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呪殺剣生  作者: 朧ユ鬼。
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妖怪少女

「これより先は聖域、立ち入るなら容赦はしない」



 無表情で淡々と言い放った少女は、銀色の長髪を風になびかせながらこちらの様子を窺っている。

 俺たちの周りの霧は晴れたが、少女の後ろにある霧は晴れることなく、俺の視線を拒んでいた。



 噂をすれば影とやら、まさかこんなに早く聖域を拝める機会がやってくるとはな。

 霧で聖域内は見えないが、恐らくこの霧を抜ければ聖域にたどり着けるのだろう。

 しかし、立ち入り禁止と言われる聖域にいる、あの少女は一体何者なんだ?



「誰だ! 貴様こそ、僕の邪魔をするなら容赦しないぞ」



 俺の疑問もよそに、スィーフはさっきまでの動揺が嘘だったかのように威勢よく言い放った。



「……私は楓。この聖域の守護者」



 スィーフとは対照的に冷静に答える少女。



 聖域に守護者なんてのがいるのか。

 となると、ここには触れられちゃまずいなにかが、あるってことだな。でなきゃ、わざわざ守護者なんてものがいる意味がない。



「やっぱり聖域は実在したんだ。スィーフ様。ここは大人しく帰りましょう」



 スィーフに必死に訴えかける兵士。その判断は正しい。

 だが、無能なスィーフは即座にその意見を突っぱねる。



「ふん、守護者がなんだというのだ。あんな少女に何を恐れている」



 スィーフはたかが少女と侮っているようだが、楓と名乗ったあの少女、相当な強さだ。ここにいる者は誰一人としてかなわないだろう。



 ここは、兵士の言うとおり大人しく帰るべきだ。

 だが、こいつにいくら言っても無駄だろうな。痛い目で済めばいいが……。



 「……まさか本当に聖域があったとはな。さっさと任務を遂行するか」



 兵士たちの中から、うっすらとそんな言葉が聞こえてきた気がした。

 俺は少し不審に思っていると、その直後、兵士の一人が無差別に他の兵士たちを襲い始めた。



「ハハハハ、久々の仕事だ。心躍るなぁ」



 急に暴れ出した兵士の男は、心底楽しそうにそう言いながら、手に持った剣を振るっている。

 男の使っている剣は刃と櫛状の峰を持つ変わった物だった。



 男は仕事、と確かにそう言った。ならば、こいつは最初からこうするつもりだったということだろう。一体誰の差し金だろうか、よりにもよってスィーフが調査に来たときとは、不運なものだ。



「貴様何をしている! 取り押さえろ」



 スィーフの言葉で兵士たちが男を取り押さえようとするが、敵の男は恐ろしい強さで兵士たちを次々に斬り捨てていく。



 強さの格が違う、これは全滅だな。

 俺はそう、非情な判断を下した。



 スィーフも俺を鞘から抜き応戦しようとするも、俺を振りかぶることもなく男に首を刎ねられ、あっさりとやられてしまう。



 俺がスィーフの手から離れ地面に突き刺さったときには、すでに兵士たちは全滅していた。

 こんなにも早く持ち主を失うとは思っていなかったが、別に情が湧いていたわけでもないので悲しいなどとは思わなかった。



「ふぅ。きれいになったなぁ」



 兵士姿の男は楽しそうに笑いながら楓に向かって語りかける。



「……なんで仲間を殺したの?」



 楓はその澄んだ青色の瞳で男をにらみつける。



「仲間ぁ? こいつらは仲間なんかじゃねぇよ。最初からこうするつもりだったのさ」



 楓の疑問に男はさも当たり前のように答えた。



 やはりか、ということは、狙いはこの聖域にある、触れてはならない何か、ってとこだろうか。



「ここには任務のために来たんだ。こいつらはそのために利用したに過ぎねぇよ」



 男は親指で背後の死んだ兵士たちを指しながらそう言った。



「任務?」



 楓がそう聞き返すと、男はいともたやすくその内容を教えてくれた。



「そうだ。ここにあるっていう封印を解くためになぁ」



 男が口にしたその言葉を聞いたとたんに、楓の表情がより一層、険しくなる。



「なんでそのことを知ってるの?」



 楓は今まであまりなかった男に敵対心をあらわにし、戦闘態勢に入った。



 概ね、予想は合っていたようだな。

 だが、そうなるとこいつに任務を与えた存在は何者だ? 楓の様子を見る限り、聖域に封印なるものが存在することを知っている者は限られているはずだ。



「そんなこと、どうだっていいだろう。どうせお前も死ぬんだからなぁ」



 男は当然、楓の質問に答えるはずもなく、即座に距離を詰め、楓に向かって剣を振りかぶるが、剣は虚しく空を切る。



「なっ!?」



 男は剣が空を切った理由が分からず、ただ驚愕に目を見開いた。



「あなたじゃ私は殺せない」



 楓はいつの間にか男の背後をとっており、その言葉と共に正確な一太刀を浴びせた。

 男は攻撃をまともにくらい、地を何度か転がり、完全に体勢を崩した。



 男も結構な実力者だが、楓の強さには遠く及ばない。

兵士たちとこの男のように格が違う。このまま戦闘が続けば、まず間違いなく楓が勝つだろう……そう、このまま戦闘が続けばな。



「……くっ」



 男はすぐに崩れた体勢を立て直そうとするが、楓がその隙を逃すわけもなく追撃を行う。



「遅い」



「くそがっ!」



 男はやけくそに剣を振るうが、あっさりと楓の刀によって受け流されてしまう。

 楓がそのままの勢いで斬りつけるが、不思議なことにその刃が男に当たることはなかった。



 なぜか楓の持つ刀の鍔から先が消え去り、その刀身は宙を舞っていたのだ。

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