同行
「ん? そう言われてみればそうだな……」
男は楓にその山賊顔を近づけながらそう言うと、続けて若干申し訳なさそうに謝罪の言葉を発した。
「いや、一昨日は悪かったな。少し酒が進みすぎてよ。おかげで酔いが醒めたぜ。俺はディネスト=バドスってんだ。よろしくな」
この男、山賊のような見た目とは裏腹に、酒が好きなだけの常識人じゃねえか。
ディネストしかり、楓しかり、人は見た目によらないとはよく言ったものだな。
俺がしみじみそう感じていると、ディネストが続けて言葉を放った。
「おい! お前らも自己紹介ぐらいしろ!」
ディネストがそう言うと、二人は仕方なさそうに自己紹介をした。
「……ラザー=ホートっす」
「……ユグル=ホート」
「おいおい、お前らそれだけかぁ? 悪いな、こいつら一昨日のことを根に持ってるみたいでよ」
ディネストは不機嫌そうに言う二人を見てそう続けた。
最初にディネストに楓のことを話した男がラザーで、もう一人の女の方がユグルか。
二人とも茶色の髪に一部だけ白色の髪が混ざっている。見た目も似ているため、おそらく兄弟だろう。
「別にいい。私は楓、最近冒険者になった。よろしく」
楓がそう、短的に自己紹介を終えると、ディネストはなるほどといった様子でこう言った。
「なるほど。通りで見かけねえ顔だと思ったぜ」
ディネストの言葉に便乗するようにウィムが続ける。
「それにしても、強いですね。僕たちがあんなに手こずっていた騎士を瞬殺だなんて」
楓はその言葉で先程の疑問を思い出したようで、ウィムたち四人に向かってこう尋ねた。
「それほどでもある……そういえばなんで貴方たちは魂騎士と戦っていたの?」
四人はお互いに一度顔を合わせると、代表してディネストが楓のその疑問に答えた。
「……俺たち三人はこのウィムから護衛の依頼を受けてこの森にやってきたんだ」
なるほど、この森は強い魔物が多からな。ウィム一人で行くのは危険だと判断したんだろう。
しかし、見たところウィムも結構強い冒険者という感じがするのだが、違うのだろうか。
冒険者ならわざわざ護衛依頼をしなくてもパーティを組めばいいと思うのだが……。
楓も不自然に思ったようで、そのことを尋ねる。
「ウィムの護衛? ウィムは冒険者じゃないの?」
「確かに僕は冒険者なのですが、少し森の奥に個人的な用事がありまして、ですから依頼をお願いしたのです」
なるほど、それで依頼か。わざわざ依頼するぐらいだし、おそらく、ついでに行けるような用事ではないのだろうな。
「なるほど。それなら納得」
そうして少しそれた話をディネストが本題へと引き戻す。
「それじゃあ、話を戻すぞ。それでこの森を進んでいた俺たちだったんだが、その道中でさっきの、魂騎士って言ったか? あいつをみつけてよ、その瞬間にあいつは少しやばいと思ってな。幸い、気づかれていないようだったし、先制攻撃を仕掛けたってわけだ」
あー、そういうことか。これは一概に魂騎士が悪いってわけではなさそうだな。
ディネストたちは魂騎士を厄介な魔物だと考え、先制攻撃を仕掛け、魂騎士は攻撃されたから反撃したといった感じだろうか。
「……魂騎士はこっちから襲わない限り、襲ってきたりしない」
楓のその言葉を聞いて四人は全員雷に打たれたような表情になっていた。
「ま、まじかよ」
「そ、それじゃあ」
「俺たちが戦った意味って」
「……無駄骨だった?」
そんな風に落ち込んでいる四人に楓は慰めの言葉をかける。
「でも、貴方たちの判断が間違っていたとは言わない。私も知らなかったら、貴方たちと同じ風にしたはず」
そうだな。魂騎士に先制攻撃をしたのは一つの選択肢として間違いではないだろう。
楓も魂騎士は倒しても大丈夫と言っていたし、別に問題は無いはずだ……やはり何が大丈夫なのかを楓に聞いておくべきだったかな。
俺は遠い目でそんなことを考えていた。
一段落すると楓がこんなことを言い出した。
「一つ提案がある。私も一緒に森の奥へ連れて行って欲しい」
その提案に二人は若干嫌そうな顔を、もう二人はなぜ? といった表情をしていた。
「別に構いませんが……なぜ?」
楓の突然の提案にウィムは理由を尋ねた。
「私も森の奥に用がある」
それを聞いて俺は楓が森の奥にいるという魂皇卿に会いに行くのだろうと察した。
しかし、なぜ楓は一人で行かないんだ? そっちの方が早いだろうに。気まぐれなら別にそれでもいいんだが。
『森の奥に行くなら一人の方が早いんじゃないか?』
俺は楓の真意を知るためにそう問いかけた。
その問いに楓は俺に向かって小声でこう答えた。
「冒険者だから分かることもあるかも知れない。情報収集は大切」
俺はその答えを聞いて一人で感心していた。
確かに楓の言うことも一理あるな。情報収集はまた不十分なところがあるし冒険者から直接聞いた方がいいこともあるだろう。
俺がそう思っていると、ディネストも楓の同行に快諾した。
「それなら歓迎だぜ。嬢ちゃんは強いしな。お前らもそれでいいだろう?」
「お頭がそう言うなら……」
「……実力は認める」
ラザーとユグルの二人は渋々、楓の同行を了承した。




