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探検

「なあ? いいだろ?」

「そ、そんな、困ります」


 薄暗い部屋をそうっと覗き込めば、男女が押し問答している。特に女なんて殆ど半裸だ。


「どうせ相方だってこの戦いで死んじまったんだろ? 死人に操を立てたって仕方ないさ」


 そう言われて一方は押し黙ってしまった。


 ガタッ


「誰だい!!」


 アッフェのバカが。覗くのに必死になって足下の箱蹴飛ばしやがった。

 邪魔をされた女が、こちらを物凄く睨んでいる。その隙に男はオレたちの横を通って逃げていってしまった。


「醜男三人組が、やってくれたねぇ……!」

「いやぁ、悪い! ヴィーパーの姐さん。邪魔する気はなかったんだよ」


 アッフェは必死に謝り倒しているが、毒蛇ヴィーパーと呼ばれた半裸の女は、こちらに目も合わせようとせず、苛立たしげにしている。


「ちょっと三人、そこ並びな」


 やっとこっちを見たと思ったら、いきなり命令された。それに素直に応じるアッフェとおかっぱ。


「あんたも早く並びな!」


 オレがボケぇっとその様子を見ていると、更に命令されてしまう。アッフェとおかっぱはヴィーパーの前で直立したまま、指先だけでオレにも並ぶように指示してくる。


「ハァー」


 仕方ない、とオレら三人ヴィーパーの前に横一列で並ぶ。そうして近くで見ると、ヴィーパーは多少厚化粧ではあるが締まった体は扇情的と呼べた。


 パンッ! パンッ! パンッ!


 と三人の左頬に平手打ちが飛んできた。


「これでチャラにしてやるけど、不細工が今度私の邪魔したら、ただじゃおかないよ!」


 そう言ってヴィーパーは部屋を出ていった。



 大型ラビット二体をこちらが倒した所で、ツヴァイホースは白旗を挙げた。どうやらこの二体には相手のボスが搭乗していたようだ。

 ラビットに乗っていた奴も、陸上艦で働いていた奴も、敵側は全員地上に出され、メアリーの婆さんや恐らくその側近だろうハゲのオッサンたちが慌ただしく事後処理を行っているのを、特にやることの無いオレは地面に腰を下ろしてボケぇっと見ていた。


「暇そうだな」


 アッフェが背後からグルリとオレの顔を覗き込んできて言った。


「まあ、そうだな」


 オレがそう語ると、アッフェは親指を立てて「来い」とジェスチャーをする。


「だったら行こうぜ! 新しい陸上艦を探検だ!」


 年いくつ何だ? と聞きたくなる発言だが、実際やることが無いのだし、付き合ってもいいか、とオレはアッフェの後を付いていくことにした。そしてまるで当然のようにアッフェの横にはおかっぱがいた。食事をしていた時も話していたし、仲が良いんだろう。



 そして見つけたのが先程の逢い引き現場だった訳だ。


「痛ってえ……!」


 左頬を擦りながら三人で通路を歩く。ジャックストームとは違い、ツヴァイホースは通路に物が溢れていて歩き辛い。


「あっはっはっ、やられちまったな」


 アッフェは何が可笑しいのか一人大笑いしている。アッフェの話ではヴィーパーはよくああいうことをする女なのだそうだ。

 敵であれ街中であれ、良い男がいれば声を掛けずにはいられないのだそうだ。そして逆に不細工にはキビシイとか。


「いっそ、清々しいだろ?」


 清々しいかも知れないが、面と向かってビンタされた上に不細工と呼ばれて、内心傷付いていないと言えば嘘になる。


「おっと、調理場発見! 何かあるかなあ?」


 先程あんな目に遭ったと言うのに、オレたち三人は性懲りもなく調理場を覗き込んだ。

 そこには当たり前のようにベーアがガサゴソやっていた。


「ベーア、何かある?」

「ん? ああ、君ら三人か。ふふ、聞いて驚け、なんと肉があったのだ!」

「「何だって!!!?」」


 アッフェとおかっぱがすごい声を出して驚いている。


「マジか!?」

「ああ! 冷凍だけど確かに肉だ!」


 そしてベーアは調理場奥の銀色のドテカイ箱から、冷え冷えの肉の塊をテーブルにドンッと置いたのだった。


「やったぜえ!! こんなちゃんとした肉なんて街で食べて以来、一ヶ月ぶりだぜ!」


 すげえ喜んでいる。アッフェとおかっぱだけじゃなくベーアもニコニコだ。

 調理場で肉が発見されて喜んでいる、と言うことは、肉は食事に供されるのだろう。そしてこんなに喜んでいるのだから、きっと美味しいのだろう。だが、食べたことの無いオレには、まるで想像がつかなかった。

 だってシチューであんなに美味しかったんだぞ。その上があるとなると、え? もしかしてオレ、美味しさで死ぬんじゃない?


 そう言えば今は肉より聞かなければならないことがあったんだ。


「ベーア、お菓子はあったか?」


 喜んでいる三人を前に、オレはベーアに尋ねる。


「お菓子か。あったよ」


 おおお!! テンション上がる!

 オレは余程顔に出ていたのだろう。ベーアがあの銀色の箱から、それを取り出してくれた。

 薄い包みに包まれた厚さ5ミリ、5×10センチ程の長方形の物体だ。


「チョコレートさ」

「チョコ! 好きな味だ!」


 パフェブレッドも、さすがに一種類しかないわけじゃない。その中でもチョコとチーズは人気が高い。


「これは本物のチョコだよ」


 本物のチョコ! それだけでオレはヨダレが止まらなかった。


「ふふ、なんなら今一個食べてみるかい?」

「良いのか!?」

「三人とも今回の戦闘でかなり頑張っていたからねえ。特別だよ」

「おおお!! …………三人?」


 オレは思わずおかっぱの方を見ていた。


「何?」


 おかっぱがオレの視線に気付いて聞き返してくる。


「お前何かやってたの?」


「「「ハァー」」」


 三人に嘆息されてしまった。


「ボクがいなきゃ、フロッシュ、ツヴァイホースのボス機にやられていたじゃない」


 はあ!? 何のことだよ!? と思ったのは一瞬で、オレの脳にあの時の映像がフラッシュバックする。


「もしかして、あの時の狙撃手スナイパーって……」


 コクリと頷くおかっぱ。


「そういうことだ。こいつがうちの狙撃手スナイパーのファルケだ」


 アッフェがファルケの肩を組み、我がことのように自慢するのを、ファルケは少し気恥ずかしげにしながらも嬉しそうにしていた。

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