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揚がる

 獣の遠吠えが聞こえる。

 ここ何日か夜に眠りに落ちそうになる頃、決まって一定の距離を置いた所で何か獣が吠えるせいで、どうにも眠りが浅い。

 いっそ来るならかかってこい! と言いたくなるが、四方を目を凝らして眺めてみても、その影さえ掴むことが出来なかった。



「ぜいやっ!」


 オレの上段からの一振りで、大サソリは真っ二つに両断された。


「はあ……はあ……はあ……」


 荒野に足を踏み入れて、もう10日は経っているが、一向にその果ては見えてこない。行けども行けども岩と砂。遭うのは大サソリだけだ。


 月光丸の扱いに少し慣れてきたことで、大サソリの駆除も楽になってきた。

 奴らはいつも数匹から10匹程の群れで行動する。

 どうやら縄張りがあるらしく、そこに入ると、初めは観察し遠巻きに取り囲み、その輪を徐々に狭めていく。

 そして獲物がその動きを止めた所で、一斉に襲い掛かってくるのだ。


 残り少なくなったパフェブレッドをからからの喉に無理矢理押し込み、それを腕の汗を舐めて流し込む。水は三日前に尽きている。

 まだ汗が出るだけましだ。最近は汗も少ししか出てこない。そろそろ命が尽きかけている。

 パフェブレッドはまだそれなりにあると言うのに、まさか水が尽きて死ぬ羽目になるとは、我ながら残念な最期だ。

 そうやって立ち往生をしていると、毎度の如く大サソリが襲ってくるのだ。

 8匹の大サソリが砂から現れると、円を作って一斉にそのハサミと尻尾で襲い掛かってくる。

 オレはそれを跳躍することでかわし、背部パックから大太刀を抜き放つと、逆手に構えて一匹に突き刺す。

 荒野に入って初めての戦闘では跳躍も出来なかったが、今のオレはピョンピョン跳ねる荒野の兎だ。

 襲い来る大サソリの攻撃を、跳ねてはかわし、を繰り返し、その合間に刺したり斬ったりすれば、8匹の大サソリはあっという間に動かぬ死骸へと替わる。


「はあ……はあ……はあ……」


 息が上がる。最初の戦闘に比べれば楽になったと言うのに、自分の体力が底を尽きかけているのが分かる。もう汗も出ない。



 ガリガリと固いものを削るような音でオレは目を覚ました。

 どうやら大サソリとの戦闘の後、オレはぶっ倒れていたようだ。何ならそのまま死んでしまえた方が楽だったろうに。

 時間は既に夜を迎えていた。静寂な夜にガリガリと何かを削るような音が響く。

 しかしこのガリガリと言う音は何なんだろう?

 オレが音のする方へラビットの首だけ動かすと、狼がそこにいた。

 何とデカイ狼だろうか。砂と同じ色をした巨大な狼が、オレが切り伏せた大サソリを一口で咥えて、それをガリガリと食べている。どうやらあのガリガリと言う音はこの狼の咀嚼音だったようだ。

 さて困った。向こうは食事に夢中でオレが目を覚ましたことに気付いていないようだが、このままではオレもサソリたちのように食べられてしまいそうだ。

 気を失ったままならそれも悪くなかったが、こうして目を覚まして生きたまま食べられるのは、御免蒙りたい。

 オレは素早く大太刀を探すと、それは少しした所に突き刺さっていた。

 気付かれないように気をつけながら、ほふく前進で大太刀まで進むと、砂に刺さったそれを、そおっと抜きさる。


「ほう……」


 と一息吐いた所に、狼の顔があった。


「わあっ!?」


 驚いて二、三歩交代すると、それはラビットの半分程の狼だ。

 混乱しながら振り返ると、デカイ狼はまだ大サソリを食べていた。二、三度両者を見比べ、ああ、こいつはあのデカイ狼の子供だ、と理解した所で、


「ウォン!」


 その仔狼が一吠えする。

 子供が泣けば親が飛んでくるのは世の常だ。振り返ればデカイ狼がこちらに睨みを効かせていた。

 やらなければこっちがやられる! オレは大太刀を両手で握り構えた。

 そんなオレに向かってノシノシと近くまでやって来た狼はまさに山のように巨大で、それに一瞬気を取られた隙に、奴の右前足がオレに向かって振り下ろされた。


 ドシンッ!


 その一撃を見事に浴びてしまったオレは、仰向けで砂にめり込んでいた。衝撃で頭がクラクラして目の前を火花が飛んでいる。

 しかし相手は攻撃の手を緩めるつもりは無いらしく、二擊目が振りかぶられたのが火花散る視線に見えたので、オレは横に回転してその難を逃れる。

 二度、三度と回転し、狼と距離を取ったと思ったら、立ち上がろうした所に、狼が襲い掛かってきた。

 両前足で機体を抑え込まれ、その大きな顎でオレを食い殺そうと大口を開ける。

 オレはその恐怖から逃れる為に太刀を矢鱈目鱈に振り回した。

 とその切っ先が狼の前足に刺さったらしく、オレは何とか狼の拘束から脱出する事に成功。今度こそ狼から距離を取る。


「はあ……はあ……はあ……」


 ごくり。いつ殺されるか分からない緊張から喉が鳴るが、溜飲する唾なぞ残っておらず、ただ口の中がジャリジャリと痛いだけだ。

 一度痛い目をみた狼は、二度、三度と距離を取ってオレの前を左右に往復すると、一気にオレのもとに駆け込んできた!


 それはオレの一瞬の判断だった。

 退いても、左右に避けてもやられる! オレは太刀を突き出し、機体の性能ギリギリまでしゃがみこむと、その跳躍力でもって狼の喉に飛んでいった!


 ズブシュッ!!


 まさか奴もこちらに向かってくるとは思っていなかったようだ。大太刀は喉に突き刺さり、骨を突き破り背に至った。

 それでも狼は手足を暴れさせて月光丸を壊そうともがく。いや、生きようと足掻いていたのかも知れない。

 オレはその狼に向かって刃を裏返すと、


 ズバシュッ!!


 その頭を一刀のもとに両断せしめたのだった。


「はあ……はあ……はあ……」


 血飛沫が舞う中、気力体力が尽きたオレは、視界が暗転し、気が遠くなっていくのを止められなかった。



「おおい、生きてるかあ?」


 ペチペチと頬を叩かれ、気が付くと、掠れた視線の先に人が見える。


「あ、ああ……」


 自分のものとは思えない掠れた声が出た。


「お? 生きてるな。おおい! 揚げてくれ!」


 眼前の人、おそらく男の呼び掛けで、オレは月光丸の機体ごと、クレーンに付いたウインチで引き揚げられたのだった。

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