冒険者試験
そんなこんなで、ギルドに到着。
ギルドは二階建てで、辺りの建物と比べると一回り大きいように見える。
扉を開き中に入ると、楓にギルド内の冒険者からの視線が集まった。
楓は気にすることもなく、まっすぐ受付に歩いて行く。
「冒険者になりたい」
楓が受付にいる人に向かって、そう言い放つと楓へ向けられていた視線が驚きに満ちた。
その後、その驚きは様々なものへと変わっていった。
馬鹿にする者、興味を示す者、温かい目で見守る者、色々いるが、一部を除き全員が楓を侮っている。
全く、見る目の無い奴らだ、門番を見習え、門番を。
「えっと……ではこの用紙に記入をお願いします」
受付のお姉さん――受付嬢は戸惑いながらも、楓に記入用紙とペンを渡す。
「ん。ありがと」
楓は礼を言って受け取ると、近くにあった椅子に腰掛け、用紙に記入していった。
記入用紙を見る限り、冒険者になるためには試験があるらしい。まあ、楓なら余裕だろうがな。
と言うか、楓は今の時代の読み書きができるのか。
千年近くずっと聖域にいたのならできなくても不思議ではないのだがな。
楓は記入用紙を書き終わると、受付に提出した。
「あの……しっかり用紙読みました?」
受付嬢は少し迷う素振りを見せ、言いにくそうに楓に問いかけた。
「読んだ。冒険者になるためには試験がある」
楓は受付嬢の気持ちも知らずに、はっきりとそう答えた。
楓は一見、子供に見えるからな、受付嬢は純粋に心配しているのだろう。
だが、きっぱりと答える楓に諦めたのか、すんなり試験会場に案内してくれた。
「ではあちらの階段から地下に降りて待っていてください」
「ん。分かった」
楓は言われた通りに地下に向かっていった。
地下には何も無い大きな空間が広がっていた。
おそらく、試験用に作られた部屋なのだろう。
しばらく待っていると、一階から試験官らしき人物が降りてきた。
金髪で髪が長く、背中に大盾と槍を担いだ銀色の鎧を身に纏った女性だった。
「君が冒険者志願者か?」
その女性は楓を見ると、そう言った。
「そう。私が冒険者志願者」
女性は楓を少しの間眺めると何やら納得したように頷いた。
「なるほど……私は今すぐ合格でいいと思うが一応規則なのでな。私はアイズ。今回試験官を任された冒険者だ」
冒険者が試験官をやっているのか。
どちらにせよ、既に楓の実力をある程度、見抜いているようだし、楓を見て侮るような試験官でなくてよかった。
「私は楓。よろしく」
「カエデか、覚えておこう。で、試験内容なのだが私と戦ってもらう。こっちに来てくれ」
そう言ってアイズは部屋の中央に向かう。
結構単純な試験のようだな。まあ、その方が分かりやすくていい。
俺たちもアイズの後を追いかけ、部屋の中央に向かった。
「さて、ここらでいいか」
アイズは適当な場所で立ち止まり、背中に担いでいた盾と槍を構えて戦闘態勢に入った。
よく、槍と盾を見てみると、神秘的な造形をしている。
アイズの持つ純白の盾には、神々しい模様が入っておりありとあらゆる攻撃を防ぎそうだと感じられる。一方、純白の槍には稲妻が落ちたような模様が入っており、強力な雷の力を感じる。
どちらの武具もただの武具ではないことは一目瞭然である。
アイズ本人もそんな武具がふさわしい程の力の持ち主であろう。これは、幸先がいいな。
「さあ、いつでも来い」
「ん。行く」
楓はアイズとの距離を詰め、俺を抜刀し、初撃となる攻撃を行う。
しかし、その攻撃はアイズの盾によって弾かれる。
その後も楓は何度も剣撃を浴びせるが、アイズにすべて防がれてしまう。
さすがの実力と言った所だろうか。まだ小競り合い程度だが、その中でもアイズの実力が高いのは完全に理解できる。
二人は一旦距離を取ると、言葉を交わし始めた。
「なかなかやる」
「そちらもな」
「だから私も少しだけ本気を出す」
「別に全力で来てもいいぞ」
楓の言葉に対し、楽しそうにそう言うアイズ。
アイズはこういう戦いが好きなタイプのようだ。強い奴には戦いを好む奴が一定以上いるからな。いわゆる戦闘狂という奴だ。
「そう言っていられるのも今だけ。殲滅炎《連弾》」
楓の周りにいくつもの白い炎弾が現れ、次々に放たれていく。
その炎はアイズの近くに着弾すると、爆発を起こし、砂を巻き上げた。
アイズは多少、戸惑ったようだが、すぐさま楓が何をしたのかを分析する。
「くっ、なんだ、魔法か? 詠唱が短いのはさすがといった所か」
まあ、そう思うよな。
俺も最初見た時は魔法だと思ったが厳密には違うようだ。
楓が言うには使っているのは魔法ではなく、妖術だそうだ。
魔力を使うのは同じだが、術式構造が異なっている。
また、魔法は基本、詠唱が必要なのに対して、妖術は詠唱を必要としない。楓は大抵の場合、イメージしやすいように技名を言うけどな。
ちなみに楓が使っている妖術は様々な炎を生み出せるものらしい。
例えば、幻の炎だったり、爆発する炎だったりな。ソードブレイカーを使っていた奴との戦闘や、門番のときに使っていたのも妖術で作り出した幻の炎――魂魄炎だったのである。
「食らうといい。殲滅炎《喰龍》」
楓はそう言って地面を蹴り、跳んでからアイズに向かって妖術を発動させる。
白い炎が龍を模り、アイズへと向かっていく。
アイズは先ほどの砂煙に視界を奪われていたようで、口を開けた炎龍にいともたやすく呑まれてしまった。
その後、炎龍は大爆発を起こし消滅した。
楓は地面に着地し、炎龍の爆風に長い銀髪をなびかせた。
『おいおい、やり過ぎじゃないか?』
俺は炎龍の爆発により、一層砂煙が増した光景を見て、そう言った。
「大丈夫。威力は抑えた」
確かに、あの威力だとアイズは無事だろうが、上の連中は地下で突然、爆発音が聞こえたんだ、騒ぎになってないといいがな……。
そんなことを考えながら、俺たちは砂煙が晴れるのを静かに待った。