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序話 暗殺士の仕事

初投稿です。拙いですが、よろしくお願いします。

 夜が最も深い時間に、動く者が二人。一人は全身を黒一色の服装で狐の面で顔を隠している。もう一人も黒一色で鬼の面を着けていた。

 彼等は依頼を受け標的(ターゲット)を殺すことを生業とする暗殺士(アサシン)である。

 今回の標的はある国の大貴族の長男だ。彼は家の威光をふりかざし、様々な悪行を繰り返してきた。父はかなり以前から矯正しようと手を尽くしたが直らず、看過出来なくなった父はこうして殺しの依頼を出したのだ。


 今彼等は、標的が泊まっている宿に来ていた。珍しい五階建てで、鉄やコンクリートを使った壁に、強化ガラスで出来ている窓。敷地内には魔法を阻害する結界が張り巡らされている。貴族が泊まるだけあって防犯対策が万全なようだ。だが、そんな砦のような建物を前にして、鬼面の男は自然と口角が上がった。


「カルマ、また笑ってるぞ」

「へへっ、ちょっと楽しみでさ。こういう難しそうな仕事はやりがいがあって」


 そう言った鬼面の男、カルマはより一層笑みを深めた。だが、そんなカルマに相棒のネルはため息を吐いた。


「その三下みたいな笑い方なんとかならないの?なんか調子狂うんだけど」

「俺の笑い方は変わらねえよ。それより、最終確認だ」

「はーい」


 ネルは懐から巻物を取り出した。巻物を広げ、魔力を通す。すると巻物に描かれた見取り図が、立体的に浮き上がり透明な小さい建物になった。そしてその建物を覆うように膜ができ、さらに青い点が膜の外側に二つ、赤い点が建物の五階に三つ現れた。


「まずはネルが結界に干渉し、無効化する。そして俺

 が一気に五階に上がり殺す」

「扉の前の護衛はどうする?」

「完全無視で、標的のみ狙う」

「わかった」

「よし!じゃあ始めるか」


 カルマの開始の合図でネルは建物の敷地に入り、結界の中枢部を目指す。




(一泊幾らするんだろう?……っと、ここか)


 結界の中枢部は建物の地下にあり、ネルはその地下への階段をみつけた。


(ここをこうして、こうすると……あいた!)


 扉を開ける、そこには暗闇が広がっていた。ネルは腰のバックからランプを取り灯した。



 階段を下り終えたところに扉が現れた。中に入ると、埃が舞った。ドムドムと機械音が部屋中に響く。音がする方へ向かうと、四角い箱があった。

箱にはおおきな魔方陣が淡く光っており箱の側面にはいくつもの管が伸びていて全て天井に繋がっていた。


(これかな)


 ネルは魔方陣に手をかざす。そして魔力を使い解除に挑む。

 魔方陣が発光し、バチバチと音を立てる。一際大きな音が鳴りネルの手を弾いた。


(っな……まずっ!)


 ネルは慌てて魔方陣から飛び退く。瞬間、魔方陣から炎弾が発射され、ネルが立っていた所へ着弾した。着弾した場所は高温になり融解していた。


(ふぅ、僕じゃなかったら溶けてたね。まあ、警報装置の解除はしたから衛兵は来ないだろうけど)


 ネルは再び魔方陣に手をかざした。数十秒後、パキンと音が響き魔方陣から光が失われた。


「後は任せたよ、カルマ」




(お、ネルの方は終わったか)


 建物を覆っていた透明な膜が消えて、ネルの仕事が終わったことを確認したカルマは、腰の鉤付きのロープを取り出し、屋根の突起に引っ掛けた。そのまま壁を登って五階に到達した。

 窓から中を覗き込む。中には人影が八人程度、鎧を着て帯剣していてターゲットの部屋の扉を守るように立っていた。


(分かってたけど、こっからじゃあ難しいか)


 カルマは屋根まで登り、魔法を発動させた。


(考えるべきは侵入経路、そして最短距離)


