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五話 仕入れ

 酒を飲み、楽しそうに騒ぎ合う客達。店員は忙しなくテーブルをまわり、注文を取っている。

 そんな中、キィと酒場の扉が開く。現れた人物は、ボサボサの髪に少し伸びた髭のある筋骨隆々な中年の男。腰に剣を提げて、服の隙間から見える肌は傷が見えている。その姿は、数々の戦場を駆けた歴戦の戦士の様だ。

  男は近くの空いているテーブルに腰掛けると店員に、


「これで飲める酒と肴を」


 と金貨を投げ渡した。店員はそれを受け取り、店の奥へ消えた。


 男は周囲の喧騒に聞き耳をたてる。



「なぁなぁ、知ってるか?王国のお偉方がこの街を視察に来るらしいぞ」

「えっ、いつ?」

「ここ数日のうちに」

「そんなに早くか、つっても視察ってどこ見んだよ、俺たちがいる宿舎じゃねえよな」

「さあな、少なくとも俺らみたいな下っ端には縁の無いもんだな!」


  そう言って笑いながら再び酒を飲む二人の男。


「……ほら、泣かないの、元気出して!」

「でも〜」

「くよくよしないでこれ飲んで忘れましょ」

「うん…………美味しい」

「でしょ!ここのお酒と料理は美味しいんだから!ちゃんと食べて飲んで、新しい恋見つけましょうよ」


 そう言って泣いている女に沢山料理を渡す女。


 ふと、すぐそばで足音が止まる。


「エールと猪肉のシチューです」


 出された物は大ジョッキに注いだエールとこれまた大きなお皿に盛られたシチューだった。それらに手を伸ばしつつ、更に注意深く周りの音に耳を傾ける。


「グリフォンの討伐なんて無茶振りすぎる!もっと簡単なのにしようよ」


 冒険者らしき人物達の会話に、


「いやしかし、今回もよく生き残ったもんだ。俺たちも立派な狩人(ハンター)だな!」


 狩人達の自慢話など、様々な会話が交わされる。料理を食べ終わった男は、店から出て、路地へ入って行った。


 周囲の目がないことを確認すると男はピエロの仮面を被った。



「来たか」

「そんな顔しないでくだせぇ時間ピッタリに来たんですから。って、旦那仮面被ってるから表情わかんねぇすけど」


 戯けた様子でやって来た彼は情報屋だ。

 トコトコと無警戒にこちらへ歩いてくる情報屋は、一般市民の雰囲気を纏っている。


「で、何かわかったか?」

「ええ、アイトラが近々、騎士団を連れて大規模な魔物狩りをするらしいですぜ、王都の西にある森に、複数の魔物が現れたようで、ギルドが熟練の冒険者パーティ複数を調査に出した。そして帰って来たのは二、三名だけ。それを国に報告したら大慌て、討伐隊が作られたって訳でさぁ」


 特徴的な語尾で話す情報屋。男はその語尾が苦手に感じていた。


「そうか」

「デカいもんはこれだけでさぁ、あとは子供好きとか、愛妻家とか、魔法が得意とかしか分からなかったですぜ」

「ああ、助かった。これが追加だ」


 男は情報屋に、金貨を数枚渡す。情報屋は金貨を数え終わると握り締めた。


「最近、特に物騒ですから、あんましこうゆうのしたくないんでさぁ」

「また次も頼む」

「話聞いて無いんすねぇ」

 がっくりと肩を落としながらも、金貨の枚数に口元が緩む情報屋は、肩を震わせ、人混みに消え入った。

  男は情報屋がいなくなったところで耳に手を当てた。


(だってよ)


 男は容姿と合わない口調で虚空に向かって話す。


(ああ、聴いてた。こっちの情報とも一致する)


 応えたのはカルマ。闇区で開発された小型の遠距離無線機である。


(それってつまり?)

(正しい情報だってことだ)

(それはわかったけど、どうするの?)

