五つ目の願い
家には咲菜との思い出が沢山あった。一緒に撮った写真、初めてプレゼントしたネックレス、そして結婚指輪。これはまだ渡せていない。咲菜が倒れたあの日僕はプロポーズしようと思っていた。でもでも、咲菜が倒れ入院してからはずっと机の上に置きっぱなしにしている。何となく開けてみるとキラキラ光るダイヤが綺麗で咲菜がつけたらもっと綺麗なんだろうと考えたら涙が出てくる。なんで咲菜だったのだろう、なぜ神様はこんな試練を与えたのだろうと最近はよく泣いている。僕が泣いたって仕方ないことは分かってる。本当は咲菜だって泣きたいはずだ。気づけば寝ていて朝になっていた。時計を見ると8時30分を指していた。本来ならば仕事に行かなければならないけど少しでも一緒にいたいから特別に休みを貰っている。布団からもぞもぞと出て洗面所へ向かった。ふと、鏡を見ると目が腫れていた。このままでは咲菜に心配をかけてしまう、うまく誤魔化さないと…言い訳を考えながら僕は病院に向かった。
「あ、おはよ!」
「おはよう」
「あれ?なんか目腫れてない?」
「そうかな、咲菜がいなくて寂しいからかな」
「大丈夫なの?」
「平気、平気!心配ないよ」
「そう?ならいいけど…ちゃんと冷やしてね」
うまく誤魔化せたみたいだ。看護師さんから保冷剤を貰って冷やしている僕を咲菜は心配そうに見つめる。僕は咲菜の方が心配なんだけどな。元々細かった体は更に細くなってるしこうして話をしているのも辛そうに見える。
「ねぇ、勇斗。お願い事なんだけど、」
「うん、なあに」
「五つ目はね”二人で写真が撮りたい”」
「え?それでいいの?」
「うん。写真があればいつでも私の事思い出せるでしょ?」
「そんな事言わないでよ。写真がなくたって僕は咲菜を忘れないし思い出せる。絶対忘れたりなんかしない!」
「ありがとう。でも、写真は撮ろ?思い出にさ」
「うん、撮ろう」
写真を撮りながら二人で笑いあった。たったそれだけの事だけど僕はそれが幸せだと感じた。当たり前のことがこんなに幸せなのだと咲菜が入院してから気付いた。この幸せを手離したくないと強く思った。