裏切りなんて朝飯前だ!
加工された石でできたダンジョンの奥深く、無数にある空間の一つに三人はいた・・・・・・否、籠っていた。
青白い光を放つ正方形の壁、結界と呼ばれる魔力でできた魔法の壁の中に三人はいる。そしてその壁のすぐ外には、牛の頭を持った人型の魔物、ミノタウロスと呼ばれる魔物が獲物を狙っている。ミノタウロスは魔物の中でも屈指の力を持ち、上級モンスターと呼ばれるほどの魔物だ。
その手には魔物の身の丈ほどにもある大きな斧があり、その斧で邪魔するものを破ろうとひたすら結界に向かって振り落としている。
そう・・・ミノタウロスの獲物は結界の中にいる三人だ。
「さて、まずはなぜ私たちはここに籠っているかその経緯と理由を思い返してみよう」
そんな中、そういったのは人族の魔剣士カナハ・クレアロイド。冷静な声で二人にそう問いかける。
「そうだのだ!現状確認は大事なのだ!」
大きな声で答えたのは獣人族の盗賊ロビィ・ウルフィンガル。
「そうですねー。結界の維持もそう長くは持ちませんが一度ここあたりで皆さんの意見をまとめましょう」
ちょっと間延びした丁寧語で言ったのはエルフ族の賢者マリミア・トレントス。
三人は秘宝を求めダンジョンに来たのはいいものの、途中でミノタウロスに見つかり逃げに逃げて、この空間に結界を張り、籠っていた。
「と、いうかなぜ我々がミノタウロスに見つかったのかというと・・・・理由はわかるな?ロビィ?」
そういいつつロビィに目を向けるカナハ。
そんな目を向けられたロビィはまるで気にした様子もなく、
「そんなのわからないのだー。少なくともあの時ロビィはちゃんと周りを見てたのだ!それなのに急に出てきたのはダンジョンから生み出されたからだのだ!」
迷宮に生息している魔物は、迷宮が生み出している。というのももともと迷宮というのは一つの生き物である。餌をおびき寄せるために宝を生み、迷宮に入ってきた餌を狩るために魔物を生み出す。そうやって手に入れた養分を使って、また新しく宝や魔物を生み、成長する。
これが昔から言われてる迷宮という要塞級の魔物の正体だ。
「ロビィはしっかり仕事をしてたのだ!だけど生み出されるときの魔力はわからないのだ!そういうのはマリーの仕事なのだ!」
迷宮は魔物を生み出すときに魔力という、魔法を扱う者にしかわからない粒子をまき散らす。ロビィはそれを感じ取れないため、魔力を機敏に感じ取れるマリミアがその役割を引き受けていた。
「んー?それはおかしくないですかー?少なくとも私の方では魔力反応なんてありませんでしたし、反応がない以上、生み出されたんじゃなくて普通に近寄ってきたのが正解だと思いますけどー?」
「ロビィはしっかりしていたのだ!絶対に見逃したりはしてないのだー!」
「どこにそんな確証があるんです?少なくともカナハは先頭を歩いていて、自分は中間を・・・・そして後方はロビィちゃんが担当だったはず。
なのに後ろから来たということは単にロビィちゃんが見逃してただけじゃないんですかー?」
「うがー!なのだー!」
口論するたびに熱くなってゆく二人、次第にその二人は今にも取っ組み合いが始まりそうな勢いである。
しかしそんな中一人だけ冷静に、二人の光景を見てほくそ笑む人がいた。
(・・・・どうやら今回の失敗が実は【私が不自然にあったボタンを押してしまってから】ということに気付いていないようだな。)
カナハだ。
彼女は、先頭を歩いていた時ふと壁にあからさまに怪しいボタンがついているのを見つけた。
ダンジョンというのは魔物以外にも数々のトラップも設置されており、大概の場合怪しいものを見つけたら、それらを避けて通るのがセオリーである。
だがカナハは、ボタンを見つけたときこう思った。
そういえばこれって押したらどうなるんだろう?
普通に考えれば何かしらのトラップが作動するわけだが、彼女はその時、暇だった。
そう暇だったのだ。
盗賊のロビィの周囲警戒とマリミアの魔力探知で迷宮探索は順調に進んでいった。あまりにも順調に進むあまり、魔物との戦闘や数々の困難といった刺激を期待してたカナハはそのやる気を削がれていた。
そんな時にこんないかにもなボタンを見つけ、後ろの二人は周りを警戒してこちらを見ていないという状況だ。
カナハは暇を抜け出すためにそのボタンを押すことにした。
そしてその結果が【自分達では勝てない上級モンスターの出現】といった最悪な形で達成された。
三人はミノタウロスが出現した瞬間、全力で迷宮を走り抜け、逃げ回った。それはもう全力で。だが逃げているうちに道に迷い、行き止まりにあい、ミノタウロスに追いつめられるという通常なら命を諦める状況に陥った。
咄嗟のうちにマリミアが結界を張り、ミノタウロスの攻撃を防いだがそれまで。
魔剣士であるカナハだが残念ながら結界などといった魔法は使えなく、現状マリミアの魔力が切れたらおしまいである。
そんな状況でカナハは
(冷静に考えてこれは私の所為だがそんなことはどうでもいい。バレなければどうとでもなる。それよりも考えることは、いかにしてこの場から離脱するか、だ。・・・・流石に私一人ではトラップや魔物の多いこのダンジョンから逃げるのは厳しい。それにミノタウロスの相手をしてもらうやつも欲しい。
この状況で私が無事に地上に帰るには・・・・・
一つ、ロビィとマリミアにボタンを押したことをバレない。
二つ、二人のうちどちらかにミノタウロスの囮をしてもらう。
この二つをクリアすれば、私は生き残れる!!)
大変ゲスいことを考えていた。
カナハは口論が終わり睨み合ってる二人を見て、どちらを囮に使うか考えていた。
その一方で二人はというと・・・・
(このままだとまずいのだ!
今の問題は誰がミスをしたということについて誰が悪いといった子供じみたことについてじゃないのだ!
一刻も早くこの魔物から逃げきり、地上へ行くのかが肝心。だけどそのためにはロビィ一人じゃ無理・・・・最低でもロビィの護衛に一人、そして、ミノタウロスの【餌】という名の囮役が一人。
つまり目の前にいる己のミスを認めようともしないビッチエルフと、いかにも私はミスをしてませんて顔してすかしてる外道人間が一人ずつ・・・・
ロビィは絶対にこんなところじゃ死なないのだ!)
最低である
(冗談じゃないですよー。自分にはまだやることがたくさん残ってるんです!こんなところで死んでたまるもんですかー!
そのためにはミノタウロスを何とかしなくては・・・・この際、このロビィが仕事放棄したことはいいです。自分の魔力が尽きたらそれこそおしまいですからね。そんな時間の無駄なことは避けるべきです。
その前にあの魔物の気を引く【何か】を献上しなければなりません。それに魔力がなくなった自分の護衛もやってもらわなくちゃいけません。)
最低である(二回目)
(つまりこれは・・・・・・)
(そのためには・・・・・・・)
(ということは・・・・・・・)
各々の思惑の元、三人の心が一致する。
(((・・・・こいつらのうち、どちらかを生贄にすれば〈私〉〈ロビィ〉〈自分〉は生き残れる!!!)))
こうして、いずれ世界を救う3人の女冒険者の汚い、大変汚い、生き残りを賭けた心理戦が今、始まる―――!!!
はい、書いてて思いました。第一話ひどいなと。先に謝っておきます。ごめんなさい