないよく晴れた日、僕たちは結婚式を挙げた。車椅子の咲菜が周りを気にしないように病気のことを知る家族だけを招いた。神の前で愛を誓い、無事に式を終えることができた。ウェディングドレス姿の咲菜はいつも以上に綺麗だった。挨拶をしてまわり、僕達も帰る支度をする。
「終わったー?」
「うん、終わったよ」
「じゃ、帰ろう」
咲菜を乗せ僕は車を走らせた。
「今日はすっごい幸せだった!」
「そうだね、綺麗だったよ」
咲菜は少し顔を赤らめた。
「ねぇ、咲菜。婚姻届出そうか」
「うん!」
「よし、着いたよ」
車から咲菜を下ろして病室まで送る。何度も送っているうちに車椅子の扱いが上手くなっていた。
「車椅子の扱い上手くなったね。最初はもっと下手だったのに」
「ほんとだね」
一人で歩くと長く感じる病室までの廊下が二人で歩くととても短く感じた。もうすぐ、咲菜の病気が発覚してから八ヶ月が経とうとしている。この八ヶ月で日々の何気ない出来事がこんなに大切で幸せだと知った。
「また明日ね」
「うん、また明日」
”また明日”普段何気なくこの言葉を使っているが世界のどこかには明日がない人もいる。毎日死の恐怖と戦うのはどんなに辛いことなのだろう。そんな世界の中この言葉を当たり前のように使える僕達はとても幸せなのではないか。こんな事をここ最近ずっと考えている。