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これが我らの部活日誌  作者: 無良独人
第1章-オープニング-
3/13

絶対にルールを守るマン2

翌日、幸太は早朝に風紀委員会の部屋へ向かった。

他の生徒たちが登校してくる前で、今は運動部の生徒たちが朝練に出向いている程度である。

それでも、風紀委員会は生徒が校内に居れば、同じく校内に居なければならない。

風紀委員も大変な仕事である。


幸太は事訳を話して、委員会室に入れてもらった。

と言っても、風紀委員のほとんどは幸太の顔を知っているので、顔パスができる程度には、風紀委員とは密である。

「しっかし、君は本当に面倒事に巻き込まれてるよねぇ。いや、自分から巻き込まれに行っているのかなぁ?」

「別に好きで巻き込まれている訳ではないですよ…。こっちも困ってるんですから。」

「とてもそうは見えないんだなぁ。」

幸太と話しているのは以前にもお世話になった風紀委員会の巡査長である。

巡査長は高等部3年生で、幸太の1つ上の先輩である。

何かと事件に中心にいる幸太を事件の度に事情徴収しているうちに、顔なじみになってしまった、不思議な仲である。

あまりに何回も事件で会うので、巡査長は会うたびに「風紀委員会に入らないかい?」と、幸太を誘っているが、毎回断られている。

しかし、めげずに何回も誘っている。


しばらくの雑談の後、幸太は本題を切り出した。

「それで、昨日あった盗難事件の話なんですが…。」

お互いに真面目な表情で話し合いを始める。

先に巡査長が、監視カメラの映像をモニターに映した。

「君が来る前に映像を見ておいたよ。確かにこれは、盗難としての証拠になるから、今日にでも犯人は特定できるだろう。」

「ただ…」と言って巡査長は言葉を詰まらせる。

「最近、これと似た事件が多発しちゃってるんだ。盗難被害を訴える生徒が、ここ1週間で2桁は来ているんだ。」

「そんなに盗まれてるんですか?」

「それも、監視カメラが届かないところで巧妙に行われているらしくてね。映像を見ても現場は映っていなくて、犯人が特定できなかったんだ。」

「盗まれた物って、やはり高価なものですか?」

「いろいろあるね。」

巡査長は後ろの棚から『盗難ファイル』を取り出してきて、机の上に置いた。

そこには沢山の盗まれた物の特徴や写真が貼られていた。

「財布は当然、他には傘、鏡、水筒…、筆箱や教科書まで盗られてるんですか⁉︎」

そこには盗人がとりそうにないものまで示されていた。

「1週間内での盗難件数は、今回のを合わせて12件。これが1件目の盗難映像だよ。」

「他は全部失敗している…」巡査長はうなだれた。

少し時間をおいて、巡査長は真面目な顔をして再び話し始めた。

「風紀委員としては、ようやく掴んだ犯人の尻尾だ。なんとしても手繰り寄せて、一連の事件を解き明かしたいと考えている。当然、盗まれたものも全て回収して、持ち主に返すまで行う。風紀委員の威信にかけて、これを解決するつもりだよ。」

巡査長の言葉には力強さを感じた。

話を聞いていると、風紀委員もこの事件に振り回されているようだ。

1週間ずっと警戒態勢を敷いていたため、風紀委員会の警備員の一部から疲労が見えていた。

それは、幸太の目の前にいる巡査長も当てはまっている。

「幸太君にも協力してもらうよ。」

「もとよりそのつもりですよ。」

幸太も即答で返した。


作戦というまでのことでもないが、今日中の流れが説明された。

「既に犯人の顔情報から、個人を特定できている。今日にも捕まえようと思えば捕まえることもできるよ。」

「いつ行動に移す予定なんですか?」

「できるなら、盗みを働く瞬間を捉えて即座に確保といきたい。向こうに言い訳できない状況を作らせるんだ。犯人が何もやっていない時に捕まえてしまうと、証拠不十分で逃げられてしまうからね。」

