訪れた不幸
夏の暑い日、僕達に不幸は訪れた。
「咲菜〜、こっち来てー!」
ソファーに座りくつろいでいた僕はいつものように咲菜を呼んだ。
「もうしょうがないな」
と満更でもない顔をしながら僕の方に向かおうと立ち上がった瞬間咲菜は崩れ落ちた。
「咲菜!!」
「ゆうと、」
「どうしたの!?どこか痛い?」
僕の質問に小さく首を振った。
「痛いところはないけど足に力が入らないの」
「とりあえず病院に行こ!」
それから急いで病院へ車を走らせた。病院に着いてからすぐに検査をしてもらった。
「私、大丈夫かな…」
「大丈夫…きっと大丈夫」
ー赤羽さん。赤羽咲菜さん、診察室にお入りくださいー
「失礼します」
「どうぞおかけください」
「先生。結果は…」
「検査の結果赤羽さんは全身型筋無力症と判明しました」
「全身型筋無力症?」
突然のことで先生の言葉をオウム返しする事しか出来なかった。
「この病気は全身の筋力が使えなくなる病気です。進行すると合併症を引き起こす可能性もあります。その場合、最終的に呼吸が出来なくなることがあります」
「そんな…何とか出来ないんですか!?医者なんでしょ!!助けてよ!」
「勇斗、落ち着いて」
「赤羽さん、山田さん。リハビリをして経過を見ていくしかないんです。そしてもう一つ伝えたいことがあります。赤羽さんは既に合併症を引き起こしている可能性があります」
「そう、ですか」
何でそんなに落ち着いていられるの?死ぬかもしれないのに。
「それで私はあとどのくらい生きられるんですか?」
「通常は、リハビリを続けていけば長く生きることは可能ですが、合併症となると進行状況によるのでなんとも言い難いですね」
「やっぱり入院ですよね」
「そうですね、早い方がいいので出来れば明日、明後日ぐらいがいいですね」
「分かりました。失礼します」
家に帰るまで一言も話さなかった。いや、話せなかった。
余命が分からないなんて、咲菜が死ぬなんて有り得ない。そんなことを考えていたら家に着いていた。この家に一緒に帰ってくるのはあと何回できるのだろう。
「どうしたの?ボーッとして、中に入ろう?」
咲菜が心配した顔で僕を見ていた。なぜいつも通りでいられるのだろう。怖くはないのか。
「大丈夫?元気ないよ?」
「元気でいられるわけないじゃないか。何でそんなに明るくいられるの、病気なんだよ?死ぬかもしれないんだよ?怖くないの?」
気づいたらそんな事を口にしてしまっていた。傷つける言葉を言ってしまった。「謝らないと」と思ったが罪悪感で咲菜の顔が見れない。
「とりあえず座って話そう」
そう言った咲菜はいつものように微笑んでいた。
「さっきのことだけど、凄く怖いよ。大丈夫なわけないじゃん。本当は今すぐ叫びたいぐらい怖い。怖くて怖くて仕方ないの」
咲菜の瞳からポロポロと涙が溢れていた。
「咲菜…」
「でもね、私決めたの、長くは生きれなくても一生分の幸せを勇斗と手に入れて、最後まで幸せに笑顔で生きるの。だから勇斗も笑って?」
「分かった。咲菜の幸せ絶対に守るから」
「ありがとう」
いつものように咲菜は微笑んだ。
次の日から咲菜は入院した。