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三話 闇区

 

 ルークの目に最初に入ってきたものは、眩く光る満月であった。そして満月に迫らんとする幾つもの角柱の建造物が立ち並び、道の端に等間隔に設置された街灯が、幻想的な雰囲気を醸し出している。ルークは感嘆の声を漏らした。


「ここが、闇区」

「そうです。常夜の世界、科学の街でございます」

「科学の街、ですか?」


 ルークは尋ねる。


「闇区は魔法が使えない。故に魔法以外の方法で、魔法と同じような現象を起こそうとしました。そこで使用したものが、自然の法則です。そのことを私達は、科学と呼び、殆どの魔法を擬似的に発生させることが可能になったのです」


「それは凄いですね……くっ!」


 ルークが呻き声を上げ、地面に倒れ込む。身体中の傷から血が流れ、包帯を赤く染めた。


「あーあ、ナイズが沢山話しかけるから、傷口が開いちゃったじゃんか」


 ネルがナイズを責める。


「とっとりあえず医療院へ行きましょう。カルマさん」


 カルマはルークを背負い医療院まで運んだ。


 白で統一された内装は清潔感があり、そこに合わせるように従業員は皆白衣だ。その中の女性の一人が駆け付け、ルークを荷台に乗せ運んでいった。

 それを見送ったナイズは胸を撫で下ろした。


「ここに任せれば大丈夫でしょう。彼女らはみな優秀な治療師です。すぐにルークさんは目を覚ますと思います。ではカルマさん、報酬を用意しておりますので、そちらに向かいましょう」


 ナイズはカルマを誘導するように手を動かす。カルマはナイズについていこうとする。だがネルはルークが運ばれた方を見たまま動かない。


「どうかしましたか?ネルさん」

「僕は残ろうと思う。誰も居なかったら困惑するだろうし」

「左様ですか。それではカルマさん、行きましょう」


 ナイズはカルマを連れ、医療院を後にした。





「本当に置いてきて良かったのか?」


 カルマはふと疑問をもらす。


(もしルークが害を加えようとしていたのなら、ネルを残したのは失敗か?)


 ナイズは足を止め、カルマの方を見る。


「どうしました?」

「ネル一人で大丈夫かなと思ってな」

「問題無いと思います。ネルさんも十分強いので、ルークさんには負けないと思います」


 ナイズは再び歩き始めた。


「それより、いつ仮面外すんですか?とても目立ってますよ」

「ああ、そうだな」


 カルマは仮面に手をかけ、外す。すると、今まで黒かった髪が大海のような蒼色に染まった。目は鋭く尖っており、右眼は赤く、左眼は白目までも蒼い。ナイズと比べると劣るが十分に美丈夫と言える顔が現れた。