静かに聞いていた幸太が手を挙げて質問をする。

「でも、それだと犯人が犯行に及ぶまで待ってないといけませんし、効率悪くないんですか?もっと言えば、犯行しない限り確保にまで至りませんよ…。」

犯人が犯行を行わなければずっと確保に踏み切れない、幸太の心配は当然のことだった。


しかし、その不安は一切ないかのように、巡査長は笑って返した。

「その可能性は無いよ。僕にも何でこんなに自信があるかわからないけどね。」

「何を根拠にそんな悠長な…。」

「経験則かな。」

幸太はその巡査長の言葉に少しの嫌悪感を抱いた。

ルールや規則を重視する人間にとって、予測や勘というものはあまり好まれない。

幸太はこの時、確実に捉える方法でいきたかったのである。

その不満そうな表情を見て、巡査長は話を続けた。

「まぁ午後まで待ってなよ。今日中に捕まるから。」


巡査長のあまりに自信に満ちた表情に、何も言い返せなくなる幸太だった。




「放せッ‼︎放せよォォォ‼︎」

「大人しくしろ‼︎」

犯人の確保計画は、昼休憩の時に完了した。

犯人は抵抗を続けており、風紀委員によって地面に押さえつけられているにも関わらず、大声を出して抜け出そうとしていた。

そのあまりに大きい喧騒を一目見ようと見物客も集まってきているようで、周りには人だかりが出来上がってきている。


この騒ぎの中、本作の主人公は-

「巡査長、これじゃ取調室に連行できませんよ‼︎」

犯人を抑えるのを手伝っていた。

「ていうか何で君まで来てるの……。」

幸太の出しゃばりっぷりに巡査長は呆れていること、これはよく見る光景だ。


「…先輩、また騒ぎに首を突っ込んだのですか……。」

突然、幸太の後ろで低い声が聞こえた。

ギギギ…と機械音が立ちそうな動きで後ろを見た幸太。

当然後ろにいたのは、幸太の所属する写真部の後輩、園部彩女だった。

「昨日あれだけ反省していたのに1日経つとすぐに忘れるなんて、本当にイケナイ先輩ですね〜。」

「そ、園部。これはちゃんとした理由が」

「理由があれば、大切な後輩との約束を破ってもいいと、ルール第一主義のお方がそう言うのですね?意外ですね〜。」

「だ、だからさ……」

外野は幸太と彩女の状態を見て、さらに盛り上がってくる。

「おいおい、今度は痴話喧嘩か?」「リア充の爆発の瞬間が見れるぞ〜!」「私たちはああいう風にならないようにしようね?」


外野は騒ぎ立てるし、彩女は機嫌を直してくれる気配は一切無い。

その状況に、幸太は思わず声をあげる。

「ああ〜ちゃんと説明するから‼︎園部、今は見逃してくれよ‼︎」


こうして犯人確保作戦は、幸太と彩女の大活躍によって成功したのでした。

ちなみにこれ以降、幸太と彩女のコンビは注目度を上げるようになってしまったのは、また別の話。



さて、騒がしかった昼休憩も残り10分となり、外野も各々教室に戻っていった。

暴れていた犯人は疲れて大人しくなり、抵抗をすることなく風紀委員の詰所に連れて行かれた。

幸太も彩女もそのチャイムを聞き、教室に戻ろうとしていた時、巡査長に呼び止められた。

「幸太くん、戻る前にちょっといいかい?」

「いいですけど、できれば早めにお願いしますよ。授業に遅れてしまうので。」

「わかってるよ。午後の授業終わりに、そこの女の子と一緒に詰所まで来てくれないかい?」

彩女はその言葉に、思わず返した。

「でも、犯人は捕まりましたよ?私たちはもう用無しじゃないんですか?」

「いや、校内や校外を撮影している君たちにしか頼めない事なんだ。」

「……写真ですか?」

「そう、君たちが撮った写真で、直近1週間の写真のデータを貰いたいんだ。」

「理由は?」

「済まない、現地点では言えないけど、君たちの写真が必要なんだ。……お願いします。」

頭を下げて頼み込む巡査長に真剣味を感じた幸太は、すぐに答えを出した。

「顔をあげてくださいよ。分かりました、今日中にまとめてデータを渡します。」

「ありがとう。」

許可を得られた巡査長は顔をあげた。




「俺は指示されていただけだ‼︎」

部活が始まり、それぞれで活動が始まった中、今回の写真部は少し違った。

主に活動する二人は風紀委員会にお呼ばれし、今は取調室を室外から見ていた。