(勿論、王都に行く。そのための準備を今から行う)


 それだけ言うと、無線機はぷつりと切れた。

 男は無線機を切る速さに呆れた。だが、それがカルマらしいことも知っていた。深呼吸をした。変装したままだと動きづらい。


 仮面を外し、首に触れそこに手をかける。少しずつ顔の皮がめくれて、下から顔が現れる。ミルク色の髪、小さな唇と鼻、黒曜石のように煌めく双眸。身体も元に戻す。さっきより一回り小さくなり、脚はすらりと伸びて身体には女性特有の起伏が出現する。端整な顔立ちのその少女、ネルは伸びをすると、


「僕の性別、カルマは気付いているのかな」


 そして、カルマといる時の小柄な青年の変装をした。




 翌日、カルマ達はオジロの店へ来ていた。オジロは閑散とした店内で、欠伸を噛み殺しながら店番をしていた。

 そんなオジロに声ががかる。


「おっさん」


 カルマだ。扉に手をかけたまま話しかけて来たようだ。


「なんだカルマか、今日はどうした」


 いつもの事なので軽く尋ねる。するとカルマは道具のリストを手渡した。


「これ、用意できるか?」

「もちろんだ。だが多い、手伝ってもらうぞ」


 オジロは立ち上がると、店の奥に入って行った。カルマも後を追って店の奥に入る。

 右に左に数回曲がったあと目の前に下へ続く階段が現れた。そのまま下に降り、広い部屋に出る。オジロがライトを点けた。

 カルマは外と変わらない程の明るさに一瞬目を細た。

 かなりの大きさの部屋で、壁には三段の棚があり、そこに大量の木箱が置かれ、名札が貼られて種類別に並べてあった。


「広いな」

「まあな、仕入れたりなんだりで、こんぐれぇは欲しくなるもんだ」


 オジロは軽快に笑った。オジロが指示を出し、カルマが木箱を持ってくる。


「投げナイフ八本、短剣四本、ロングソード一本、鉈一本、短矢四十本、捕縛用短矢三本、煙玉二個、手榴弾三個、麻痺毒瓶一本、

 ポーション三本、ワイヤー四ロール、よし、これで全部だな」


 オジロは道具を全て木箱に詰め込んだ。


「大金貨一枚だ」


 カルマは金貨の三倍の大きさの大金貨を渡した。


「カルマよぉ、今日はどうした。お前がこんなに準備するなんて珍しいじゃねぇか」

「王都に行って、でかいことをするんだ」


 オジロの問いかけに獰猛な笑みを浮かべ答える。その様は無邪気な子供のようでもあった。


「そうか、ちょっと待ってろ」


 オジロは倉庫の奥へ行き、一つの木箱を持ってきた。


「餞別だ。受け取れ」


 オジロはカルマに一本の剣を投げ渡す。真っ黒な柄には銀の梟が描かれ、同じく黒い鞘には金の鷹が描かれていた。鞘から抜いてみると白く美しい刃が現れた。


「これは?」

「防御系の効果がある剣だ。持ってるだけで効果があるぞ」

「ありがとう、おっさん」


 感謝の言葉とともに鞘に戻し、腰にさげ店を出た。



 ネルと合流したカルマは、移動手段を求め、乗合場に向かった。

 沢山の馬車が並び、馬の世話をしている者や、係員に話をつけている人などがいた。乗合場でネルが出発間近の馬車を探していた。


「すいません、これどこへ行くんですか?」


 御者台に乗った女性が答えた。


「王都だよ。良かったら乗って行くかい?三人分くらいなら空いてるけど」

「ではお願いします!カルマ、良いって!」


 ネルに呼ばれてカルマが向かう。カルマは今左眼に眼帯をつけている。



「あら、かっこいい人」


 女は吐息を漏らす。


「よろしくお願いします!」


 カルマが挨拶をして笑顔を向けると、女は数十秒間頰を赤らめ見惚れていた。我に返った女は自分の頰を叩いた。


「そろそろ出発するから早く乗りなさい」


 カルマ達が荷台に乗ると、女は馬車をゆっくりと走らせた。


次から視点が変わります。

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