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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第1章-オープニング-
7/13

未来翼賛会

「違うな、こうじゃない……。」

辺りが暗くなって、それまで賑わっていた生徒の声も寝静まってきた頃、幸太は自室で書面に書き記していた。

何をかというと、明日の午後に設定されている恐喝事件の裁判で勝つために、説明文を考えているのである。

パソコンに並べられている文字列はこの時ですでに万以上、もうひとつ上の単位に達しようとしていた。

「適用される罪状も、現場証拠も押さえてある。この説明なら、あの男も罪を認めざるをえないだろう。」

あの男とは、以前でくわした三体一でのリンチの場面を見たときのリーダーと思える男のことを指している。

「あまり長く起きていても明日に響くだけだ。もう寝よう。」

いつも午後11時ぴったりで寝る男にとって、一時間半越えの夜更かしは辛かった。

幸太がベッドに飛び込むと、すぐに夢の世界へ吸い込まれていった。

——実はもうすでに起こってしまった大問題を知らずに。



宮代学園は私立の学園である。

そのため、整った校舎、多様性のある部活やその部活数、委員会数にも対応できる分の部屋やグラウンドも完備されており、自由な空気が学園内に蔓延する。

しかし、自由な空間とは裏腹に、規律面でもしっかりとしている。

何をするにも生徒の自由意志なのは間違いのないことだが、一歩行きすぎた自由を保障すると、学園内が崩壊していく。

それを避けるために、宮代学園には生徒が生徒の監視をするという役割を持つ機関が存在している。

風紀委員会の中に存在する、裁判部門会である。生徒はこれを裁判部と略して呼んでいる。

この会の目的は簡単、学園内で取り締まられた生徒の刑罰を決めることである。

刑罰と言っても、実際の社会にもあるような、懲役や禁固刑というわけではない。

決めることができる刑罰は、それこそ停学何週間とか、何週間か学園奉仕とか、その程度である。


ちなみに、幸太は裁判を初めて検察側で行うので、少しの緊張が見えていた。


日が変わって朝、いつものように幸太は朝早くから学園目指して歩いていた。

周りにまだ同じ制服を着た生徒はいない。

「よし、改めて見ても、この書類に抜けてるところはない、完璧だな。」

幸太は、歩きながら書類の最終チェックを行っていた。


「あ!先輩‼︎」

「ん?」

朝の静けさを破る、綺麗な音が聞こえた。

思わず、幸太は音の聞こえた方面を向くと、そこには一学年後輩の彩女がいた。

「おはようございます先輩、今登校ですか?」

「ああ、おはよう。そうだな、今日は少し早めだよ。」

彩女が人懐っこい笑顔を向けて走ってきて、幸太の横を歩き始めた。

「園部も早いな。早起きなのは良いことだぞ。」

「いやー、私も今日は日直なのでいつもより早めに。先輩も日直ですか?」

「俺は違うな。やることがあって早めに登校してるだけだよ。」

「じゃあ、いつもはどの時間で登校してるんですか?」

幸太はその質問に答えるため、腕時計を見る。

「いまより十五分後とかだな。いつも七時には家を出る。」

「へぇ〜そうなんですか……。後でメモしとこ。」

「???」

彩女は幸太の手に目をやる、そこにはプリントがあった。

「そういえば、今日でしたか?」

「ん、そうだ。」

その言葉を聞いて、彩芽は少しだけ下を向いた。

「私、先輩のことが心配です。」

後輩からの素直な言葉に、思わず幸太は苦笑する。

「そんなにか?」

「ええ心配です。私がどれだけ注意して欲しいって言っても、先輩は聞いてくれないし、私との約束を破る上に覚えてすらないし、相変わらず危ないところに行っちゃうし……。ああ、なんか思い出したら怒れてきちゃいました。」

「え‼︎朝イチに説教は勘弁……。」

「先輩が私を怒らせるようなことをするからいけないんです‼︎」

「うっ……。」

痛いところを突かれ、言葉が出ない幸太。

「けど、それも全部合わせて先輩なんですよね。」

説教ムードから、空気が一転した。

「私からしたら、先輩には危ないところに行ってほしくないです。巻き込まれてほしくないです。……けど、私のわがままで、先輩が先輩じゃなくなったらイヤです。」

「……。」

「だから先輩……これからも、私の先輩でいてください。」

「ありがとな……園部。」

少しだけ気候が暖かくなってきた頃、二人の間には、心地よい風が吹いていた。



学校に着いた後、彩女と離れ、幸太は図書室に向かっていた。

その廊下で歩く途中、一部屋だけ騒々しいところがあった。

(こんな朝早くから、うるさいけど誰だ?)

