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「カエル! あっはははははは!」


 何やら体に振動を感じて目を覚ますと、褐色の肌をした5、6歳の女児が、オレの顔を指差しながら笑っていた。

 その肩の上で小さな猿が同じように笑っているのが、何かオレの気分を余計に腹立たせた。


「いぎゃーーー!!」


 ムカついたので顔面にベアクローを食らわせてやった。


 ズダン!


 オレの顔面の横を何かが掠める。

 ベアクローをしたまま横目で見れば壁に穴が空いていた。


「何してんだい! うちの可愛い孫娘に!」


 穴が空いた反対側のドアに、白髪をひとつ結びにした恰幅の良いババアがスゲエ剣幕で怒っている。その手には拳銃オートマチックが握られていた。

 間違いなくオレは今、あの拳銃で撃たれて死にかけたんだよな?


「とっととその子を離しな!」


 耳をつんざくその声に驚き、ベアクローの手を緩めると、女児は直ぐにオレの側を離れてババアの巨体の後ろに隠れ、顔だけ出してあかんべーをしてきやがった。


「このガキ……ッ!」


 ズダン!


「動くんじゃないよ!」


 何の躊躇もなく銃をぶっ放してくるババアのせいで、オレは一歩も動けなかった。その間もガキはオレを挑発している。


「全く、荒野で野垂れ死にそうだったのを助けてやったってのに、とんだクズを拾っちまったもんだよ」


 そう言いながらガキと目線が合うようにしゃがむと、その頭を優しく撫でてやるババア。


「何ボサッとしてんだい! 気が付いたんならとっととベッドから出な!」


 何故だろう、その声には逆らわせない強い何かがあり、オレは寝かされていたらしいベッドから降りた。

 嵌め込み式の窓から光が射し込んでいて、見ると景色が動いている。先程から足下も振動しているし、もしかして乗り物の中なのか?


アッフェ! お前が拾った男が起きたよ! ベーアの所に連れてきな!」


 ババアが通路の方に声を掛けると、ババアの肩ぐらいの体格の男が現れた。黒髪に黄色く日焼けした肌をしている。


「おう、起きたか! しぶてえな! 助けたはいいがあのまま死んじまうと思ってたぜ!」


 男はそう言いながらも、フラフラした立っているオレの肩を担ぎ、どこかへ連れていこうとする。

 この中で何をすれば良いのか分からないオレは、取り敢えずアッフェと呼ばれた男に付いていくことにした。


「待ちな」


 通路に出ようとした所で、ババアに呼び止められる。


「アタシはメアリー。この子はエリザベス。ついでに肩のリスザルは……」

「ジュリアス・シーザーよ! おばあちゃん」

「おお、そうだったねえ」


 チビザルには大仰な名前だな。


「で、あんたは何て名前なんだい?」

「…………」

「ふん! 言いたくないってんなら構わないさ。こっちが勝手に付けるだけだ。そうさねえ、あんたは今日からフロッシュだ!」

「はあ!? ふざけんなクソババア!」

「だったら名前を教えな」


 そうやってババアにギョロリと睨まれれば、こちらは何も言い返せない。


「…………フロッシュでいいよ」

「…………ふん! アッフェ! とっととフロッシュをベーアの所に連れていきな」

「行くぞ」


 メアリーのババアに言われたアッフェは、オレを担いでババアとエリザベスの元を後にした。



 連れていかれたのは、この世のものとは思えない、芳しい匂いのする場所だった。

 そこではババアと同じくらい大きな黒髪の男と、目が隠れるような栗毛のおかっぱの男が、何やらナイフで作業をしていた。


「ベーア、例の新入り連れてきたぜ。何か食わせてやってくれ」


 食わせる? と言うことはここには食い物があるのか!? そう考えただけでオレの腹が鳴った。

 それを聴いて場にいた三人から笑いが漏れる。


「分かった。直ぐに用意するよ」


 ベーアと呼ばれた大男は、何やら火を使い、その火の上に金属の何かを置いた。


「何してんだあれ?」


 もう一人のおかっぱと親しげに話していたアッフェに尋ねると、


「何って? コンロで鍋を温めてるんだろ」


 何を言っているのか分からん。


「パフェブレッドじゃないのか?」


 オレがもう一度尋ねると、三人に残念な顔をされてしまった。


「そうか、お前パフェブレッドしか食べてこなかったんだな」


 何やら肩に手を置かれて同情されているが意味が分からん。


「ま、取り敢えずフロッシュは座ってろよ」


 そう言われてテーブル前の椅子に座らされる。何が出てくるのか分からないが、何だかワクワクしている自分がいた。


 しばらくしてベーアが鍋の上部を取り上げると、その中から部屋に先程から充満していた香気の何倍も強い匂いが漂ってきて、オレは腹は鳴るはヨダレは止まらないわで体中大忙しだった。


「さあ、シチューだよ」


 器と皿がオレの前に置かれる。どちらからも蒸気が出ていた。

 器の中身は濃い茶色の液体で、所々に固形物が見られる。

 皿に載っているのは5個のクリーム色をした拳大の石ころだ。


「また蒸かしたじゃがいもかよ」


 とアッフェが顔をしかめる。蒸かしたじゃがいもとはなんだろう? だが今はそんなことはどうでもいい。目の前にはパフェブレッドではない食事が出ているのだ。

 オレは食欲と言う衝動を抑えきれず、より強い香気を放つ茶色の液体に手を突っ込んだ。


「あっつちいいいい!?」


 あまりの熱さに器をひっくり返し、火傷したかも知れない手を口に運ぶと、ヨダレと手についていた液体が混ざり合い、得も言われぬ美味が口の中に広がった。

 全身の毛穴が開き、血が目まぐるしく循環しているのが分かる。自然と涙と鼻水が流れていた。

 これが美味いと言う感覚か!!

 オレはテーブルにぶちまけられた液体を舐め取ろうと、口を近付ける。そこでアッフェとおかっぱに羽交い締めにされて止められた。


「何しやがる!」

「バカ野郎! んなもん舐めようとすんじゃねえ!」

「そうだよ。シチューならまたよそってあげるから」


 とアッフェとベーアに窘められ、ベーアによってテーブルにぶちまけられた液体は雑巾で拭き取られてしまった。ぐぐっ、何て勿体ないことを!


 その後、スプーンと言う金属製のちっちゃな皿が付いた棒を渡され、それで食事をするのだと教わった。

 初めてした人間としての食事は、工場で誰かが言っていたように、3年、いや、5年は頑張れるような美味だった。

 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら食事をするオレは、とても滑稽だっただろうが、三人は何も言わずにただオレを見詰めていた。



 そして人生初の食事を終えて、人心地ついたと思ったその時だった。


 ジリリリリリリ…………ッ!!


 部屋に、いや、この乗り物中にけたたましい音が鳴り響いたのだ。

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