十つ目の願い
目が覚めると咲菜はまだ眠っていた。眠っているのをいいことに頬を撫でたり、髪を撫でたりしていると少し唸って目を開けた。
「あ、起こしちゃった?おはよう」
「おは、よう」
筋力が落ちて声を出すことも辛いようだ。朝食を食べ、他愛もない話をして過ごし、夕方になった。すると、咲菜は急に苦しみ出した。急いで医師が駆けつけ一旦は落ち着いたようだが、もうすぐ咲菜には天から迎えが来るようだ。医師たちは二人にしてくれた。
「ねぇ、最後のお願い。いい?」
これを聞いてしまったら咲菜が消えてしまう気がして僕は怖かった。
「十つ目は”幸せになって”」
「え?何言ってんのさ、僕は幸せだよ?」
「違うの。私じゃない誰かと幸せになって欲しいの。勇斗のことを心から愛してくれる人と」
「…嫌だ。僕は咲菜とでないと幸せになれない」
「ごめんね、でも私勇斗が幸せになってくれないと天に行けないよ」
「そんな事言わないでよ。僕は咲菜以外の人と幸せにはなれない。今もこれからも」
「うん、分かった。…もっと一緒に居たかったな。先に行くのを許してね。ごめんね」
「僕も一緒に居たかった。絶対迎えに行くから待ってて」
僕達は涙を流しながら抱き合った。
「勇斗、キスして」
僕は咲菜の頬に手を添えそっとキスをした。
「ありがとう。勇斗、愛してる」
「僕も愛してるよ。ありがとう、咲菜」
咲菜は微笑み、目を閉じた。咲菜の瞳から一粒の涙が流れた。
そして、もう目を開けることはなかった。僕は咲菜、咲菜と名前を呼びながらいつまでも泣いた。