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始まりの号砲

 ジャックストームのデッキで、朝日を浴びながら腰に手を当て歯を磨く。

 何の意味があるのか知らないが、ジャックストームで寝起きをするようになってからのオレの習慣だ。

 当然のように横にはエリザベスがおり、同じように歯を磨いている。と言うよりエリザベスに馬鹿にされたのでオレも歯を磨いている。


「今日も太陽はご機嫌なようだね」


 メアリーの婆さんが不機嫌に話し掛けてきた。


「太陽が不機嫌なことなんてあるのか?」


 オレが尋ねると、


「フロッシュは内陸ここいらの出身みたいだから知らないのか。海の方に行くと、太陽も不機嫌になったりするのさ」

「雨が何日も降ったりするんだよ」


 雨が何日も降る!? 冗談だろ? 干天の慈雨が何日も続いたら、水の値段が大暴落して、水屋は商売上がったりで、全店廃業じゃないか。


「いや、二人してオレを騙そうとしてるでしょ?」

「あんた騙して何の得があるんだい」


 確かに。しかしにわかには信じられないな。


「…………ハァー。フロッシュ(あんた)と話していると、こっちのリズムが狂っちまう」


 なんだそりゃ? オレとエリザベスは顔を見合せ首を傾げる。


「…………フロッシュ、どうしてエリザベスが狙われているか、聞かないんだね」

「…………知ったらエリザベス(こいつ)を盗んで何処かに逃げ出すかも知れないぜ?」

「違いない」

「確かに金の匂いはするが、同時にオレじゃ手に負えない匂いもするからな。今は素直に使われててやるよ」

「…………そうかい」


 婆さんの話も終わったらしく、オレは歯磨きを再開しようとして、目を見張った。

 ふと視線を這わせた街から、何かがこちらへ飛んでくるのが見えたからだ。


 ダァンッ!! ドォンッ!!


 至近距離でラビットの銃声が轟き、直後接近していた飛翔体が爆発する。

 咄嗟にエリザベスを抱えてデッキに臥せったが、轟音で耳がキーンとする。


「何だ今の!?」

「ロケット砲だよ!! 奴らなりふり構わずにきたみたいだね!」


 メアリーの婆さんが金切り声を上げる。その後ろでは半開きのドック上部扉から、ファルケの迷彩色のラビットが狙撃銃スナイパーライフルを構えていた。銃口から硝煙が上っていることから、向かってきたロケット弾を、狙撃銃スナイパーライフルで撃ち落としたのだろう。相変わらず凄い腕だ。


「野郎ども!! 敵さんからありがたい歓迎セレモニーだよ!! こっちの支度は出来てるんだろうね!?」


 メアリーの婆さんがデッキの伝声管で艦内に呼び掛けると、ドック上部扉が全開に開かれ、次々とラビットたちが飛び出していく。


「フロッシュ!」

「分かってる!」


 オレは婆さんに言われるまでもなく、エリザベスを抱えると、デッキ脇の梯子から、ドックへと滑り降りていく。


「ブルータス!」


 オレが呼ぶとブルータスは直ぐに走り寄ってきた。


「エリザベスを守れ」

「ウォン!」


 それだけ伝えると、オレはブルータスにエリザベスを任せ、ドックの月光丸へ走っていった。



 ドックから飛び出すと、毎度のことと言うべきか、既に街のあちこちで戦闘が始まっている。

 着地するなりオレは建物の影に隠れ、状況を整理する。


 戦闘があるのは大通りを境に右半分だ。

 ジャックストームが停泊しているのも港の右側なら、ギャレット家があるのも右奥側だから当然、ではない。

 今日までにジェームス保安官がギャレット家を除く四家の他三家と交渉して、右半分だけならば、と戦闘許可を勝ち取ってくれたのだ。

 まあ、ジャックストームからもギャレット家からも、それ相応の金が三家には渡されたらしいが。

 三家のうち一家は街の建築関係を一手に担っているため、戦闘で街が壊れれば、それだけ事業が捗る、とむしろ歓迎ムードだったらしい。

 残り二家は農園主と運送業であり、農園主は静観、運送業はこの日までに右の倉庫から左の倉庫に、引っ越しをするのが大変だったらしく、街の左に、特に倉庫に一発でも銃弾が当たったらどうなるか分かってるだろうな! と脅しを掛けてきていた。


「居やがったぞ!」


 色々考えているうち、ギャレット一家のラビット三機に見付かってしまった。

 基本的に賽の目状に街が区切られているとはいえ、大通りから路地に入れば、ラビットで動くには狭い。

 左右に避ける隙間などあるはずも無い。相手は街の構造に精通しており、その手に持っているのは、市街戦でも取り回しが簡単な短機関銃サブマシンガン騎兵銃カービンだ。


 敵が照準を合わせるよりも速く、オレは敵前面に滑り込むと、背部パックにセットされた大太刀を抜きさり、大太刀それを回転しながら横に一閃にする。

 狭い路地である。大太刀は左右の建物にも裂傷を創りながら、三機のラビットを胴から上下真っ二つに切り裂いたのだった。

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