こっそりと騒がしい部屋に近づいて、幸太は部屋の中を少し開けた戸から覗いた。

「今度こそ奴らに痛い目を見せてやるぞー‼︎」

『おぉぉぉぉぉ‼︎』

「気合い入ってんのかテメェらぁぁぁぁぁ‼︎」

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ‼︎』

「……な、何だ?」

部屋の中には、百に届くほどの人が中心にいる人物を囲んで大騒ぎしていた。

部屋の中にはむさ苦しい空気が幸太の鼻腔を通り、幸太は思わずたじろいてしまう。

(ていうか、部屋に対する人数のパンパン具合‼︎そのせいで熱気がこもってやがる‼︎)

思わず幸太は覗いていた戸をゆっくりと音を立てることなく閉めていった、しかし。

「そこに隠れている奴、出てこい‼︎」

(やべっ‼︎バレてた⁉︎)

その団体の長とも見てとれる人が、幸太が覗いていた戸を指差して言い放った。

当然、他の人間もこちらを見ている。

(もう隠れててもしょうがないか……。)

観念した様子で、幸太はその団体に姿を現した。

「申し訳ない、声が漏れていたので、何やってるのかなと思ってつい覗いてしまってました。」

幸太はこっちを向いている全員に向かって一礼をした。

「いやこちらも騒がしかったな、申し訳ない。」

中心にいた男が幸太の方向に向かって歩いてくる。

「あっ‼︎君は‼︎」

急に、密集している集団の中から声がした。

幸太はそちらを向く。

そこには昨日相手からボコボコに殴られていた男がいた。

「あなたは、確か昨日の。」

「うん、昨日ぶりだね。山本くん。」

「山本くん⁉︎君がか‼︎」

団長と思える男は、幸太の名字を聞いて驚く。

そして、幸太の手を勝手に握りブンブンと上下に振った。

「いや〜会いたかったんですよ山本さん‼︎是非こちらに‼︎おいお前ら、幸太さんのために机と椅子、あとお茶を用意してくれ‼︎」

『う〜っす‼︎』

「いやいやまだ朝ですしこれから自分用事があるんですけど……。」

「そんなこと言わず‼︎俺らは山本さんに会いたくて仕方なかったんですよ⁉︎」

団長と思える人の急な人間の変化に思わず幸太は引く。

あれよあれよとするうちに幸太に机と椅子、お茶菓子が用意された。

(だから、朝になったばっかなんだって……ありがたいけどゆっくりできん。て言うかこのうるささだと近所迷惑になってるんじゃないだろうか……。)

早すぎる流れにただただため息しか出ない幸太だった。




話を進めていくと、やはり幸太の目の前に座る男はこの組織の長だった。

名前は本並剛もとなみ たける高校三年生でいい具合に日焼けのした坊主のザ・体育会系の男である。

カッターシャツから弾け出さんとしている二の腕の筋肉を見ていると、一般よりもたくましさを感じる。

「山本さん‼︎菓子のおかわりはいかがですか‼︎」

「いやいいです。あとお願いですからあまり大声で話さないでください近所迷惑になってしまいますから‼︎」

「そうでしたなあっはっは‼︎」

剛は注意を促されても理解したのかしていないのか、返事を大声で返した。

(だめだ俺、この人とは性格も人間性も真逆すぎる‼︎)

幸太の直感が、剛は向かないと拒絶反応を示しはじめた。

「い、いや〜お茶菓子美味しかったですじゃあ僕はこれで。」

「ゑ⁉︎もう帰っちゃうんですか‼︎もう少し居ましょうよ⁉︎」

(うわなんだよこの人、どうして初対面の人にそこまでズカズカと入っていけるんだよ⁉︎)

幸太はあまりの剛の圧にもうこの場所から逃げたくなっていた。

「そ、そうしたいのは山々なんですが……僕にも予定があるので。」

「あれですよね‼︎ウチのために裁判で闘ってくれるんスよね‼︎」

「ファッ⁉︎」

どうしてそのことを、いや、どうしてそういう流れになったんだ⁉︎と、幸太は頭から大量の疑問符が出てきた。

「あれ?言ってませんでしたっけ?この集団は、『未来翼賛会』っていう宮代学園内の貧困層の団体だって。」

「は?」

「だから、今回山本さんがうちのモンを助けてくれたのは、俺らと一緒に富裕層に立ち向かってくれるっていうことでしょ?」

「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁ???」

話がグチャグチャになって、幸太は思わず先輩相手に失礼な言葉つかいをしてしまう。

「いやー山本さんの活躍はこちらにも耳に入ってますよ‼︎学校内の調子こいてる野郎どもを次々と検挙するその実力‼︎そんな人がウチに協力してくれるなんてなんとも嬉しいことだ‼︎」

「ちょっと、本並先輩、話が飛躍しすぎてますって‼︎」

剛の勢いを抑えることができない幸太は、思わず頭を抱える。

(なんてこった……、まったく抑えが効いてない。)

「今回の裁判でも、あいつら富裕層の伸びに伸びまくった鼻を根こそぎ折っちゃってくださいお願いします‼︎」

『お願いします‼︎』

(だぁぁッ‼︎こいつら、団長が脳筋だと他の奴らも脳筋なのかよ‼︎)

この場に居れない、逃げよう、そうしなければ俺が疲れる……。

幸太は一目散に部屋から走って逃げていった。

後ろも見ずにただ全力疾走であの部屋から逃げていった。

「午後に俺らも公聴人席に応援に行きま〜〜す‼︎」

幸太の背後から大きな声が飛んできた。

(い、嫌だ‼︎あんな脳筋な奴らに応援されたくねぇ‼︎あと公聴人は静粛にするのがルールだってのぉぉぉぉぉ‼︎)

とにかく全力で、あの場所から離れる幸太だった。

「廊下は走るな〜。」

「はっ‼︎すみません‼︎」

通りかかった先生に注意される幸太、これは珍しい光景だった。

(今日はついてない……、注意されたのもあいつらのせいだって畜生‼︎)

幸太はもう二度とあの部屋には近づかないでおこうと、心に誓うのだった。

なお、幸太はしばらくの間、あの出来事がトラウマになり、今日の授業終わりの休憩時間に忍び足で歩いたことは、また別の話。


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