マジックミラーであるため、中に入っている犯人からは見えないが、外から部屋の様子を巡査長と一緒に見ているという構図になっている。

余談だが、この犯人の名前は岡井翔吾おかい しょうごということが、先ほど明らかになった。

静かに聞いていた中、口を割ったのはやはり幸太だった。

「なかなか口を割りませんね。」

「……。」

しかし、巡査長は答えなかった。

どうやらすごく考え込んでしまっているようで、幸太の声は届いていないらしい。

「……どういうことだ、被害者の人たちの報告と噛み合わない点が幾つか出てくるぞ…。」

「え……?」

巡査長は持っているメモを強く握り絞める。

その表情には困惑が見えていた。


こちらの流れを知った事じゃ無いというように、部屋の中の犯人は事情を話していく。

「おれは、元々こんなことはやめさせようとしたんだ‼︎だけど、あいつらは全く聞いてくれなくて……。」

「やめさせようとって、どういうことだ?」

「白状するけど、これまでの盗難事件は全部俺たちがやったんだ。監視カメラの位置も、入念に調べて死角を探した。そしたら数か所あって、そこなら成功すると思ったんだ。」

「その言い分が本当なら、お前は進んで盗みをしているととれるが?」

「……最初は進んでやった。それがあいつらのためになるならと思って。けど気づいたんだ。これじゃ、あいつらの為にはなってないって……。」

岡井は言葉につまり、俯いたままになってしまった。

しばらくの静寂、取調室の中も外もまるで誰もいないかのようだった。


しかし、岡井は犯罪を認めた。

そして新しい情報も落とした事、これは巡査長にとっては喜ばしい事だった。

さらに、この事件にはまだ犯人が残っているという事、これもまた風紀委員としては見過ごせない情報だった。

「それで、肝心の『そいつら』の名前は?」

「……前田京子と、前田明子です。」



「事件もそろそろ収束がつくだろう。」

「良かったですね。」

取調室を出てからの第一声は、巡査長の嬉々とした声だった。

1週間前から起こっていた盗難事件をずっと追っていた人にとって、事件解決へ向かうのはやはり嬉しい事らしい。

横で彩女は巡査長への賛辞を送っていた。


しかし、幸太だけ浮かない表情をしていた。

「……巡査長、さっき犯人が言っていた人って、明らかに女性ですよね。」

「確かにそうだけど、どうした?顔色が悪いよ。」

「そうですよ、どうかしたんですか先輩。」

幸太は、真犯人が女性だという事にも驚いていたが、それよりも気になる事があった。


--なぜ、被害者の女性は風紀委員会に申し立てなかったのだろうか。

--なぜ、被害者の女性はあの場所に居なかったのだろうか。

--なぜ、こんなにも落ち着かないのだろうか。


様々な疑念が幸太の頭の中を巡る。

詰所の中を、幸太は足早に進んで行く。

「ちょ、先輩、歩くの早いですって。」

「そうだよ幸太くん、少し落ち着いて。」

「あ……。ごめんなさい。」

二人を置いていっていたことに気づいた幸太は、少し速度を落とした。

しかし、それでもまた少し時間が経つと、早い速度に変わっていった。


幸太たちが向かった先は、風紀委員の詰所内にある情報室である。

簡単に言えば、今まで起こった事件の解決手段や、生徒情報、宮代学園史など、風紀委員会が持つ情報がすべて集約されたコンピュータルームだ。

ここで犯人の情報を集めることができるため、風紀委員は犯人を特定できるわけである。


「前田京子……高等部3年1組。過去に犯罪歴はナシ。」

名前を調べると、顔写真とともに情報も出てくる、なんとも便利なものを持っている。

巡査長は画面を下にスクロールさせ、さらに深く情報を引き出す。

幸太と彩女は巡査長が座る椅子の両サイドに椅子を持ってきて座っていた。

「よし、京子さんの情報はこんなところでいいかな。次は明子さん。」

巡査長はキーボードを器用に叩き、名前を打ち込んでいった。

-前田明子、検索。

やはりヒットした。

顔写真が出たと同時に、幸太の顔は驚きの表情へと一気に変わった。

「や……何で……。」

「?どうしたんだい、幸太くん。」

「巡査長、園部。この人は……昨日俺が見た被害者の女性です。」


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