三つ目の願い
それから数週間。咲菜は息が上がるまでリハビリを続けていた。
「咲菜、ちょっと休もう?」
何度も何度も歩こうとしたが歩くことは出来なかった。
「山田さん、ちょっと。赤羽さんは残念ですがもう歩くことはできません。これからは車椅子での移動となります」
「分かりました。咲菜には僕から伝えます」
もう歩くことは出来ないなんて伝えたらどんな顔をするんだろう
きっと悲しむに決まってる。
「咲菜、落ち着いて聞いて」
「うん、何?」
「咲菜はもう歩くことは出来ないんだ…」
「そっか、仕方ないよね。そういう病気だもんね」
そう言い笑う咲菜の笑顔はどこか悲しげて必死に感情を抑えているような顔だった。そんな姿を見て僕は慰めることも励ますことも出来なかった。
それから三日後、僕たち二人は思い出の場所を訪れた。思い出の場所は、春になれば桜が、綺麗に咲く桜並木。出会いは僕の一目惚れだった。綺麗に舞い散る花びらを見ながらロングヘアーの咲菜が微笑んでいた。あの時、桜みたいな子だなって思った。
「ちょっと早すぎたね。まだ咲いてないや」
「でも、綺麗な紅葉だよ」
「そうだね」
そんな会話をしているとポケットの中で携帯が震えた。
「あ、電話だ。ちょっと待ってて」
電話を終えて戻ると木の下でコソコソとしている咲菜。
「何してるの?」
「わぁ!えっと、何でもないよ!」
「そう?怪しい…」
「何でもないって、それより早くカフェに入ろ?」
なんだか上手く誤魔化された気がするけど思い出の場所の一つであるこのカフェに免じて気にしないことにしよう。咲菜と出会ったあの日声をかけてこのカフェに入った。緊張してカップを持つ手が震えていたのを今でも覚えている。付き合って三年、記念日にはいつもここに来ることにしている。それからいつものように咲菜はカフェオレを僕はコーヒーを頼み、思い出話に花を咲かせた。話に夢中になり気がつくと外は真っ暗だった。
「暗くなったし、そろそろ帰ろっか」
まだまだ話したかったけど咲菜の体のこともあるし早めに帰ることにした。
「今日は疲れたでしょ、ゆっくり休みなよ」
「ありがと、四つ目のお願いしてもいい?」
「いいよ」
「四つ目のお願いはね”イルミネーションがみたい”」
「いいね、冬になったら見に行こう」
「うん、おやすみなさい」
「おやすみ」
『いい夢が見れますように』と心の中で呟きながら病室の扉を閉めた。