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平々凡々異世界旅行~遭遇編~

─眼前で剣戟が起こった。

──そして眼前で光が舞った。

───そうやって眼前で怪物が弾けた。


呆然とする俺を尻目に、軽々しく行われた命のやり取り。

それはあまりにも平凡とはかけ離れた、そしてこれから当たり前となる───俺の、大切な思い出の始まりだった。


俺の名前は馬骨平凡(ばこつへいぼん)

きっと世界を見渡せば俺より平凡な人間はいないだろうと思うごく普通の一般男性。

当たり前の世界にある、当たり前の家庭で過ごす、当たり前の人生。

特筆することも無いし思い返す必要も無い。ありふれて、溢れかえったそんな日常の繰り返し。

それが俺の人生の筈だった。

そう、その筈だったのに…


「亜ギ℃ベゥ義ァァォァァァァ!!」


目を開けたら殺意のこもった雄叫びをあげる化け物が目の前に立ってた。

え、説明不足?…そうだな、頭んなかで犬を二足歩行にしてから筋肉質にしてついでに2メートル半ぐらいにすればたぶん似てるよ。名付けて犬人間とかどうだろう!

そう、そうしてそいつがまるで幾重(いくえ)にも重なった瓦を割るかのようにその逞しい両腕を

っていやそれどこじゃねぇ!」


犬人間(仮)がその豪腕(たぶん当たったら軽く死ねる)を振り上げたのを見て俺はようやく駆け出すことができた。たぶんビビり過ぎて恐怖心が麻痺してたんだろう。さっきまでの観察眼を発揮できていた俺を褒めちぎりたい、マジで。


「クッソ、あいつバカ速い!」


走り出して数分─それもこっちは全速力で逃げ続けている─それでも引き離せないその犬人間(仮)は心なしか先程よりも速度を上げている気がするしもっと言えば追い付かれそうです助けて。それでもそうやって遮二無二(しゃにむに)走るなか掴めた状況は三つほどある。


一つ、ここはどこかの森の中である。

二つ、先程から人影が犬人間(仮)しか無いことからここは人里離れた場所である。

三つ、おそらく捕まったら死ぬ。


…あれこれ詰んでね?


「死にたくねぇぇぇ!!誰か助けてぇぇぇ!!!」


叫ぶ、全身全霊を籠めた命乞いを。叫ぶ、わりと切実に。気力はすでに果て、体力などとうの昔に尽きている。だからこそ追い付かれそうになってるのだろうし仮に無限のスタミナがあってもきっと逃げ切れない。

だってほら、現にあの化け物(犬人間(仮))の血が俺に浴びせられて──血?


「亜ギ℃ベゥ義ァァォァァァァ!!」


先程と全く同じような雄叫びが聞こえる。いや違う、あの時の叫び声と決定的に声色が異なるのだ。恐怖、そう、それも最上級たる死への恐怖。言い換えれば生存への渇望。俺が先程から上げていた叫び声となんら変わり無い、雄叫び(命乞い)

そして声をあげ続ける化け物(負け犬)の前に立ちはだかっていたのは白銀の鎧を身に纏う騎士(ナイト)と古風な魔女の様な衣服の少女(魔女モドキ)


─あぁ、現実離れした光景に目が眩む。騎士に魔女に化け物が揃い踏みとはまるでお伽噺(ファンタジー)みたいじゃないか。


そうして、既に死に体であった化け物にトドメを刺すかように騎士の剣と少女の指先から閃光が走ったかと思えば、化け物は真っ赤な肉塊へと変貌していた。


少女は黙して何も語らず、しかして騎士はあっけにとられていた俺を見据え─


「アルハザード王国第一王子、ロミオ・デレーワン・アルハザード。助けを呼ぶ声に応え、ここに参上した」


騎士(かれ)は頬への返り血を拭い捨てると─


「アルハザード王国正統後継者の名に()いてここに宣言しよう。我が聖剣イグナイトを(もっ)て君の敵は打ち倒された」


─神々しい気配を漂わせる(つるぎ)を携えた金髪碧眼の騎士はそう強く言い放ったのであった。









至らぬ所だらけですがのんびりと書いていこうと思います

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