剣を破壊する剣
なぜか楓の持つ刀の鍔から先が消え去り、その刀身は宙を舞っていたのだ。
楓は男のやけくそな攻撃を完璧に受け流していたと思ったが、一体何が起こったのだろうか。
楓は突然のことに驚きながらも、冷静に辺りを見渡しつつ後ろに退いている。
だが、なぜか俺の方を向くと動きがわずかに止まってしまった。
強者の戦いにおいてその一瞬の隙は十分、命取りとなるものだった。
「おいおい、戦いの最中によそ見とは随分余裕じゃねぇか」
その一瞬の隙を逃さず、男が楓に向かって斬撃を繰り出す。
楓は斬撃をかろうじて回避すると、まっすぐに俺の方めがけて走り出した。
どうやら、俺を折れた刀の代わりにしようという魂胆らしい。
そこらに転がっている兵士の剣ではなく俺を選ぶとは、いいセンスをしている。
楓は俺を引き抜くと、すぐに男の方を振り向き、俺を構えた。
「すぐに代わりの剣を使うとはいい判断力だな。まぁ、その剣もさっき刀と同じ運命を辿るだろうがな」
男は先ほどとは打って変わって余裕そうにそう言った。
楓は怪訝そうな表情で男に問いかける。
「……何をしたの?」
男はまじめに答えるわけもなく、わざとらしく笑いながら答えた。
「それだけ俺の剣術が卓越していたってことじゃねぇか?」
そんなふざけた回答を楓はばっさりと切り捨てる。
「そんな訳ない」
「これは手厳しいなぁ」
即答で答える楓に男はやれやれといったふうにそう言った。
男は誤魔化そうとしているが、おそらくあの剣の能力だろう。
この世には、普通の道具とは一線を画す能力、性能を持つ物が存在する。例えば俺とかな。
それを人は神具と呼んでいた。
もっとも、俺が封印される前の大昔の話なので、今はどう呼ぶか知らないがな。
ともかく、性能差はあるが、あの剣も俺と同じく特殊な武器なのだろう。でなければ、あそこで楓の刀が折れるはずがない。
俺がそう分析していると、早速男がその解答を提示してくれた。
「まぁ折角だ、冥土の土産に教えてやろう。この剣はソードブレイカーといってな。触れた剣を破壊するのさ」
男は剣を見せびらかしながら得意げにそう語った。
わざわざ敵に情報を与えるとはただの馬鹿なのか、それとも何か狙いがあるのか……まあ、どちらにしても、あの程度の剣の能力なら俺が折れることはないがな。
しかし、武器を使う対人戦ならばその剣の能力は非常に強力と言えるだろう。
楓はそれを聞くと、その剣への回答を提示する。
「それなら触れなければいい。簡単」
そう言った次の瞬間に、楓が男の背後に現れる。
「同じ手は通じねぇよ」
男はそう言い、即座に後ろに剣を振るって楓を斬りつけるが、斬ったはずの楓の体は初めから何も無かったかのように霧散した。
「なん……だと」
「残念、それは幻。《一双》」
見事に男を欺いた楓は、驚愕の表情を浮かべる男に正面から不可避の攻撃を叩き込む。楓が放った交差した双撃は、四つの斬撃と化し、男の体を切り裂いた。
致命傷を受け、地に倒れ伏した男に楓は冷酷に言い放った。
「だから簡単って言った」
「……まさか、ここまでの強さだとはな」
そう言って致命傷を負った男は、なんとか立ち上がると、男が履いてたズボンに付いているポケットに手を突っ込んで不適に笑った。
「だが、任務はしっかりとこなすぜ」
「何をしても無駄。もうじきあなたは死ぬ」
何をするか分からない以上、警戒はしておくべきだろうが、死を目前にした男を前に、楓はすでに警戒心を解いてしまっていた。
「はは。後悔するといい」
そう言うと男は、おもむろにポケットから赤い宝石のついたペンダントを取り出し聖域があるであろう方向へ放り投げ、力尽きた。
楓は放り投げられたペンダントを見て、完全に警戒心を解いてしまっていたことが過ちだと気づいたようだった。
「……油断しすぎた。本当に後悔するかも」
楓はそう言い、倒れた男を一瞥すると、急いで聖域へ向かった。