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呪殺剣生  作者: 朧ユ鬼。
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夜闇を切り裂く者

 未だに濃い霧を抜け、聖域に到着すると真っ先に飛び込んできたのは、宙に浮いたペンダントが光り輝いている光景だった。



「……嫌な予感」



 楓が宙に浮くペンダントを見てそんな言葉を漏らした。

 実際、その予感は当たっている。



 あれは鏖殺の紅玉。

 大気中の魔力を吸収し、その魔力を利用し強大な魔法を繰り出す魔道具だ。



 俺の以前の持ち主が敵の軍勢を殲滅するために作り出した殺戮兵器だが、まだ残っていたとは驚きだな。



 さすがにあれをまともにくらうのはまずいだろうと判断した俺は、新たな持ち主となった楓に話しかけることにした。



『あー、聞こえるかー』



「誰?」



 楓は突然の不審な声に警戒心をあらわにする。

 しかし、俺は引き続き、楓に話しかける。



『お前が今、手に持っている剣だ』



「嘘。剣が喋るわけない」



 楓は俺の言葉を聞いてより一層、警戒心を強めた。



 まあ、普通はそういう反応だよな。

 俺は《念話》を使って話しているわけだが、普通、剣が意識を持って喋るなんて思わないだろうし……だが、だからといってここで諦める選択肢は当然なしだ。



『別に信じなくてもいいが、今は時間が無い』



「時間が無い……もしかしてあれのこと?」



 楓は俺の言葉を聞いて、光り輝くペンダントを指さす。



 察しがよくて助かるぜ。



『そうだ。あれは大気中の魔力を吸収し、強大な魔法を発生させる殺戮兵器だ。逃げるのなら早く逃げた方がいいぞ』



 俺は鏖殺の紅玉が危険な物であるという説明を行った。

 しかし、そんな説明を行ったのにもかかわらず、楓の返答はおとなしく逃げるというものではなかった。



「無理。封印を解かれるわけにはいかない。どうすればいい?」



 そこまで執着するとは、一体何が封印されているというのだろうか。

 封印されるぐらいなので、よほどおそろしいものが封印されていることだけは分かるのだが……。



 俺は解除できる方法がなかったかと、自らの記憶に問いかける。



『確か発動を解除させる方法があったはずだが……思い出せない』



 存在したことは知っているのだが、何かに邪魔をされているかのようにその記憶を思い出すことができない。



 思い出せないなんて、今までこんなことはなかったんだが……封印されていた影響だろうか。

 しかも、俺はそれ以外にも何か、忘れていることがある気さえした。



「ならいい。できることをする」



 楓は俺のそん言葉を聞いても、諦めることもなく、聖域内に存在する蔵のような物に向かって走り出した。

 その横には楓が普段住んでいるであろう、木造の立派な家が建っていた。



『何をする気だ?』



 楓は俺の質問に魔法の術式を組み立てながら答える。



「結界を張る」



 俺はその回答になるほど、と相づちを打つ。



『なるほど、結界魔法か。だが、時間は足りるのか?』



 結界魔法は他の魔法に比べ、発動までに時間がかかる物が多かったはずだ。

 特に、あの鏖殺の紅玉を防ぎきるような、防御結界を張るには相当な時間が必要だろう。



「足りない。でも、やらない理由にはならない」



 おそらく、封印は外からの衝撃にはあまり強くはないのだろう。

 でなければ、こんな無茶なことはしないはずだ。



 何を言っても引き留められそうにないと判断した俺は、楓にせめてもの警告をした。



『自分を守るのも忘れるなよ』



 せっかくいい感じの持ち主が現れたってのに、死んでもらっちゃ困るからな。

 それにしても、こんなときに力になれないのは少し歯がゆいな。



「分かってる。忠告ありがと」



 なんとか簡易的な結界を張り終わると、ペンダントがより一層、輝きを増し周囲に巨大な魔法陣を展開した。



 次の瞬間、轟音と共にすさまじい熱光線が降り注いだ。

 当然、簡易的な結界では防ぐことはできずに簡単に破壊されてしまう。



「灼熱炎《障壁》」



 楓は結界が破壊されると、間髪いれず炎の障壁を何重にも展開する。



 鏖殺の紅玉は辺り一帯を焼き払い、地形を巨大なクレーターへと変化させた。

楓は熱線を完全に防ぎきることはできなかったが、致命傷はなんとか避けられたようだった。



「……やっぱり駄目だった」



 楓は元々封印があった場所を見つめながらそう言った。



 俺も楓の見つめる先へ視線を向けると、そこにはおぞましいものが存在していた。

 あまりに禍々しいその姿は巨大な赤い球体で、周りには深い深い闇を纏っていた。



『なんだこいつは……』



 俺がそう漏らすのも仕方のないことだった。

 その存在は、とてつもなく強いことは分かるが、それ以外のことが一切分からなかったのだ。



「あれは空亡。夜の闇を切り裂き現れる、もう一つの太陽」



 太陽とは思えない不気味さだが、太陽と言われても全く違和感の無い程の存在感だ。



『空亡か……こいつはやばいな、強さの底が全くみえない』



 楓がかたくなに封印に執着するわけだ。

 むしろよく封印できたものだと感心するレベルだ。



「でも、倒すしかない」



 楓は覚悟を決めたようにそう言って、俺を構え戦闘態勢に入り、すぐさま空亡との距離を詰めると、斬りかかった。

 すると突如、空亡から謎のオーラがほとばしり、楓を吹き飛ばした。



 楓はきれいに着地をすると、再び攻撃を仕掛けようと俺を構える。

 しかし、なぜか楓が動くことはなかった。

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