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呪殺剣生  作者: 朧ユ鬼。
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呪いの魔剣

 いい加減休めると思ったのだが、剣生そう甘くはないらしい。



 一振りの魔剣はため息をつきたい気持ちを抑え、自分自身のことを再確認する。



 俺の名は魔剣ティルフィング。

 持ち主の願いを三度叶える代わりに死をもたらす、誰に作られたのかも分からない魔剣だ。



 この世に誕生してからずっと剣として生き、様々な持ち主に使われてきた。

 だが、前の持ち主に封印され、もう目覚めることはないはずだった……。



 しかし、今の状況はどうだろうか、俺はある男の腰にある鞘に抜刀され、鬱蒼とした森の中を進んでいる。これが指し示す答えは、封印が解かれてしまったという、目を背けたくなる事実である。



 どうやら時が経ち、封印が弱ってしまったようで、たいして強くもない持ち主に封印を解かれ、再びこの世界に舞い戻ることとなってしまったのだ。



 また、剣としての生活が始まると思うと、本当に憂鬱になる。俺はもう少し、眠っていたかったのだがな……。

 そんなことを考えながら、俺はその元凶へと視線を向ける。

 視線の先には、いかにも貴族のぼんぼんですと言わんばかりの男がいた。



 その男は金髪、金眼で自信ありげな口角の上がった口元をしており、似合わない銀色の立派な鎧をその身に纏い、馬にまたがっていた。



 そう、今の俺の持ち主である。

 名前は確か、スィーフ=アミールといったか、どうやらここら一帯の領主の息子らしい。



 聞くところによると、有能な領主と違ってこの息子は無能なようだ。

 俺を見つけ、封印を解いたのも、きっと偶然に過ぎないのだろう。



 もっとも、その偶然のおかげで面倒なことになっているのだがな。

 全く、いくら俺が剣だからといって、持ち主ぐらい選ばせて欲しいものだ。しかし、離れようにも自らの呪いのせいでそれすらも叶わない。



 封印を解かれるにしても、もう少しいい持ち主ならよかったんだが……まあ、そんなことをいっても仕方がないか。剣としての最低限の務めだけは果たしてやるとしよう。



 剣としては最大限、持ち主に尽くすべきだろうが、俺が自我を持っている以上、好き嫌いくらいはあって当然だろう。



 そうして俺は誰に言うわけでもない言い訳を展開する。



 ちなみにスィーフには、俺が自我を持っていることは言っていない。

 これ以上面倒くさいことになられても困るからな。



 次はいい持ち主に巡り会いますように、なんてことを願っていると、突然スィーフが喋りだした。



「なんでこの僕が森なんかの調査をしなくちゃならないんだ」



 不服そうにそう言ったスィーフは、周りの兵士たちにむやみに当たっている。



 そう、今はこいつの親――領主からの命で、数十人の兵士たちと共に、果ての森という場所の調査に来ているのだ。



 はあ、それにしても本当に情けない男だ。

 今すぐにでも、持ち主を変えて欲しい。あいにくだが、こういう奴は苦手なんだ。



 俺は何度目かも分からない持ち主への不満を漏らす。だが、実際に言霊とはしていないので勘弁して欲しい。 



「こんな森なんて焼き払って、ここら一帯も領地にしてしまえばいいものを」



 スィーフはまたもや、なんの考えもなしにそんなことを言い放つ。



 それができれば苦労はしない。

 この森は、近くにある都市――エスタートと平原を隔てた場所にあるのだが、平原やこの森には魔物と呼ばれる人外の化け物が出現するのだ。実際、ここに来る際も何体かの魔物に遭遇している。



 そのため、領主は平原と違い、内部の状況が把握しにくいこの森の調査を、たびたび行っているのだろう。

 それに魔物は冒険者と呼ばれる、魔物の討伐などを生業としている者たちの食い扶持にもなっているようなので、領主はこの森をおいそれと領地にはできないのだ。



 第一、こんなに大きな森を焼き払うなど馬鹿もいいところだ。

 領主にはスィーフとは違った有能な子供がいると聞くし、信頼できる部下もいるはずだろうに、なぜ領主はこんな奴に調査を任せてしまったのだろうか。



 俺がそんな疑問を抱いていると、兵士の一人がスィーフに向かって遠慮がちにものを言った。



「し、しかしこの森には立ち入ってはならないという聖域も存在していますし……」



 俺は兵士が口にした、聖域という言葉に興味を引かれた。



 立ち入り禁止の聖域? 初耳だな、そんなものがこの森にあるのか。

 一体、どんな場所なのか気になるところだな。是非とも行ってみたいが、持ち主がこんなのでは行くことは難しいだろう。



「ふん、所詮は言い伝えに過ぎないじゃないか。そんなものがあるわけがない」



 スィーフはものを言ってきた兵士を小馬鹿にするように答える。



 どうやら、スィーフは聖域とやらの存在を信じてはいないようだ。

 だが、もしも聖域なるものが無いとしても、語り継がれてきた言い伝えなら、なんらかの意味があるはずだ。それが分からない以上、危険性がないと決めつけるのは早計だ。

 まあ、それでも俺は、行ってみたいという好奇心のほうが勝るがな。



 その後も、森を進みながらスィーフと兵士が会話していると、突然、辺りに霧が立ちこめ始めた。

 その霧はみるみるうちに濃くなってゆき、ついには視界の先が見えないほどになった。



 なんの前触れもなく、急に霧がこんなにも立ちこめるとは不思議なこともあったものだな。



 俺はさほど驚きもせず、楽観的にそんなことを思っていたのだが、スィーフは違ったようで突然のことにうろたえていた。



「な、なんだこの霧は! 急になんだっていうんだ」



 突然のことに兵士たちも少々ざわついている。

 しかし、スィーフはいくらなんでも動揺しすぎではないだろうか。

 さっきまでの威勢はどこへいったのやら。こういうときこそ持ち前の横柄な態度で兵士たちの不安を和らげるべきだろうに。



 そういえば、ここに来る際に魔物と遭遇したときも、こいつは魔物を兵士たちに任せて何もしていなかったが……まさかビビっていたのか? いや、さすがにそんなことはないだろう。いくら無能と言われていても、それなりの実力はあるはずだ……そう信じたい。



 しばらくすると、徐々に立ち込めていた霧が晴れてきた。

 そのとき、俺は薄くなりつつある霧の中に何者かがいることに気がついた。



 ……? 霧の中に誰かいる? 気配からして、兵士たちではないようだが、何者だろうか。



 霧が完全に晴れると、そこには、狐の耳と尻尾を生やした、少女が刀を持って立っていた。

 少女は銀色の長髪で青い目をしており、青と白で構成されている巫女服を着ていた。



「これより先は聖域、立ち入るなら容赦はしない」

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