「【探索(テューテ)】」


 脳内に宿の構造や生体反応などの様々な情報が送り込まれ、その情報を元に最短ルートが組み立てられる。

 そして割り出した侵入から暗殺、脱出までの時間は、僅か三分となった。



 カルマは屋根にある通気口の格子をこじ開けた。すぐさま入り蓋をする。通気口内部は一階まで垂直に伸びていて、階ごとに枝分かれしている。

側面に手をつけ減速しながら降りる。五階部分まで降りたら枝分かれ部分に入り部屋へ進む。


 部屋はネルの巻物の通りのものだった。標的は不摂生な生活を送っていたのか、丸々と太っている。だが、顔は美形だったのか今でも鼻筋が通っており金色の髪と相性がよい。この寝顔も性格さえ知っていなければ中々様になる。

護衛は二人、男と女で男の方は軽装備で腰には片刃の剣を下げている。女はローブ姿で青い宝石がついた杖を装備している。寝ているのだろうか二人共目を閉じていた。

 そして部屋自体は壁や天井、家具一つ一つにまで豪奢な装飾が施され、貴族が泊まり、権威を示すためにはこの上ないものとなっていた。


 音も無く降り立ち、標的の寝ているベッドに近づく。そして標的へ毒を塗った針を撃った。


 鋭く飛んだ毒針は標的を射殺さんと彼へ進む。

 が、彼の肌に触れる瞬間、毒針が止まり、力がなくなったように床に落ちた。


(ん?)


 すぐ後ろから殺意が来る。すぐ後に殺気が来た。

 カルマは横に跳んだ。直後剣が空を切った。

 カルマは自分がいた場所を見ると、そこには剣を振るったままの状態の男がいた。


(チッ、護衛起きてたのか)


「何者だ!」


 男が声を張り上げ言った。だが、それに答える筋合いはない。未だ標的は眠ったままだ。


「……」


 カルマは男に向かい突進した。男は再度構え直す。男に向かって短剣を抜き、刺突した。しかし、仮にも大貴族の息子が雇った護衛。この程度の攻撃ではビクともしない。剣でいなし横薙ぎを繰り出してくる。

 カルマはしゃがみ、横薙ぎを回避しながら蹴りを放つ。


「うぐっ!」


 蹴りは男の腹に入り、男がよろめく。その隙に短剣を逆手に持ち、首を掻っ切るように振るう。が、又しても剣で完璧に受け止めた。


(これでもダメか)


 横から殺意が現れた。カルマは殺意が現れた方へ即座に防御障壁を展開した。

 ゴンと音がして防御障壁が破壊された。魔法である。

 魔法の威力を殺しきれず、カルマは数歩下がる。


「そんな!」


 カルマは声が聞こえた方を横目で見た。そこには護衛の女が魔法を放った状態で止まっていた。


 カルマは女に短剣を投げたが、女に刺さる間際にぴたりと止まり、落ちた。標的へ撃った毒針のように。

 そして直感した。


「風魔法か」


「正解!」


 肯定の返事とともに女は風の刃を放った。風魔法は不可視の攻撃。だが、カルマにははっきりと見えていた。


 風の刃を最小限の動きで避け、少しずつ距離を詰める。


「なんでよ!なんで当たらないの!」


 更に風刃を追加する女。しかしそれでもカルマにかすり傷さえ負わせることが出来ない。


「よそ見してんじゃねえ!【レイン・スラッシュ】!」


 男が女を庇うようにして怒涛の斬撃を繰り出す。それに距離を取るカルマ。そして一言、


「愚策だ」


 カルマの背後から血飛沫があがる。血に濡れた床に大きな肉塊が転がり落ちた。


「護衛対象を無視して仲間を守るとは。やはりお前らにとって、これは守るに値しなかったのか」


 カルマは自身の力を1%解放した。直後、カルマの赤い右眼が輝く。そして男の目の前に現れた。


「なっ!?」

「依頼達成だ!」


 驚く男の手から剣を奪い、そのまま男の首を刎ねた。男が庇っていた女の頬に赤黒い液体が付く。

 女の前で「死」が微笑んでいた。



 合流地点の森の中でネルはカルマを待っていた。


「お疲れ様」

「ああ」

「そっちどうだった?」

「最悪だ。もっと腕の立つ奴らだと思ったのに、心が弱い奴らだった」

「そう……。まあでも依頼達成したし!報酬貰って遊ぼうぜ!!」


 そして彼らは暗闇の中に姿を消した。



 翌日、大貴族ハクラス家の長男カルド・ハクラスが、護衛の冒険者二名と共に、何者かに殺された状態で発見された。


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