「あ、別の意味で目立ってますね」

「えっ、そうか。やっぱ被っていた方が……」

「いえいえっ、今の方がまだ目立たないですよ」


 カルマがまた仮面を被ろうとするのを、ナイズは慌てて止めに入る。




 そうこうしているうちに二人は、周りの建物より一際大きな建物に到着した。ここは闇区の役所である。

 金や銀での装飾が施された扉が自動で開く。赤い絨毯が中央に敷かれ三又に分かれ、真ん中に受付、左右にエレベーターが設置されている。左が上へ、右が地下へ行くものだ。

 カルマ達は受付を素通りし、左のエレベーターに乗った。最上階で止まり、ドアが開く。


 最上階は執務室になっている。ナイズは机の下から大きな袋を取り出した。


「これが今回の報酬になります」


 ナイズがカルマに袋を手渡す。カルマは手に取り、中身を確認した。すべて金貨で百枚以上入っていた。そんなカルマにナイズは枚数を述べる。


「金貨三百枚です」

「結構多いんだな」

「それは貴族からの依頼ですから。多くなるのも当然です」

「そうか」


 報酬を受け取ったカルマは踵を返した。


「地下にいる。ネルが来たら、よろしく」

「分かっております」




 病室のベッドで静かな寝息をたてているルークと、その側で本読んでいるネル。


 ルークが瞼を開ける。窓から月が見えている。


「夜」


 ネルが本をパタンと閉じる。


「起きたんだね」

「ここは?」

「闇区の医療院だよ。君が急に倒れたからここに運び込んだ」

「そうですか。ありがとうございます」

「お礼ならカルマに」

「はい」

「とりあえずこれ飲んで」


 ネルがテーブルに小瓶を一つ置く。


「これは何ですか?」

「ポーション。医者が、起きたら飲めって言ってた。飲んだら行くよ」

「どこへ行くんですか?」

「決まってるじゃん、カルマのところ」


 それだけ言うとネルは病室から出て行った。ルークはポーションをひったくり飲み干すと、すぐにボロボロになった服に着替え、ネルの後を追いかけた。







 役所の地下は訓練所となっている。何層にも分かれていて、闇区から兵士や冒険者を目指し訓練に励む者たちが集まっている。一心にただ剣を振るう者もいれば、組手をする者、設備を使い、擬似的な魔物と戦ってる者も居る。


 地下五階、広い部屋の中カルマは一人の人間と相対していた。いや、正確に言えば人間ではない。竜の力を持った人間、竜人(ドラゴニュート)だ。そして時折ノイズが入る。カルマの訓練の為の実体のあるホログラムだ。

 短剣を両手に持ち構えるカルマ。虚空に数字が出現し、カウントダウンが始まった。


 3

 竜人が腰を落とし、構えを取る。


 2



 1



 0

 両者同時に突進し、腕を振るう。

 カルマの短剣と竜人の拳が火花を散らす。

 短剣を竜人の首目掛け突き出す。

 竜人は首を横に倒し避ける。

 それを見切ったカルマは手首を曲げ追撃する。

 竜人は上体を反らしカルマを蹴り上げる。

 カルマはその蹴りの衝撃を利用し高く飛び、天井を踏み台にして加速し、踵落としを繰り出す。

 竜人は両腕に竜の鱗を生やし、十字に交差させ、踵落としを受け止める。

 余波が床を割り、壁にヒビが走る。

 竜人は尻尾でカルマを殴る。

 吹っ飛ばされ、壁にめり込むカルマ。口から空気と共に血を吐き出す。


 竜人は再び構え、竜化する。腕だけにあった鱗が全身を覆い、頭からツノが二本生える。全身が隆起し、竜の姿に近くなる。



 踏み込み一度でカルマに近づき、鋭い掌底を放つ。並の人間ならば一撃で肉片になる程の鋭い掌底だ。

 カルマはすぐ横に飛び回避する。

 掌底は壁にあたり壁面が粉砕した。

 竜化した竜人の攻撃は上位のドラゴンに匹敵する。

 背後を取ったカルマは尻尾を掴み回転させ床に叩きつける。

 短剣をさらに二本追加し、連続攻撃を繰り出す。


「【瞬剣陣・四重奏(カルティア)】」


 カルマは距離を取る。土煙の中から姿を現した竜人は全身に切り傷を負い、鱗が所々剥がれていた。

 とどめを刺すため接近して切りかかる。

 その瞬間、竜人は顎を開いた。顎に光が集まり

 一つの光線になりカルマを襲う。


(ここでブレスか)


 内心で悪態を吐く、体勢を低くして射線を外れ、加速する。短剣を竜人の鳩尾に突き刺す。


「【破裂する刃(バーストブレード)】」


 短剣の刃が竜人の内部で無数に分裂する。

 内側から切り刻まれ、生命が維持できず地に伏した。そして光の粒子となり消えた。




 短剣を腰に戻し、四本目を鞘に納めた時、声が掛けられた。


「やっほー。来たぞカルマ」

「結構早かったなネル」


 カルマが後ろを振り返ると、ネルが手を振っていた。その横でルークが目を見開いたまま固まっている。


(竜人を単独で倒すなんて)


「おーい、言わないの?」


 ネルがルークを突く。我に返ったルークは話し始めた。


「ああ、すいません。私はルーク・バルト・グラニス。グラニス王国の第一王子です。カルマさんはどんな不可能な依頼でもこなせる暗殺士だとネルさんに教えてもらいました。そこでカルマさんに依頼があるのです」


 そこで区切りをつけ、再び口を開く。


「この国を殺してください!」

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