屋敷
日も暮れた街を、ブルータスのあとを付いていくと、なんともデカい屋敷に着いた。
高い塀に囲まれていると言うのに、それより更に高い建築物が顔を覗かせ、門扉の両脇には門衛が立っている。
「なんてこった! ギャレットの屋敷じゃねえか!」
門衛から見えない角度で屋敷を覗いているオレの後ろから声が聞こえ振り返ると、ジェームス保安官がかなりビビっている。
ジェームス保安官だけじゃない。店の前に居た半分くらいの大人が付いてきていた。
「ヤバい奴なのか?」
ジャックストームくらいあるだろう屋敷に住んでる奴だ、訊くだけ野暮だろうが、訊ねるオレへの返事に苦慮する大人たち。
「この街を仕切っている四家のうちの一つだ」
つまり保安官が手を出せない相手ってことか。
「やってる仕事も恐喝から地上げに麻薬、賭博に人身売買まで、悪事の百貨店みたいな所さ」
皆それぞれギャレットと言う名には苦い思い出があるのか、皆一様に険しい顔をしている。
しかし厄介なことになった。いや、既になっているのだが。もし、エリザベスが既に何処かこの街以外の別の場所に売り払われた後だったら、オレ、マジでジャックストームの皆に殺される気がする。
とにかく、エリザベスの生存を確認しないといけないが、塀が高過ぎて覗けそうにない。
仕方がない。あの手で行こう。
ゆら~りゆらり。
「なんだ? 酔っ払いがこんなとこ来てんじゃねえよ!」
ゆら~りゆらり。
「うわっ、ちょっ、触んじゃねえよ!」
ボグッ
腹を思いっきり殴られて声も出せず悶絶する門衛①。
「おい!? どうした!?」
相棒の異変に駆け寄ってきた門衛②。その顎に素早く左回し蹴りを食らわせれば、それで気絶である。
オレの下でまだ呻いている門衛①にも、顎に一撃与えれば、同じく気絶した。
「すげえなお前」
門衛に警戒心を抱かせないように預けていた軍刀を差し出しながら、ジェームス保安官が感心している。
「昔取った杵柄って奴さ」
「…………どんな生活送ってきたんだよ」
オレが当然のように門衛から門の開閉用カードキーを取り上げ、サッと門の電子錠に通す姿に、何故だか皆引いている。
え? 麻薬中毒者とか酔っ払いとかの真似して、金持ちとか、その家襲うのって、普通じゃないの? まあ、今はその議論はいいや。
中はここが荒野のど真ん中であることを忘れさせるような、緑溢れる庭園になっていた。
幸いにも、庭園内を警らしている人影は無い。門衛二人程度の守りで、この大屋敷を外敵から守ろうなんて、不用心もいいところだ。
「だから戻らないって言ってるでしょ!!」
庭の奥の屋敷からヒステリックに喚くガキの声が聞こえてくる。あの声は間違いなくエリザベスだ。どうやらまだ街外に連れ出されていなかったらしい。
オレたちはそうっと足音を忍ばせ、声のする方へ歩みを進める。
「しかしねえ。君のご両親も君に会いたがっているんだよ」
壁全面を窓にした部屋に、長いテーブルが一つあり、それを挟んでエリザベスと白髪に口髭の男が対峙している。二人の前には、うまそうな食事が並んでいると言うのに、二人ともその食事に手をつけていなかった。解せぬ。
「はっ、あの二人が会いたがってるのは、あたしじゃなくてこの身体と頭の中身でしょ?」
「ほう? それは興味深い」
しまった! とエリザベスは口を押さえるが、時既に遅しだ。
「事と次第によっては、君をご両親の所へと送り届けるのは止めてあげても良いが?」
にちゃりと凶悪に顔を歪める男に、エリザベスは恐怖してシーザーを抱きかかえる。
睨み合う両者。しかし男の無言の圧力に、エリザベスは今にも泣きそうだ。
「ウォン!」
いや、お前が鳴くんかい! バカ犬!